第55話 デジタル時代の忍者・オムビ
「な、何だこれ! 知らないうちに変なサイト開いちゃったのかな!?」
「マジかよ! 再起動したら消えたりしない?」
「オイ、お前ら! 人をコンピューターウイルスみたいに言うんでないっ!」
「キャッ! スマホが喋った!」
唐突にスマホから不審な音声が流れ、驚くカエデ。だが、その正体は怪しい広告でもコンピューターウイルスでもなく、正真正銘の人間だったのだ。2人のスマホの中にいる人間はユウヤ達に宣言する。
「我が錬力はまさに魔術そのもの、10人に1人の特異体質! 闇に紛れるのが過去の忍なら、我は電脳世界に紛れて使命を果たそうっ!」
「し、使命って何だよ! またオレ達のこと始末しに来たのか?」
「その通り! だが、そうやって喋ってるヒマかがありますかな?」
「な、何が言いたい!」
「……発熱火遁!」
「な、何いいいいい!?」
「え、何これ! きゃあっ!」
驚くべきことに、ユウヤとカエデのスマホが熱くなったかと思うと、液晶から火炎が吹き出したのだ。これは端末の故障だとか事故では断じてない。正真正銘、スマホが忍術で攻撃してきたのだ。
「うおお、あちっ、あちっ、あちちちちち!」
「ユウヤくん大丈夫!? リモートだからヒイラギで防いであげることもできない……」
「ハーッハッハッハッハ! これこそ我が忍術! 悔しかったら画面に反撃しやがれ、そしたらスマホは壊れるでござろうがなぁ!」
「くそっ……どうすりゃいい」
試しにユウヤは画面に軽くパンチをしてみたが、オムビが痛がるような様子は見えない。それどころか、本当に画面を攻撃したことを嘲笑っている。
スマホに必殺技を御見舞するわけにはいかないし、かといってこのままただ攻撃を受け続けてもラチがあかない。
「……くそっ、一旦電源切ってみる! すぐ掛け直すわ、カエデ!」
ユウヤは半強制的に通話から離脱した。そして再起動をかけ、オムビの様子をうかがうことにしたのだ。
暗転した画面、メーカーのロゴ、携帯会社のロゴ。そしてパスワードを入力してホーム画面が写る。
「問題はここで攻撃をしてくるか、だな」
あえて通話に戻らず、
「攻撃してこない、か。それなら今のうちに通話に戻ろう」
カエデが通話をかけてきたのは個人宛てではなくグループ“勇者御一行”の方。イチカ達がもし参加してきたら一緒に情報共有をしておくつもりだったのだろう。
「さて、早く通話に戻……ん?」
ユウヤは通話の参加者一覧に違和感を覚えた。今参加になっているのはカエデ、そして「チーム・ウェザーは正義」という謎の人物だ。グループ参加者数を見ても増減は無く、オムビがここに乱入してきたということは考えられない。ならば誰かのアカウントが乗っ取られて……いや、とにかく今はカエデが無事かを確認しなければならない! 慌ててユウヤは通話に戻る。
「カエデ! 大丈夫か、今戻ったぞ!」
「ユウヤ! こいつやばいよ、注意して! からくりがわからないけど、ホントに画面から攻撃してくる!」
「くそっ、マジか! カエデ、ならば一旦再起動かけてみてくれ! オレもその間は攻撃されなかった!」
「うん、やってみる!」
今度はカエデがスマホを再起動させる。通話グループにはユウヤとオムビのみが参加している。ユウヤはそれを見て何かに気が付いた。
(オレもカエデもビデオ通話中、そして背景には壁や窓が映って……まさか!)
「ハァ、ハァ……次は……次はユウヤを攻撃……」
(ここまで息が切れているのもおかしい、それに忍者を名乗るほどならば足には自信がある……分かったぞ!)
ユウヤがオムビのからくりに気付いたのもつかの間、10秒ほど経つと再び画面から火が吹き出した。
「うおおおおおっ、熱いっ! だが分かった、そのタネがな!」
「な、なぬっ!?」
オムビはかなり戸惑っている。ユウヤはニヤリと笑って種明かしをしてみせた。
「お前はまず、スマホ内に侵入なんてしていない! ただ通話グループに参加しているだけっ!」
「グ、グギギ!」
「さらにその息切れ! 錬力術を用いて身体能力を向上させ、いちいちオレとカエデの間を行き来している!」
「ひっ……」
「そしてスマホの画面の直前で火を発生させているだけ、今はオレを攻撃中! その答えの行く先はっ!」
「や、やめるでござ――」
「今オレの家の前で、窓と通話画面からオレを見張っている! 大体、その背景が物語ってるよな! さっきから映ってるその画面、オレん家の前じゃねえか! 今行くから待ちやがれ!」
「に、逃げるでご――」
「お前が窓から見ていたように! 窓から攻撃できるからなぁ! タイフーン・ストレートオオオオオオオオ!」
「ん、んぎゃああああああ!」
オムビは吹っ飛び、そのままどこかへと消えていった。それを見届けると、後ろからカエデの声がした。
「おーい、ユウヤ! 大丈夫だった!?」
「え、んわぁっ! びっくりしたぁ」
ユウヤは思わず変な声で驚いてしまった。何より、スマホを介しての攻撃の後だったので一瞬次の敵かと思ったのだ。だが、その声は聞き慣れたものだったのですぐに安心した。
「ゴメンゴメン! それであいつ、どうなった?」
「あぁ、どっかに転がっていったよ、おむすびころりん、ってね」
「あの野郎……覚えてろ、グフッ」
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