第76話 足りない力

「オイオイ……そんなにカッコつけて、後から泣き言吐かないでくれよ?」


「カッコつける、だと!? この野郎……!」


 ケンジは激昂し、左腕に漆黒のオーラを宿しながらイチカを睨みつけている。そしてそのままイチカのみぞおちを殴りつけ、再びイチカをダウンさせる。心配して駆け寄るカエデだが、ケンジに怖気づいて反撃することができない。


「と、とにかく回復させますね、アロ――」


「ヒーラーは先に潰さねぇとなぁ……喰らえ、アサルト・ナイトメアス――」


「タイフーン・ストレエエエエエト!」


「な、なぬ――」


 不意打ち。ユウヤは得意技でケンジを足止めし、カエデ、イチカへの攻撃を防ごうと試みた。だが、それはケンジの神経をさらに逆撫でしてしまうだけだった。


「……害虫共がちょこまかと……! ならば、全員まとめて捻り潰すのみ……!」


「……ああ、なら返り討ちにしてやる!」


 ユウヤは目を閉じて神経を集中させる。すると翼が生え、尾が生え、そして神秘的なオーラに包まれた。


「だいぶ慣れてきたな、になるのも」


 ユウヤは軽くストレッチを行い、戦闘の構えをとる。それを見てイチカも負けじとフェニックスの力を開放しようとするが……


「ウ、ウチも! ホントは嫌だけど……さぁ出てこい、フェニックス! おら、早く、早く!」


「おいイチカ大丈夫か、ここは一旦下がってオレに任せ――」


「ユウヤ1人に任せられねぇって! それにウチも戦えるんだ、おら早く力を貸せえええええ!」


 出ない。発動できない。アズハとの戦いで半強制的に手に入れてしまった聖霊の力。体内にいるであろうフェニックスを呼び出そうとしても全く出てくる気配が無いのだ。

 ケンジもついに痺れを切らしたのか、再び左腕に漆黒のオーラを纏い始める。


「……どうやらその様子。まだ力を扱いきれてないようだな」


「べ、別に関係ねぇだろ! 今すぐ”力“を出してやる、待ってろ!」


 様々な方法を試すも、一向にイチカの体に変化は現れない。それを見かねたのか、背後からサムが歩いてくる。


「お、お前! もしかしてオレにやったみたいに、何かする気か!?」


「イエース……早く戦いを見たいデスので……」


「こいつ……! いい加減にしろよマジで!」


 ユウヤは思わずサムに殴りかかるがサムはそれを軽く受け流しつつ、笑顔でユウヤの方を向く。


「まぁまぁ! もし暴走しそうになった際、また殺されそうになった際は! 止めに入るのでドントウォーリー!」


「ったく……」


 ユウヤが地面を強く踏みつけ、イチカとカエデがサムのことを変人を見るかのような目で見つめているのを気にする様子も無く、サムはイチカの肩に勢いを付けてチョップを繰り出した。


「ぐあっ!」


 一瞬、炎のようなオーラがイチカの背中周りに現れる。それを見てサムはチョップを連続で繰り出すと、そのオーラはだんだんと大きくなるが、本格的に変化が現れる様子は無い。


「オー……まだ修行が足りてないみたいデース……」


 サムは呆れたような様子で近くの石像に腰掛け、退屈そうにユウヤ達を見つめだした。それを見てイチカは、


「……チッ、覚えてろ。いつかわからせてやるからな……」


 と舌打ちしながら呟いた。

 目の前には相変わらずこちらの命を狙わんとするケンジが仁王立ちしている。ケンジをまずは倒さないことには状況は動かなさそうだ。イチカ、カエデ、ユウヤは3人でケンジと戦うことにした。ケンジはその戦法を受け入れたようで、むしろ「さっさとかかってこい」と3人を挑発している。


「……おい」


「どうした、我に何か言いたいことでも……?」


「お前はこれまで戦ってきた敵の中でもトップクラスだ。ヒビキと同等、いや考え方によってはそれ以上かもしれない」


「ヒビキねぇ……まぁ、評価していただけて光栄だ」


「……だがな、オレはこれまでの相手にも機転を利かせ、戦術で勝つことも多くあった。そもそもオレはどうしても、追い込まれないとなかなか実力を出せないことが多いからな」


「結局何が言いたい……結論は先に持ってくるべきであろう」


「……そうか。なら今回のとは……」


 ユウヤは武士が刀を抜くような動作を見せながら、同時に左腕に力を込める。するとユウヤの腕周りの空気が微塵切りされるかのようにシュババババババと音を奏でだした。さらに、だんだんユウヤの腕周りに竜巻のような渦が槍状に造られた。


「逆に、一瞬で叩きのめすということだ!」


 ユウヤは一旦後ろに下がったかと思うと、翼を羽ばたかせ、滑空するように一直線にケンジへと突撃する。そしてすれ違いざまでケンジに槍を喰らわせると同時に、


「喰らえ! パラディンズ・プットアウトオオオオオオオオオ!」


 と叫んだ。流石のケンジもかなり効いたのか、腹を抑えて倒れてうずくまる。さらにユウヤは空中でターンし、再びケンジに突進し、ゼロ距離で殴る蹴るの連打を打ち込む。


(ここでコイツを立ち上がらせ、反撃のチャンスを与えた瞬間大ピンチへと変わってしまう! ここは協力してもらってでも“無限コンボ”を狙わなければ!)


「カエデ、イチカ! 一緒に攻撃してくれ、それしかチャンスは無い!」


「おう! なら反対側から挟み打つぞ!」

「了解! 一気にいこ!」


 カエデはケンジを挟んでユウヤと向かい合うように立ち、それぞれお互いにパンチやキックを浴びせ合う。さらにカエデも中距離から攻撃する。先程までは全く攻撃が通ってすらいない感じだったが、今はかなり効いている感じがする。


「オラオラオラ! そろそろ参ったか、この野郎!」

「さっさとタケトシの居場所とチーム解散を吐きやがれえええ!」


 3人の猛攻がケンジに容赦なく襲いかかる。が、一切口を閉じていたケンジが攻撃を受けているにも関わらず、突然開いたのだ。


「……そろそろ満足か? 攻撃できて……」


「何っ!?」


「おい、サム……そろそろ観察の時間は終わりでいいだろう?」


「ンー……まぁ、ユウヤの成長日記もつけられたことだし、一旦クロックアウトといきまショー」


 ケンジとサムは撤収モードだ。とても強がりを言っているようには見えず、それはユウヤ達との実力の差を直喩するものであった。ケンジは猛攻を受けながらも指を鳴らした。するとその瞬間、とてつもない痛みがユウヤ達を襲い、そのまま気絶してしまった……。

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