第46話 突風
これは1年前。チーム・ウェザーという名前を国内で耳にすることはまだあまりなかった時期のことだ。
当時も、チーム・ウェザーは「錬力術を自分達だけが使える世界を作り、近年増えた犯罪や事件を減らす」ことを目的に活動していた。
特にその活動に対して意欲があったのが風谷ヨウマという男だ。年齢はちょうど20歳、足が早く頭も切れる、そしてクソ真面目。そんな男だったという。
彼が亡くなったのは、それは寒い寒い吹雪の日だった。いつも通り活動をしている最中、共に任務をこなしていたヒビキ、そしてコウキという男だ。
『あーあ……まるでアイツの執念みたいに深い吹雪だ』
『まぁまぁ! 楽しくいこうよ楽しく! 雪だるま、作ってっちゃう?』
『2人とも、任務に集中してください。今回の任務は、遊ぶことでも愚痴を吐くことでもありません。任務は――』
『ハイハイ分かってんだよ。任務は聖霊の捕獲。そうだろ……ヨウマ? なぜ黙ってる?』
『……ヨウマ、しっかりしろ! ヨウマ……』
……死んでいた。即死だった。昨日まで、今朝まで、何一つ異変はなかったし、持病があるとか変なものを食べたとかそんな事実はない。ただ、間違いなく突然命を落としていたのだ。それはなぜだか、分からない。
ーーーーー
「……死んでいたんだ。突然、死神にでも魅入られたかのようにな!」
「……お仲間の死は気の毒だが、だからといってオレはそっちに加入しない」
「そうか。もし死にたくないってのなら、生きる道を提示しただけだがなぁ!」
「ぐはぁ!」
ヒビキはユウヤを蹴り飛ばした。一瞬視界がブラックアウトしそうになったが、何とか意識を保つ。そして子鹿のように震える脚を抑えながら立つユウヤを見て、ヒビキはカエデに向かって叫んだ。
「おい、そこの女! ポワソにかけてやってる技、治癒だろう! かけてやれ、ユウヤに!」
「えっ!? で、でも、雷……」
「構わん! さぁやれ、ダチが死ぬところをぼーっと見てたいのかぁ!」
「えっ、そ、それじゃあ……」
カエデは言われるまま、ユウヤに近寄って治癒技、アロエをかけてあげた。すると少しずつユウヤの顔も元気を取り戻し、腕に作られた傷も治っていった。
「あ、ありがと……何だか倒せそうな気がしてきた、ヒビキを」
「うん! ……絶対にお願いね」
ユウヤは着ていたトレーナーを脱ぎ、タンクトップ姿になった。本気で戦う、その意思表示だ。
「こっちの方がオレも動きやすいんでね……いくぞぉああああ!」
「やれやれ。まぁこれで、オレの実績になるさ」
再びユウヤとヒビキはボクシング選手のように互いに攻撃を浴びせ始めた。これまで戦ってきたヤツらよりも圧倒的に、そして明らかにヒビキは強い。速さとか攻撃力とか総合的な能力はもちろん、何より「ユウヤを潰す」という意志が攻撃一発一発に表れている。
(さっきみたいに不意を突けば、またチャンスが生まれるかもしれない! こうなったら……)
ユウヤは突然大声を上げた。驚いたヒビキは一旦距離を取り、再び襲いかかって来る。それを確認したユウヤは後ろ向きに逃げながら距離を保ちつつ、ヒビキを見続ける。
「クソ野郎、卑怯だぞ! 嫌がらせしては逃げ回る、そんなハエみたいな戦法をするヤツだったとはなぁ!」
「嫌がらせ? ちげーよバカ、よく見やがれ!」
「あぁ? ……ってその技は!」
「そうだ! お前をあの時ぶっ飛ばし、ヴィアンドを撃破した……タイフーンストレート。その準備ができたんでなぁ!」
ユウヤの手元には、いつの間にか風の球が作られていた。なんと、ヒビキから距離を取り続けながら少しずつ球を作り上げていたのだ。
「さぁ、逃げ回るのがイヤってなら……お望み通り、これで吹き飛ばしてやらああああああ!」
ユウヤは雨で濡れた地面を強く踏み込み、滑りそうになりながらも全速力で今度は逆にヒビキに向かって駆けていった。そして2人の距離、残り3メートルほどになった時、ランニングスローで思いっきりその球を上向きに投げつけた。
……見事命中。そしてヒビキは、その球の爆発とともに上空に向かって投げ出された。高さは5メートル以上はある。並の人間であれば大怪我は免れない高さだ。
「くそっ、しまった!」
「まだまだ終わらねぇよ、オレは時々! こうやってダメージを追わずとも、錬力術をかなり使えるようになってきたんでなぁ!」
ユウヤは息を吸い込み、まるでライフルの標準を合わせるように両手をヒビキに向けた。
「な、何が言いた――」
「地獄を先に体験しやがれ、ヒビキイイイイイイ!」
ユウヤは物凄い強風をヒビキに向かって吹き付けた。周りで戦闘を見守っていたイチカ達もその風にふっ飛ばされないように腰を落として身を守る。
「何だこれ! 台風ってレベルじゃねえぞ!」
「ユ、ユウヤ強い……!」
ヒビキはピストルから放たれた弾丸のように建物外壁へ叩きつけられ、そのまま木から落ちた葉のようにヒラヒラと地面に落ちていった。
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