第77話 アサシンの逆襲
「……ここは……どこだ……?」
「……ようやく目覚めたようですね、鳥岡君。貴方、丸1日眠っていたのですよ」
「こ、この声は! って痛っ!」
ユウヤが目覚めるとそこは病院であった。腕には点滴を刺され、横に座ってユウヤを見守るのは真銅だ。どうやら何者かが救急車を呼び、そのまま搬送されたらしい。なぜ真銅がここにいるのかは不明だが……ユウヤは恐る恐る聞いてみる。
「先生、なぜここにいるんですか……って、それよりイチカとカエデは! うっ……痛てて……」
「え? そりゃ教え子が大怪我したならば心配になるでしょう? 慌てて飛んできたんですから。あと友達は隣の病室にいますよ」
「そうですか……ってかなぜ分かったんですか? 戦いで怪我したってことグギョアアアア!?」
「無理しないでください……つ、通報があったんです、大学に。路上で喧嘩してるって」
「そうでしたか……」
どうやら何者かにより、リサトミ大学の学生が戦いを繰り広げているとの目撃情報が大学に伝達されていたらしい。それを耳にした真銅は、その学生がユウヤであると察したのだろう。
その戦いっぷりは体の傷が証明していた。全身がアザと傷で埋め尽くされ、少し体を無理して動かすと激痛が走る。骨が数本折れているのだとすぐに分かった。ユウヤは自分の不甲斐なさとチーム・ウェザーへの怒りから居ても立っても居られなくなったが、満身創痍の体が動くのを拒絶する。ユウヤはため息を付いてぼんやりと天井を眺めていると、真銅は深刻そうな声で1枚の資料を渡してきた。
「な、何ですかこれ……レジュメとか宿題渡しに来てくれたんですか」
「風邪引いて休んだ子のお見舞いじゃないんですから……怪我してるところで申し訳ありませんが、奴らに関するリーク情報です」
「リ、リーク!? いいんですかそれ――」
「静かに! 病院に奴らの仲間がいたらどうするんですか」
「す、すみません……」
ユウヤが手にした紙には、何やら怪しげだがどこか見覚えのあるアクセサリーの写真と小難しい文章が並んでいる。1つ1つその文章を読み進めていると、ユウヤはとあることを思い出した。
「……これ、最近流行りのインフルエンサーのやつですよ! オレも見ました、近日発売だって」
「ええ。それにもう1つ思い当たること、ありませんか? アクセサリーと聞いて」
「アクセサリー……あ! あいつらが付けてる装置!」
「……つまりそういうことですよ」
ユウヤの頭の中で点と点が繋がった。陽山が紹介していたグッズ、それは紛れもなくチーム・ウェザーのメンバーが例外なく身につけている装置であったのだ。
ユウヤの血の気が引いていく。今や若者の中でかなりの人気を誇る陽山はチーム・ウェザーの一員である、もしくはチーム・ウェザーは有名人を利用して自分達の仲間を増やそうとしているのだ。このアクセサリーが多くの人々のところに届いてしまっては大変なことになる。実際、ユウヤが動画を見たときには各グッズも売り切れになっていたのだから、悠長ではいられない。
「これ、かなり大変な事態ですよ! こんなところで寝ていてはならな……くあああっ!」
「鳥岡君まずは安静に! ですがお仲間のお2人さんも満身創痍……月村さんに回復してもらうことも考えましたが、今は難しそう……それでも自然治癒を待っていては一気に奴らの陰謀は進んでしまう、どうしたものでしょうか……」
真銅が考え込んでいると、病室のドアがコンコンとノックされ、
「ゴラァ、失礼するぜぇえ!」
と男の声がした。真銅は知り合いですか、とユウヤに尋ねるものの、特に見に覚えがないそして乱暴に開けられたドアの向こうには、見るからに怪しい格好の男が立っていた。
年齢は20歳ほど、体型はかなりたくましい。ボロボロのTシャツを着た、黒髪で無造作ヘアー姿の男。靴も安物だとすぐに分かるような生地の薄っぺらそうなスニーカーである。そして何より、ただならぬオーラを放っている。
「……誰ですか、鳥岡君の知り合いとかではなさそうですが」
「……オレか? オレはユウヤを倒して……最恐の戦士だとして歴史に名を刻む者だあああ! 粉々にくたばりやがれ、微塵・連レス斬ンンンンンン!」
そう言うと男はおもむろにナイフを懐から取り出し、大声を出しながら襲いかかってきた。大怪我を負って横になるのがやっとのユウヤにとっては逃げるどころか避けることすら難しい。
「こ、こいつもあいつらの仲間か……! だけどこの状態では……」
ユウヤは自分の体を見る。すると横から凄まじい勢いで真銅がユウヤを庇うようにベッドの前に立ち、大声を上げながらその男を指差した。すると男は突然倒れ、罠に引っかかった獣のように動けなくなってしまった。
「こ、このババア……やっぱりなかなかやるじゃねぇか……」
「あれ? これってデジャブ……?」
ユウヤはその光景に見覚えがあった。だが、それを忘れさせそうな程の迫力で隣から真銅の声がした。
「そのまま飛んでいきなさい! ニトロゲン・エクスプレエエエエス!」
「な、何っ!?」
男は突然持ち上げられ、そのまま特急列車のような勢いで壁に激突した。大きな穴が空いた壁をあわあわと見つめるユウヤを横目に、真銅は強い口調で男を牽制する。
「忠告します、早く立ち去りなさい!」
「……へへ、やなこったぁ」
男はナイフをギラリと輝かせながら自らの唇をベロベロと舐める。さらに、不気味な笑い声を挙げながら自己紹介を始めた。
「オレは名も無きアサシン、ヒトシ……この恵体から繰り出されるナイフ捌きで何もかも切り刻むのサァ!」
「いや名前あるじゃねーか! それにしても聞き覚えがあるような、ないような……」
「TPOのかけらもわきまえてないようですね……ここは病院、こちらとしても手荒な真似はしたくなかったのですが」
真銅はゆっくりと立ち上がり、ヒトシに向かって歩いていく。それを見てヒトシも負けじと自らの体を巨大化させる。その距離が近くなればなるほど、ヒトシはニタニタと笑みを浮かべる。
「さぁ、泣いて謝っても、構わず切り刻んでやるゥ……歴史にお前の名前を、反逆者として刻むのと一緒にな!」
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