第58話 疑心暗鬼

「ハァ、あの女面倒臭かったですわ。加工した自撮りでフォロワーを集め、囲いの男達に色んな物貢いでもらってそうな喋り方とメイクしやがってほんとに……」


 メイがぶつくさ言いながら部屋の片付けを進めていると、ユウヤから着信が入った。いきなりの電話に戸惑いながらも電話に出ると、もしもしと言う隙もなくユウヤはあるお願いを入れてきた。


「すまん、オレだ! ちょっとグループ通話に入ってくれ、至急!」


「わ、分かりましたけど……いかがなさいましたの?」


「まぁ……それは後だ、とにかくきてくれ」


「あぁ、分かりましたわ……」


 メイは部屋の片付けを中断し、“勇者御一行”のグループ通話に参加する。既にユウヤ、カエデ、イチカ、そしてシュウタロウが入室していた。ユウヤはメイが入ってきたのを確認すると、一番に口を開いた。


「……今日、いきなり集まってもらってすまない。さっき、オレは敵に襲われた」


「そうだったんか……皆無事やったんか?」


「うん。私は無事だったよ」


「ウチは特に襲われたりしてねーな、メイはどうだった?」


わたくしはつい今襲撃されましたわ……そこまで強敵じゃなかったですけども」


「それで何や、今回集まってもらった件ってのなは」


「あぁ、それだが……」


 ユウヤは静かに言った。本当はこんなことを言いたくない、今から言うことを真実だと信じたくない。そのような語尾のトーンである。そしてようやく、その沈黙を破った。


「……オレ達の中に、裏切り者がいる! チーム・ウェザーの戦士が、混じっている!」


「えっ!?」

「は?」

「マジかよ!」

「まぁ!?」


 突然の報告に4人は驚きを隠せない。それと同時に、誰が裏切り者なのだと、数分前まで仲間同士だったはずなのに皆が皆を疑い始める。不穏なムードに包まれる中、シュウタロウがユウヤに尋ねる。


「それにしても、裏切り者がおるっちゅう根拠は何や? 証拠でも見つけたんか?」


「あぁ。これは先程、オムビという敵と戦っているときのことだ。あいつはインターネットの世界に侵入してスマホからオレとカエデを攻撃すると見せかけていた」


「ん? それで?」


「本当は、このグループ通話に入りながら、現実世界からオレ達を攻撃していたんだ。そしてその時! このグループを抜けた、または入った人は誰一人としていなかった!」


「……つまり?」


「この中の誰かが、アイコンと名前を変更してオムビにスマホを貸していた! アカウントの乗っ取りも考えにくい、今普通に皆、自分のアカウントを使えているからな!」


「えぇっ! そうだったの……」


「……ふーん、なるほどな」


 4人に緊張が走る。もし内通者がいるならば、このグループで作戦会議をすること自体が危なくなってしまう。情報が筒抜けになるからだ。

 誰かを責めたいワケではない。誰かを敵に仕立て上げたいワケではない。ただ、この中にほぼ確実に敵がいるという事実、平穏を保てることはありえない。


 全員が沈黙する中、シュウタロウが話し始める。


「……いや、もしかしてこの4人、全員違うんやないか?」


「どういうことだ? まさか、タケト――」


「タケトシ。その通り、タケトシが黒幕なんや」


「何を言ってんだ、そんなはずねぇだろ! この野郎!」


「ユウヤ落ち着いて! ……なんでシュウタロウくんはさ、タケトシくんが敵だと思うの?」


「……まず、ここにおらんということや。ヒビキが攻めに来た時は普通にメッセージ送れとったやろ? でも今はおらん、それは後ろめたいを抱えとるから。違うか?」


「そ、そんなのこじつけだろ! 大体あいつは敵に拘束されてる、スマホは他の誰かが操作してるんだ!」


 タケトシが裏切り者? そんなハズがない、なんせヒビキが初めて大学を襲撃した時もずっとユウヤの隣にいたし、一緒に修行もした。スープという敵も一緒に倒した。ユウヤは必死に弁明するが、シュウタロウは更に続ける。


「じゃあ13時半に大学に行ったんか? それとも14時か? 教えてや、なぁ!」


「……13時半だ、それがどうした!」


「それでどうなった、いいことあったんか?」


「……ヴィアンドは14時に弱体化した。ならば、初めから14時頃に行けば良かった」


「せやろ? それが答えや。あえてお前を始末するために、ヤツが強い時間に呼び込もうとしたんや」


「いや、お前も13時半説を支持してたろ! それに、それに……!」


 ユウヤはそれ以上の反論ができない。頭の中では既にが出来上がっているのだが、それを言語化できないのだ。頭に血が上り、思考を妨害する。それを見てシュウタロウはユウヤを鼻で笑うと、一人先に通話グループから抜けてしまった。


「……タケトシが裏切り? んなワケねぇよ、ふざけやがってぇ!」


 ユウヤが怒鳴る。あわててイチカとカエデ、メイはユウヤをなだめる。


「とりあえず落ち着いて! あのシュウタロウくんも言ってること変だよ、こじつけがすぎる」


「そ、そうだぞ! 大体よ、アイツ来てなかったじゃんか、ヒビキ戦に! それこそ怪しいじゃねーか!」


「そ、それに!『皆無事やったんか』ってセリフおかしいと思いますわ! ユウヤさんが言ったのは『オレ敵に襲われた』なのに……」


「……まぁ、とにかく! 今日は一旦お開きにしよ、このまま見えない犯人探ししてもムード悪くなるだけだよ……」


「……そうだな、もう今日はちょっと寝ることにする」


 ユウヤが通話グループを閉じると、すぐさま布団に潜り込み枕を殴りつけた。


「……裏切り者め!」



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