第85話 隠された指示
「……痛えええええええ! あいつら絶対わからせてやる、絶対にいいいい!」
「元気すごいですね……私はしばらく、動けないかも……イテテ……」
一方、イチカとカエデもユウヤと同じく痛みに苦しんでいた。カエデは治癒技を会得してはいるが、それを行おうにも体中を走る激痛がそれを拒む。
「それにしても……あの人、とんでもなく強くて……もっと私も特訓しないといけないなぁ」
「あぁ……ウチもびっくりした、今まで見てきた奴らと比べてもその強さは段違いだ」
突如カエデ達と対峙した男、ケンジ。カエデ、イチカ、そしてユウヤの3人で同時に戦ったにも関わらず、ケンジには惨敗してしまったのだ。
今は体が痛くて動くのすら精一杯、だけど1秒でも早く、1秒でも多く特訓してチーム・ウェザーを壊滅させなければ、身内やさらなる人々にその被害が行き渡るかもしれない。
2059年現在、特殊錬力隊という組織がこの国には存在している。
錬力術を用いて様々な難事件を解決したり、また人命救助などを行う組織である。だが、彼らも暴走したヒカリの前には手も足も出なかった。
無論、特殊錬力隊は無能などではない。彼らも過酷な訓練を長期に渡って受けているし、自分達の実力は彼らに遠く及ばないだろう。だとしても、自分が動いていないということ自体が歯がゆいことであった。カエデとイチカは握り拳で、自分のベッドを殴る。
そんな時だった。用事から戻ってきた真銅がカエデ達の部屋を手土産を持って訪ねてきたのだ。
「失礼します……月村さんと、お友達さんで……間違いありませんね」
「あっ、先生! ありがとうございます…」
「せ、先生……!? なんか、民族衣装にスーツ組み合わせたみたいな服――」
「こらこら、初対面でそういうこと言わないものですよ。これはちょっとした土産です、よければどうぞ」
真銅が手渡したのはチョコレート、それも最近SNSで話題のものだ。思いがけない差し入れにカエデとイチカは思わずテンションが上がる。
「ありがとうございます! でもなんで……」
「……2人とも、かなり痛い思いをしたそうですから。あっ、私はそろそろ行きますね、資料作成がありますので」
そういうと真銅はそそくさと部屋を出てしまった。なぜあんなに急いでいるんだろう、とカエデが疑問に思ったのを横目に、イチカは真っ先にチョコレートの封を開ける。
「うおー、やっぱり美味しそうだ――ん、なんだこのメモ?」
「ん? どうか……した?」
イチカが開けた包装には1枚のメモが挟まれてあった。工場での異物混入などというよりは、間違いなく誰かが後から挟んだような形式だ。イチカは早速、そのメモに目を通してみる。
“このメモは必ず肌身離さず持ち歩くこと。
「ん、何だこれ? 肌身離さず……あの人が挟んだならとんだ厄介者じゃねーか……なぁカエデ、そっちはどう?」
「ええっと私は……特に何も入ってないけど……」
「うーん、意味が分からないぞ……あぁ、怪我中くらい頭も休ませてくれぇ……」
考えても考えても意味を読み取れないイチカはすっかり疲れ果て、そのメモを枕元に置いて眠りにつくことにした……が、ふと寝返りを打った瞬間、柑橘系の香りがイチカの鼻を刺激した。
「う、うおおおおっ!」
「ど、どうしたの、いきなり!?」
「このメモ、レモンみたいな匂いする! 苦手なんだよウチ、レモンの味も匂いも! あのおばはん、もしかして唐揚げにとどまらずチョコにレモン絞ったりしてるのか!? ウチには理解できねねぇよ……」
なんだかイラッとしたイチカはそのメモを手に取り、握りしめてゴミ箱めがけて投げつけた。
「えっ、大丈夫? ずっと持っとけって書いてたんでしょ、もしかしたら重要なことが……」
カエデは捨てられたメモを伸ばし、念のため開いてみると、なんとメモの下の方に何やら地図のようなものが浮かび上がっていたのだ。
「……あれ、何でしょうかこれ」
「ん? どうした?」
「いや、何やらどこかの地図らしきものと日付が……」
「……ホントだ、でもウチが見たときはそんなもの書いてなかったのに」
イチカは意図していなかったが、どうやら火の錬力術を発動してしまっていたらしい。それにより果汁で書かれた地図と日時が炙り出しされたのだろう、それに気付いたカエデとイチカは互いに顔を合わせて頷く。
「……行きましょう、必ず治して」
「……ああ!」
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