第78話 巨漢にナイフ、鬼に金棒?
「……遊んであげますか」
ヒトシはナイフを真銅に振りかぶる。それを真銅は冷静に最低限の動きで避け続ける。ヒトシのナイフが描く軌道はかなりデタラメで不規則なものだが、少しでも掠めれば大きな傷となるだろう。
対して真銅は素手である。それに加えて、何か特別な装備を身につけているワケでもない。さらに年齢差も20歳ほどあり、その体格差も遠くからだと華奢な母親とかなり巨体な息子に見えそうなほどだ。
ヒトシの息は早くも荒くなる。その体の大きさから腕力はあるのだろうが、あまり持久力を持ち合わせているようには見えない。だが、ユウヤはこのヒトシという男の動向を注意深く観察する。なぜなら、名前も姿もよく似た男と戦ったときにかなり苦戦したからだ。それほどに、フィジカルという要素は大きいのだ。
「ハァ、ハァ……クソ……クソクソクソォッ! 避けてばっかり、いやがって……! ハァ、ハァ、FPSでもそんなんしてんのか……このババァ……!」
「ほう……それならば、そろそろ反撃といきますね……チャコールバインド!」
「ぐぁああっ! またこの技か……動けねぇ、ぞ……」
「貴方が攻撃を避けるのを避難するならば、貴方も攻撃はどっしりと受けてしかるべき……それが礼儀ってものでしょう」
真銅は深呼吸をしながら両腕を引き、右足を後ろに下げる。そして、アイススケートのように回転しながら跳躍し、ナイフが握られた両手をめがけてかかと落としを繰り出した。念入りに磨かれた革靴がヒトシに向かって急降下する。
「こ、小癪なああああああああ!」
パリイイイイイイン! 金属が割れるような音が鳴り響く。ナイフが床に落ちて滑り、まともにかかと落としを受けたヒトシは横向きにうずくまる。
「せ、先生……大丈夫ですか?」
「えぇ。しかしながら……」
真銅は突然しゃがんで銀色の何かを拾い上げ、念入りに観察しだした。刑事が現場の証拠を集めるような眼差しで、じっくりと見つめる。
「陰謀はもう、身近に迫っていましたね。洗脳装置です、チーム・ウェザーの」
「そ、その指輪……!」
ユウヤには心当たりがある。ヒビキ達チーム・ウェザーが付けているアクセサリー。そして、あのインフルエンサーが紹介していた指輪。そして、ついさっき見せられた指輪のリーク資料……
ーーーー
《まずはこれ! これからの時期にオススメの指輪! アクセを付けていると一気にオシャレをレベリング可能! 憧れのあの子って中ボス、いやもしかしたらラスボスを攻略しちゃえー! サイズも多種展開!》
『へぇ、かっこいいな。言い回しだけは』
『怪我してるところで申し訳ありませんが、奴らに関するリーク情報です』
『リ、リーク!? いいんですかそれ――』
ーーーー
「チーム・ウェザーの奴らがこぞって付けてた、アレ!」
「ええ。この指輪のせいでこうなった。そうですよね、アサシンさん」
真銅はアリを見つめるようにしゃがんでヒトシに話しかけるが、ヒトシはその質問に答えようとしない。それどころか、手をかばいながらヒトシは立ち上がってこちらを見る。
「グッ……あれ、オレはなぜこんなところに……ってこいつ! この前の借り、返してやるからな! 長文レス・タック――」
「待ちなさい!」
真銅は再びヒトシを拘束し、指輪を目の前でつまみながら問いかける。
「この指輪、どこで手に入れました?」
「そ、それは……イメチェンするために買ったんだ、夜勤のバイト代からなんとかな……そしたらよ、届くのは何週間後だとか言ってたのに特別にお安く、かつ迅速に! ってメッセージと共にすぐ届いた」
「すぐ届いた……だって!?」
ユウヤは驚いた。
ユウヤは様々な可能性を考える。あのネットニュースが公開されたのは、実は元動画が公開されてから何日も経ってからのものだった、もしくは旧作をヒトシは買ったのか、さらには同じリサトミ大学の学生であるヒトシを駒として利用するために特別サービスを施したのか、と。
どれにせよ、あの
「……先生」
「どうしました、鳥岡君」
「……この作戦、どうやってでも止めたい、いや止めなければなりません!」
「はい。短く見積もって1週間。少なくとも10日後までに体制を整えますよ」
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