第102話 ヨウキャのヨウは溶解のヨウ!?

「鳥岡くん……この日が来ましたね」


「はい……来ましたね」


 あれからユウヤと真銅は様々なトレーニングを積んだ。護身術、隠密行動、そして様々な戦術……付け焼き刃なところはあるが、少しでもチーム・ウェザーの野望を食い止めるためには少しずつでもやらなければならなかった。


 これまでは敵が攻めてきて戦う、ということが多かった。だが今回は直接敵地に足を踏み入れなければならない。これまでとは段違いのメンバーが一斉に攻撃を仕掛けてくることは十分ありえるし、ヒビキやアズハ並の実力を持つ者だってきっといる。それに、そもそも道中で刺客に暗殺されてしまうことだって……


 ユウヤはもはや疑心暗鬼だ。仲間だと思っていたシュウタロウが実は敵陣営であったこと、そして自分自身も、生まれはその敵陣営であるらしいこと。何だか恐ろしく面倒なことが近い将来起こってしまうような気がするが、ユウヤはとにかく信念を貫き、今やるべきことをやるしかない。


 そう固く決心していると、真銅が咳払いをしてから低いトーンで話し始めた。


「鳥岡くん……準備はいいですか? 今から早速、チーム・ウェザーの拠点に近付きます。ただし、お互い奴らに顔も名前もバレている。だから街中でも十分に注意しないといけない、いいですね」


「はい……」


「はい。それでは早速、これを」


「……えっ!?」


 真銅が手渡してきたのは普通の背広とシャツ、伊達メガネに腕時計、そしてスーツケースだった。


「ついこの前。他の大学へ車で移動してる時、突然奴らに見つかり襲われました。つまり、私達の動向は全て把握されている可能性があるんです」


「でも、それだとこの服装じゃ全く意味が無いんじゃ……」


「はい。だからこそ“紛れ込む”んです。新幹線にはビジネスマンがありふれていますから、その中に紛れ込む! 木を隠すなら森の中というやつですね」


「そ、それ解決になってますか……大学襲撃するようなヤツらですよ」


「大丈夫です……とにかく駅まで歩いて向かいますよ、車のナンバーはこの前バレちゃったので、奴らに」


「そ、それかなりヤバいんじゃ……」


 ユウヤと真銅は駅まで歩いて移動することになった。正直、外は妙に暑かったが、車で移動して交通事故を奴らに起こされてはたまったもんではない。明らかに季節外れの道を、水分をガブガブと飲みながら進む。


「くそ、なんで4月なのにこんなに……」


「はい……今日は異常なほど暑いですね、これで25℃なんて信じられません……」


「まるで8月とかじゃないですか、これ……温暖化にも程があるや……」


 あまりにも疲れた2人は道中にあったモールの屋根の下で休憩を取ることにした。ちょうどアイスも売られていたので、少しでも涼めるかもしれないと2人はアイスを購入してベンチに腰掛けた。


「よっこらせ、と……あぁ、回復する〜」


「いやぁ、ここまで暑い日があるなんて……ん?」


 真銅は違和感を覚えた。ここまでの道中はかなり蒸し暑く、もはや猛暑だと表現しても差し支えない。にも関わらずこ周りを見渡しすとまだ薄いアウターを着用している人ばかり目に入る。


 さらに、異常な現象が目の前で起こった。買ったばかりのアイスが一瞬にして溶け、液体状になったのだ。


「な、何ぃぃぃ! アイスが飲み物になったああああ!?」


 まだ購入して1分も経ってないし、そもそもここは日陰だ。他にアイスを購入した人に同じようなことは起きていないのに……それにそもそも、謎の暑さを2人は回避できていない!


「……鳥岡君、近くに何者かがいるかもしれません!」


「……え、どういうことですか?」


「ここまでの道、気温が高かったのではありません……私達が直接、じわじわとんです!」


「ね、熱されていた!? 確かに日陰に入ってもあまり変わらないし……そ、それにアイスが溶けたどころか、蒸発し始めているっ!」


 2人が周りに敵がいないか警戒していると、髪の毛をいじりながら笑顔でこちらに向かってくる女を見つけた。まるで街中で友達に偶然会ったかのようなテンションである。


「え、え、え! やっほ〜、ウチよ、ウチ! どうしちゃったの、そんなに汗だくになっちゃって」


「え? あぁ、ちょっと妙に暑くて……って誰ですか?」


「もぉ、白々しぃ〜。ほら、サークル同じじゃん。それにこのロングヘアー、トレードマークのウチといえば、でしょ?」


「いや知らねぇよ」


 ドッキリ企画か何かか、これ? ユウヤも真銅もこの女を知っているどころか、見たことすらない。にも関わらず、周りの目なんて気にせずまるで友達のように関わり続けられる。


「ほらー、脱水とかで倒れたら怖いでしょ? はいこれ、新しいアイス」


「えぇ……ど、どうも」


 食えるワケがない。見知らぬ人から手渡された食べ物など。ましてやこの女は見るからに何か怪しい。とにかく刺激しないようにアイスをとりあえず受け取ろうとユウヤが手を伸ばすと、女はニタリと笑ってアイスのカップを裏返しユウヤの手にアイスを落としてきた。


「うわ冷っ……いや熱い、熱いぞこれ、焼き立てアイスだあああああ!」


「キャハハハハハ! 簡単に引っかかったねぇ、私は石坪ヒナ! そして錬力は”熱“を操り、やがて溶解させる力! 氷だろうと鉄だろうと、平等にね!」


「お前も……チーム・ウェザーの仲間か!」


 ユウヤはヒナに問う。だが、髪を異様にいじくるヒナから返ってきたのは意外な返答だった。 


「チーム・ウェザー……? あぁ、ニュースによく出てる人達ね。残念だけど全くの別人よ。ただウチは、人にドッキリを仕掛けて楽しみたいだけ……たまに大怪我大騒ぎ、起こしちゃうけどそれもスリルなの」


「くそ……何でそのようなことを!」


「……あのさぁ、そんなに悠長におしゃべりしてていいの? アンタ達は暑さに耐えきれずここに逃げてきた。だけど実際汗かいてるのアンタ達だけだし、暑いと感じたのはついさっきではなく、大学を出てからずっと……その意味が分かるかしら?」


「……せ、先生! スーツが、ドロドロです!」


「え……? きゃっ、スーツが溶けていく!?」


 車ではなく徒歩の選択。それにより、チーム・ウェザーとは別の女、ヒナに襲われることとなってしまった。体力は未だジリジリと減り続けている、どうするべきか……!?





 

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