第57話 当たるも厄介、当たらぬも厄介
山浦メイ。S県にて占い屋を営む自称お嬢様だ。本人自体がかなり不気味で客足を遠ざけてしまっているのが現状だが、彼女のところを訪れるのは何か複雑な事情を抱えていたり、もしくはかなりクセのある者ばかりだ。例えば……
「あらいらっしゃい。お客様ですの?」
「えぇ。ママね、少し探してほしい人がいるのよぉ……」
「ふーむ……それではその方の特徴、教えていただけますか?」
自称“ママ”はその人物の特徴を説明しだした。どうやら20歳前後の男、小柄で足が速い、そしてツイストパーマの男だという。
メイはそれが誰かすぐに勘付いた。鳥岡ユウヤである。メイから見てユウヤはそういう性癖の持ち主だとは思えなかったし、何より鋭い目つき憎悪を隠すように奏でる柔らかい口調。これはチーム・ウェザーの一員だとすぐに分かった。
だが、1つ安心できるのがこの女はメイがユウヤの仲間であることを知らなさそうなことだ。だからこそ、変にユウヤの居場所を誤魔化しては勘付かれてしまう。微妙かつ普通の答えを提示しなければならない。心の準備もできていない難しい依頼に、メイは思わず固唾を飲み込む。
「なるほど……分かりましたわ、それでは占ってみましょう」
メイはそこら辺で買ってきたゴムボールを机に設置し、いかにも占ってますという仕草を見せる。自称ママはタバコを吸いながらその様子をぼーっと眺めている。
「……見えましたわ、そのツイストパーマの男は西日本、特に関西の――」
「中途半端に答えてんじゃないわよおおお!」
自称ママは激昂し、テーブルを蹴り上げた。衝撃でゴムボールが転がると、それを拾い上げてメイに投げつけた。するとゴムボールが彼女の腕から離れた瞬間、それはボールから岩石へと変化し、メイの後ろの棚を粉々に崩してしまった。
「ふざけてんならこの館ごと解体してやろうかあああああああ!」
「お、お待ちください! ならばタロットカードで占ってみますわ、他の方法でアプローチします……」
メイは渋々引き出しからタロットカードを取り出した。だが、
メイはタロットカードを混ぜ、1枚取って自称ママに見せつける。
「このカードは“正義”の逆位置。これが意味するのは――」
「うるっさい!」
自称ママはさらに怒りのボルテージを高める。それもそうだろう。なぜなら、メイはわざとこのカードを引いて見せつけたのだから。
自称ママは椅子を蹴り飛ばし、メイの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「ママねぇ、お上からはマシジって名前をつけられてるの。ダサいでしょ? でもそれは今関係ない。ママは今からお前を始末するだけ」
「……やるしかないですわね」
メイはローブを脱ぎ捨て、懐からもう1束のタロットカードを取り出す。
「
「へぇ。面白いじゃん」
「どのカードかで攻撃方法が異なる。私自身もどれが出るかは制御できませんし、貴方もその予測は不可能。まぁ母の日も近いことですし、ランダムというスリルをプレゼント代わりにさしあげますわ」
「あら、そう。どちらにせよ、この館ごと土葬してあげるけどねぇ!」
「なら一撃で始末するだけですわ! 占い一発目、ドローですわ!」
メイが引いたカードが宙を舞い、マシジの背後に浮かぶ。それを見てメイはニヤリと笑い、宣言する。
「戦車の正位置。荒れ狂う馬車の衝撃を喰らいなさい!」
「な、何っ!? させないわよ、“
マシジは急いで倒れている椅子を盾に変え、攻撃に備える。しかしそれも虚しく、虚空から現れたチャリオットに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「こ、このママの技でも、防ぎきれないなんて!」
「あらあら。もっと恐ろしいカードはありますのよ? それに逆位置も入れれば、攻撃のレパートリーは100種類を超える」
「うるさい! 岩石攻撃を喰らいなさいっ!」
「仕方ないですわね……ドロー、力の逆位置。貴方の力は失われる」
「なっ!」
「力」のタロットカードがマシジに吸い込まれたかと思うと、彼女が投げた岩石は砂のように崩れ、本人は全身の力が抜けたかのように膝から倒れてしまった。
「な、何よこのエセお嬢様……なかなかやるじゃないのよ」
「お母様、なかなか運が悪いようで。申し訳ありませんが、これでとどめとさせていただきますわ」
メイは床下収納から水晶玉を取り出したかと思うと、それをマシジの頭の上にかざし、
「プレデーション・バイ・ヘヴン!」
と叫んだ。すると水晶に神々しい“何か”が映り、それが発した光がマシジを包み込みだした。
「な、何よこれ! やめて、何よ、イヤアアアアアアアアア!」
「……心配しなくても444年間、天界での裁きを受けた後、今の貴方達のアジトに戻れますわ」
恐るべきことに、マシジは光に包まれてどこかへと消えてしまったのだ。400年あまりを天界で過ごした後、2059年4月という時間に舞い戻れる。最後にそう説明を残したメイは、マシジが壊した部屋の修復に入った。
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