第56話 牢屋と友情はどちらも固く

「くそっ! ここから出しやがれ!」


「ハイハイ暴れないの〜。坊や、そろそろまんまの時間でち――」


「ざけんじゃねぇ! せめてプロテインをよこせ、プロテインをぉ!」


 ブティフールに誘拐されたタケトシは、チーム・ウェザーの牢屋に監禁されていた。食事は3食提供されるものの全て味が薄く、また冷蔵庫の余り物を詰め込んだだけのようなメニューに苛立ちを隠せない。何より、食事提供者のこちらを舐め腐ったかのような態度をタケトシは許せずにいる。


(くそっ、何が坊やだ! 大体オレはベンチプレスでお前の体重以上のバーベル上げられるんだ、覚えてやがれ)


 タケトシは提供された、既に乱雑にちぎられた食パンをかじりながら、去っていく女の背中を睨む。

 愚痴をブツブツと呟きながら食パンを食べ終わると、見回り員が牢屋に寄りかかりながらタケトシに話しかけてきた。


「……何の用だ、見回りさん」


「いやー、さっきからブツブツと喋ってるの聞こえてきたからね。もしお仲間に情報伝達してるってんなら、鞭打ちにしなければならないからな」


「ヘッ、アンタボケてんのかい? 没収しただろ、オレのスマホ」


「ハハハハ! ジョーダンさ、冗談。それにしてもあの女に不満持ってるみたいだな、104番」


「当たり前だ、あの八方美人ならぬ八方ママみたいなのが鼻につく、ああいうのは別に性癖じゃないんでね」


「まぁ〜裏の顔を見ればその印象も一気に怖い女に変わるさ。なぜなら……あれ、見てみなよ」



「マ、ママ様! 申し訳ありません、先日頼まれた件ですが」


「あらぁー、アクセサリーの売り込み、だっけ? どうしたのぉ?」


「あ、ある程度店舗に商品を置いてもらうことはできたのですが! 肝心のユウ――」


「……失敗したらしいじゃねぇかぁ! このクソ雑魚がああぁぁ!」


「グフッ! 申し訳ありません、申しグフッ!」


「申しグフゥ? ナメた謝罪してんじゃねぇぞゴラァ! 腹のその落書きと顔面のパーツ全部取り替えたろかゴラァ!」


「や、やめ……グフッ」



「パ、パワハラどころじゃねぇな、アレ……」


「……まぁ、日常茶飯時さ」


 彼女の名前コードネームはマシジ、24歳。アズハの部下であるがお互いに仲が悪い。コードネームに納得がいっておらず、気が弱い同僚をピックアップしては「ママ」と呼ばせている。

 こう見えてもアズハの部下ナンバー1で、柔らかい口調とは裏腹にかなり腹黒い性格をしているとの噂だ。


「……これは普通に接したほうがいいな、ヤツの前では」


「まぁそれがいいさ。こうなりたくなければな」


 見回りの男は真っ二つに割れた機械をタケトシに放り投げた。タケトシが慌ててそれを受け取ると、すぐさま見回りの男に問いただした。


「おい、これオレのスマホじゃねぇか! どうしてくれんだ、もう動かねぇぞこれ!」


「まぁそう焦るな焦るな! 最後にお前に代わって、ユウヤにヒビキ襲撃の情報を教えてやったんだからな」


「は!? ヒビキが!? どういうことだ!」


「ヤツの部下、アント。ヤツは生まれつき、朝から昼の14時頃までしか力を発揮できない。ユウヤはいきなりヒビキに攻撃を仕掛ける好戦的ボーイ、だから13時半に来てくれと言っておいただけさ」


「な、何してくれてんだ! それじゃあユウヤは!」


「まぁ、そこらの風にでも生まれ変わってるかもねぇ」


「……コイツぁぁぁぁ!」


 タケトシは激昂した。実際のところはユウヤは死んでいない。カナの立ち回りもあってアントを撃破、またヒビキも同様倒してある。だが、タケトシは拘束されスマホも没収されてるが故にユウヤ達の安否が分からないのだ。


「喰らいやがれ、火山ガトリ――」


「おーっとやめとけって! その檻はこの世のあらゆる物よりも硬いんだ、人間の力じゃあ壊せない」


「……クソッ!」

(ユウヤ……どうか勝っていてくれ!)


 タケトシは硬いコンクリートの空を見上げて祈った。ユウヤが勝っていますように、と。繰り返しにはなるが、ユウヤとヒビキの戦いを制したのはユウヤだ。だが、もし友人の身に何かあったらどうしようという気持ちで、タケトシの心臓はドクドクと焦りを見せていた。

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