第63話 転生する劫火

「チッ! 使えねぇクソ人形がああああああ!」


「ヤメテ……クダサイ……アズハサ――」


「うるさいうるさいうるさい! こうなったら直々に! このアタシが戦うしかないようね!」


 アズハは自らが作った雪だるま《偽ユウヤ》を跡形もなく踏み潰すと、その残骸の上に登ってユウヤを見下ろし宣言する。


「さぁ、遺言を残すチャンスを差し上げる! アタシがを繰り出すその瞬間まで、6音くらいなら喋れるんじゃないかしら!」


「うるせぇ、そん……な……」


(クソっ、喋れねぇ! 口全体がかじかんでいるみたいだ……!)


 突然のに戸惑うユウヤ。本当に喋ることができなくなっているのだ。アゴをカクカクと動かそうとするユウヤを見てアズハは手を叩いて笑う。


「アッハハハハハハハハ! どうせなら『ごめんなさい』とか『死にたくない』とかにすればよかったのに! わざわさ猶予を作ったってのに……それじゃ、そこのバカ女と一緒に、永遠にお休みなさぁい」


 一層吹雪が強くなる。いや、ユウヤの周りにだけ記録的なんてレベルではない猛吹雪が吹き荒れているのだ。

 まるで死神にローブで包まれたかのような気分だ。ユウヤはなんとか意識を保とうとするが、全身の力が勝手に抜けていく。


(こ、ここで終わるなんて……オレは……オレ……は……)


「アハハハハハ! 大人しくヒビキくんに首を差し出しときゃあ良かったのにね。イヤなことは早く済ませておくべきよ?」


(……終わった)


 ユウヤの視界が暗くなる。音も、匂いも、光も全てシャットアウトされ、やがて意識も消えゆく……。



「……ここは天国、か?」


 ユウヤが目覚めると、そこは無数のうっすらとした虹色の光が幾何学模様状に浮かぶ空間だった。何度か夢で見た白い空間とはまた別の場所のようだ。


「とりあえず……立ち上がれるし、言葉も話せるな」


 ユウヤは辺りを散策することにした。微かに風が吹いているが、その音は奇妙だ。人の声のようにも聞こえるし、いつの日か聴いたことのあるヒットソングの一部分のようにも聞こえる。

 キョロキョロと左右を見回しながら歩き続けると、やがて一本の川の前に到着した。皮の向こう岸には大きな大きな鏡が設置されているかのようにこちらの景色を写しており、あとは1本の長い橋が掛かっているだけだ。


「これ、三途の川……とかいうやつか?」


 渡るつもりはないが、橋のすぐ側まで近寄ってみると、何やら見覚えのある女が“赤色のモヤ”と言い争っているようだ。喧嘩か何かだろうか、ユウヤはそこに駆け寄る。


「だーかーら、行こうぜっつってんじゃん? 黄泉の国はいいぞ、そこでオレ様と何千年も修行しよう!」


「うるっせえ! ウチのタイプは勇敢で優しいヤツなんだよ、知り合いにそういうヤツがいるし、そいつといくらでも修行できてる! ほっとけよ、この人外!」


「そいつと修行して強くなれたのか? 思い返せ奥野イチカ! 強くなれたならここに来ていない、さぁ強くなろう、橋を渡れ!」


(……やっぱりイチカだ! それと横のは……オレの夢に出てくるヤツに似てるような)


「……あの、喧嘩中?」


「誰だおま――ユ、ユウヤ! 来てたのか、聞いてくれ、こいつが向こう岸に渡れってうるせぇんだよ! 事案だろこれ、事案!」


「事案って何だ事案って! てかこいつ、オレ様が見えるのかよ、ならば!」


 赤いモヤは姿を変え始めた。尾が生え、翼が生え、嘴が生え、そして全身が燃え盛り空を舞い始める。


「オレ様はフェニックス! 永遠の命を司る聖霊さ」


「それなのにあの世に連れて行こうとしてるのか……」


「う、うるっせえ! とにかく、オレ様と契約すれば最強の力を得られる! 滅びることのない、理想の力をな!」


「やめろぉ! まだ未練あんだよ!」


 フェニックスは無理やり嫌がるイチカを彼岸へと連れて行こうとする。それを見かねてユウヤはフェニックスに提案をする。


「……それならば、現世でその力を見せてくれ! 今、オレ達はとある奴らと戦ってるんだ! のために、その力をイチカに授けてくれ!」


「あぁっ!? たかが人間ごときに従うワケがな――」


「……これでもですか?」


 ペガサスがユウヤの体から抜け出し、高く飛び上がってフェニックスを威嚇する。


「ゲッ! よりにもよってこいつが憑いてるのかよ!」


「……どうします? 永遠の修行、それはイチカが天寿を全うした後でもできることでしょう」


「チッ、分かったよ、分かった。だがこいつが力に適応できるかは別だがな!」


「ぐああっ! ちょ、勝手に入ってく――」


 フェニックスはイチカの口から侵入していった。イチカは頭を抱えてのたうち回る。足をバタバタさせ、もがき苦しんでいる。

 そしてその動きを止めたかと思うと、コンパスの鉛筆のようにくるーんと立ち上がり、ニヤリと笑った。

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