第84話 誕生、ディジェフティフ

「うぅ……痛い……」


 ユウヤはベッドの上で相変わらず体の痛みと戦っていた。2日後には治るという治療技を真銅から受けたものの、その効果はまだほとんど現れてはいない。


 だが、ユウヤにとって、ただじっとしていることはできなかった。せめて作戦でも新技でも考えられないかと、仲間と話し合おうとしていた。


「タケトシは捕らわれの身、カエデとイチカはオレと同じように満身創痍、でもシュウタロウはよく分かんねぇし……いないな、メイしか……」


 ユウヤはメイのことをあまり信用できずにいた。あまり積極的に戦っているイメージがないし、何より変人、ミステリアスな人といった感じだしで……栄田マスターは確かにメイのことを「錬力術の実力者」だと話していたが、それを自身の目でちゃんと確認してはいない。

 

 正直期待はしていないが……ユウヤはメイに通話をかけてみる。


「もしもし、オレです……ユウヤだけど」


「あらあら、急にどうしたゲホォッ……いかがなさいましたの?」


「無理してキャラ作らなくていいよ……実は近々、奴らの拠点に忍び込むつもりで」


 ユウヤは大まかな作戦を伝える。もし来てくれたら御の字くらいの期待度で……だが、意外にもメイは乗り気だった。


「もちろん行きますわよ! 実はわたくし最近不沈陽しずまずの動向が気になってまして、彼のことを監視していましたの、このボールで」


「し、不沈陽しずまずのことを!? 一体なぜ!?」


「彼の例の動画のコメント欄、気になるコメントを見つけましたの。偶然ですが……」



ーーーー

《まずはこれ! これからの時期にオススメの指輪! アクセを付けていると……》


『最近この人のばっかり流れてきますわね……個人的に嫌いだしアンチコメントにいいねでもつけてやろうかしら、日付順にっと……ん?』


“この指輪の古いやつ買ったけど変な金属音みたいなの聞こえて草”


”ニュースで見たチーム・ウェ●ーのインタビューに出てた人、こいつと声と話し方がそっくりなんだよなww別にアンチでもないけどw“


『チーム・ウェザー……』


 そう。メイは偶然、何の変哲もない動画に気になるコメントをいくつか見つけたのだ。もしかしたら何か情報を掴めるかもしれない、そう思ってコメント欄をあさっていると……


『……あれ、変な声とかインタビューがとかっていうコメントが消されましたわ』


ーーーー



「これは可能性の話。ですが、奴らの図星をついたコメントはまっさきに消された可能性もある……そして奴のことをボールを通じて見てみると、その映像が映し出されましたの」


「……それで、奴らは何か言ってたか?」


「確か……『なんでバレてんだよ、コメントとこいつの息の根ごと消してやる』とか言ってましたわ…」


「えぇ……裏の顔怖すぎだ……」


「とにかく、私も向かいますわ。具体的な時間と場所とかはまた教えてくださいまし」


「ああちょっと待っ……切られちゃった…………強いのかな、アイツ」


 メイがチーム・ウェザーの拠点に付いてきてくれることになったが、ユウヤは妙な胸騒ぎを覚えていた。まるで、大変なことが起きてしまうような………



「くそ、いい加減ここから……出せ……」


「おやおや……かなり戦意喪失してしまったようですね、岩田……いや、実験ナンバー330よ」


「お前、一体何のためにオレを誘拐した!」


 タケトシは牢獄の中ですっかり元気を失っていた。それを見てブティフールは不敵に笑う。


「それはそのうち分かることだ……だがな、1つお前に良い知らせがある……聞きたいか?」


「な、何だよ……」


「ヒビキとヴィアンドという者が先日、ユウヤと戦った……だがヴィアンドはクセ者でねぇ、時間帯によって発揮できる力が大きく変化する」


「な、何が言いたいんだ!」


「オレはお前のスマホから、あえてヴィアンドの強い時間帯にユウヤが戦場へ来るように誘導した……ほら、この通りな」


「……!」


 ブティフールが見せてきたのは、間違いなくユウヤ達との会話履歴であった。どうやらブティフールは、タケトシのアカウントからメッセージを入力したらしい、ユウヤを始末する計画のために。


「何を、してくれたんだあああああ!」


「おおっと、最後まで人の話は聞くものだ……ほらあそこ、やんちゃそうな服装の者が見えるだろ? アレがヒビキ、普通に歩けている。これがどういう意味か分かるよなぁ、ナンバー330よぉ……」


「……」


 思わずタケトシは言葉を失う。膝から崩れ落ち、もはや怒りとか悲しみとかを感じる余裕すらない。だが、ブティフールはさらに追い打ちをかける。


「きっと今頃ユウヤはあの世で悲しんでる! 友達に、親友に騙されて殺されたんだってなぁ! もうアイツは魂を敵に売ってしまったんだって! ざまぁ見やがれ!」


「……」


「でもな、あと2つ続報がある。あのユウヤにそーっくりな男、風谷ヨウマという者が今度お前のところに攻めにくること、そしてぇ! お前はもっと強くなれるということだ、この首輪を付けることでなぁ!」


「……何をする……やめ……てくっ……!」


 ブティフールは「チーム・ウェザー服従」と掘られた分厚い首輪をタケトシに無理やり巻き付けた。

 そしてその瞬間、首輪が怪しく光った。


「さぁ、風谷を迎え撃つぞ、ナンバー330……いや、ディジェフティフよ!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る