第83話 位置特定

 真銅はようやく目的地、スナモギ大学へと到着した。

 この大学には多種多様な学問を専門とする教授がいるからだ。さらに彼は趣味で探偵までしているとのことで、何らか手がかりを掴める期待値はかなり高い。


 真銅はその教授の部屋を訪れた。部屋をノックすると、中から現れたのはヒゲとメガネが特徴的な、いかにも教授といった見た目の男だ。


「失礼いたします、山――」


「ノンノン。念のため、ここではコードネームで呼びあおうぞ」


「コードネーム……ですか」


「……まぁそっちのがカッコいいし、ワシの憧れ。とにかく話はこの中でじゃ」


 教授は真銅を部屋に招き入れ、外に”敵“がいないことを確認すると、静かにドアを閉じた。

 棚にはいくつもの器具や専門書、またティーカップが並べられている。そして、アロマのような優しい香りが部屋を包む。


 真銅は早速指輪とタグを取り出すと、ゴム手袋を装着した教授は興味深そうにその2つを観察し始めた。


「この指輪……外側は何の変哲もないおしゃれな指輪じゃが、この内側をレンズ越しに見てほしい……小さく“チーム・ウェザー”と掘られておるじゃろ、メダルよ」


「あっ、確かに見えますね……メダル?」


「コードネームじゃよ、コードネーム。あ、ワシのことはトリテンとでも読んでくれ」


「あ、はい……トリテン……」


 気まずさと恥ずかしさのあまり赤面する真銅を横目に、トリテンは解説を続ける。


「さらにこの機器をこうやって近づけると……ほら、何らかの音波を発しておるぞ。これを自作のソフトで音声化すると……ほら、このようになる」


「ええっと……装着せよ、そこの男女2人、そしてチーム・ウェザーをすこれ、すこれ、すこれすこれ……」


「そうじゃ。これがこの指輪から今発せられている、言わばリアルタイムの指示……あとは身につけると、何らかの影響を受けてこの指示通りに動いてしまう……これが仮説じゃ。どうじゃ、合ってるかの」


「……まぁ、リーク情報にも同じようなことは書いてましたが……」


「ほーらビンゴ! さて続いては本格的に敵組織の位置を特定するぞい」


「いや今のクイズやりたかっただけかい!」


 思わずツッコんでしまった真銅。そう、この山……いや、トリテンはかなりのお調子者なのだ。2人が出会ったのは10年以上前のことだが、ずっとトリテンはこの調子らしい。

 真銅は出された紅茶を飲んで一旦リラックスすると、本題へと話を移す。


「それにしても……分かるんですか? タグに印刷された情報から奴らの位置特定だなんて」


「もちろんできるぞい。まずはこのタグに印刷されているURLにアクセスっと……」


「……あの、山……じゃなくてトリテンさん、私もここは調べましたが、他のグッズとかの画像と情報が出るだけで……」


「ホッホッホ、その画像こそが重要なんじゃ」


「どういうことですか?」


 真銅は首を傾げる。するとトリテンは自信ありげに解説し始めた。


「ノンノン、学生へのSNS使用の指導でいつも我々が言っておることじゃ……何の変哲もない写真からでも、位置特定は可能、つまり……」


 トリテンはアパレルグッズの着用画像や不沈日しずまずの自撮り写真などを手当たり次第にダウンロードし始めた。そして、その中でブツブツと独りごとを言いながら厳選した1枚をピックアップして真銅に見せつける。


「メダルよ、見てみなさい。この青年が着けている時計、そしてこの物陰の角度に写真の投稿日、この植物。あとは諸々この写真から様々な情報を見つけていくと……」


 トリテンは電卓やメモ帳に素早く様々な計算式や図、情報を書き込んでいく。そして2分後、ついに結論を出したようだ。


「コホン。メダルよ……奴らの居場所、分かったぞい」


「や……トリテン、どこですか?」


「……A県Nエリア、ここから1〜2時間程のところじゃ。新幹線か高速道路で向かうことになるじゃろうな」


「了解です。それでは早速荷物をまとめます」


 真銅は早速、決行日に向けて準備を整えることにした。


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