第86話 とらうま

「ここは……どこだ?」


 ユウヤは気がつくと神秘的な離島のような場所に横たわっていた。戦いの疲れからおそらく眠ってしまったのだろう。

 しかし、なぜこのような場所にいるのか理解できない。どこか懐かしい感覚もするが、こんなところに旅行に来た経験などは無いはずだ。デジャブってやつだろう、そう自分に言い聞かせてユウヤは辺りを散策する。


「ここ……ペガサスとかがいつも語りかけてくる場所じゃないし……誰かに誘拐でもされたか? ならば早く逃げなければ!」


 ユウヤはペガサスの力で空を飛び、いち早くこの場所から逃げようと試みる……が、その瞬間謎の男が現れてユウヤを引き止める。


「久しぶりだな……破壊活動は順調か?」


「破壊……? 何を言ってい――」


「おーっと、質問にはイエスかノーかを明示するもんだぞ? 我々の錬力術とやらのスキルは常人の数千倍にも及ぶはず、どれだけの人間共を始末できたのか言え、出来損ないにもそれくらい可能だろう!」


「……っ!」


 間違いない、この男は実の父。幼少期にユウヤを捨てた実親だ。久しぶりの再開にユウヤは一瞬戸惑ったが、その憎しみから気付けば男に殴りかかっていた。


「うるせえええええ!」


「おおっと隙だらけだ、生ぬるい環境でさらに劣等生を極めちまったか!」


「ぐあああっ!」


 男はユウヤを軽く突き飛ばしてしまった。そしてユウヤが起き上がった瞬間、人差し指を動かして挑発する。


「聖霊の力を使えば……多少はマシになるだろう? ほら使え聖霊の力を、『コンパウンド』を発動しろおお!」


「……なら見せてやるさ、力関係は既に逆転した、ということを!」


 ユウヤは白い繭に包まれ、翼と尾を生やして男の前に降臨した。サムが言っていた言葉、「聖霊の力を発動した者にしていない者が戦うのは大きなハンデを背負うということ」が本当なら、今の父を倒せるかもしれない。


「ほう……どうやらその程度の力は身につけたようだなぁ」


「……黙れ、一瞬で消し飛ばす! ロデオ!」


 ユウヤはものすごい勢いで男に襲いかかる。無我夢中で連撃を浴びせる。もはや、男の表情は視界に入らない。ただ、「父だと頭が認識している何者か」を倒す、そのことしか考えられない。


「喰らえ、喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ! この痛みはオレが幼い頃に感じた痛み、魂の痛みだああああああああ!」


「これが、痛み……!」


 男は反撃、防御すらしない。いや、できないと言うのが正しいだろうか。ユウヤはただひたすらに、意識が続く限りそのエネルギーを拳と脚に込めて男を攻撃する。


 しかし、ついに男も動き出した。「その程度の痛みなら我慢しろやアアアアッ!」という叫び声だけでユウヤを再び突き飛ばしてしまったのだ。そして拳を固く握り、ユウヤのみぞおちめがけて殴りかかった。


「くっ、避けられな――」




「はぁっ!? はぁ、はぁ、はぁ……」


 ユウヤはベッドの上で目が覚めた。どうやら悪夢を見ていたようだ、実親が罵ってくる、たまに見る夢を。


 汗だくで息があがっているユウヤの目の前にはお茶が置かれてあった。そして、横を見ると真銅が心配そうに様子を伺っていた。


「大丈夫ですか、鳥岡君……かなりうなされていましたが」


「戻ってたんですね……先生。ちょっと過去のトラウマが夢として現れてしまって」


「そうですか……もしかして、邪魔……でしたか?」


「い、いえいえ……! お見舞いしてくれて、ありがとうございます」


「……よ、良かったです……! 私も仕事で疲れてるみたいで……あと潜入の件はまた後日説明に来ますね、それでは」


 そう言うと、真銅は病室を出たところでそっと呟いた。


「私は無関係じゃないんです……私は知ってる、なぜ貴方が捨てられたかを……!」

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