第2話 チーム・ウェザー

 「ユ、ユウヤ! 何する気だ!?」


 不審者を撃退する妄想。ついに実行しようとユウヤは動き出したのだ。


(プロジェクターから映されている文字……! コツは、全身の力を込めてながら大自然の脅威をイメージし、力と気持ちをリンクさせる……やるしかない!)


 ユウヤは精神を統一しつつ、大きな台風を心の中で描き始める。するとユウヤの心臓の前で円状の陽炎のような歪みが発生する。そしてその刹那……ビュウウウと突風が室内を駆け巡る。


(何だこの錬力術……! これまで見たことがない、本当に、本当にユウヤ本人なのか!?)


 いつしかタケトシは逃げることを忘れ、その暴風にばかり意識を向けている。どんどん、どんどん巨大化する風の球をユウヤは唸り声と共に握りしめて圧縮し、人影に向かって大きく振りかぶって投げた。


「喰らえ! 必殺・決め球、タイフーンストレートォォ!」


 剛速球はビュウウウウ、グオオオオ! と唸りを上げて人影にクリティカルヒット! するとその人影はまるで紙くずのように吹っ飛び、大の字に壁に激突した。

 すると一瞬、今の技に驚くような挙動をを見せたかと思いきや、窓枠を飛び越え稲妻のようにどこかへと駆け抜けていった。


(う、上手くいってよかった……)


 ユウヤは力を使い果たした疲労感とひとまず不審者を撃退できた安堵感から倒れてしまった。心配して駆け寄ってきたタケトシは腕を貸しながら何とかユウヤを椅子に座らせる。


 しばらくして鈴原教授も他の学生たちも戻ってきた。どうやら“不審者”が講義室を飛び出し、そのまま大学の門から逃げていくのを見ていたらしい。

 ユウヤはだんだん息が回復してきたところで改めて周りの光景を目にするとその有様に驚いた。


「……やっちまった。ピンチってやつだな、またまた……」


 講義室に散乱したのはレジュメや荷物に文房具……先程の術で物がぐちゃぐちゃに散らかったのだろう。


 鈴原教授は講義室の有り様を見渡すと、咳払いしてユウヤに宣告した。


「鳥岡君……その勇気は認めますが、二度とあんな無謀なことをしてはいけませんよ、あとこの部屋片付けてくださいね。あと岩田君も止めなかったので連帯責任です」


「な、なぜオレも……!?」


 タケトシとユウヤは顔を見合わせると、お互いにため息をついた。2人は後粗末をしながら先程の“人影”の正体について考察していた。


「それにしてもさっきは驚いたぞ。あんな能力隠し持ってたなんてな」


「まぁ、タイミングよく錬力術のコツが画面に映されてたし。それに、ここぞという時の爆発力には自信があるからさ」


「火事場の馬鹿力野郎ってヤツだな……ユウヤって」


「へへへ、あざーっす。オレすごいっしょ?」


「調子乗るな、片付けるぞ」


 ユウヤは時々ふざけながらもタケトシと散乱した講義室を片付けている中、教室の外からこちらを呼ぶ声がした。


「ちょっとー、大丈夫? さっき騒ぎがあったみたいだけど……って何これ! グチャグチャじゃん!」


「あ、カエデじゃん! 後で飯奢るから手伝っ――」

「おいバカ! 手伝わせようとするな!」


「い、痛ぇよタケトシ!」


 タケトシはユウヤを引っ叩きながら怒ると、カエデに手を合わせてゴメンとポーズをとり、軽く会釈してユウヤに耳打ちした。


「なぁ、この子誰? 超可愛くねぇか!? 服装もどストライクだし!」


「ああ、同じサークルの子」


 タケトシが一目ぼれしたのは月村カエデという同級生だ。体形は平均ほど、黒髪ボブの似合う優等生だ。ニットやワンピースなどキレイ目な服装を好んでおり、1つ1つの仕草からは教養が垣間見える。


 彼女とすれ違えば柔軟剤の香りがふわっと鼻を包んでくれる。性格も明るく、優しく、それでいてしっかりしている。男女関係なく友達ができ、その上実はかなりの努力家。だからファンも多いし、ユウヤはそんな女友達がいることを心の隅で自慢に思っていた。


 タケトシはもはや獲物を狙うハンターのようだ。かなり食い気味に、ユウヤを質問攻めにする。

 

「講義何取ってるのあの子? SNS知ってる? サークルって確か野球サークルの……『錬力・リサトミ大学ネコマタズ』だっけ? 俺も入りてぇなあ」


「ん、ファーストは既に埋まってるぞ。それともマネージャー希望? かわいい!」


「うるせぇ、こんなガタイでも遊撃ショート守れんだよオレは」


 2人は大学生らしい会話を続けている。教室内も先程までのパニックはどこに行ったのやら、バイト先の愚痴や恋バナなどで溢れかえっている。

 そんな中、1グループの会話がなぜか異様に耳にスッと入ってきた。



「なあなあ、アイツの服見たか? 大量に付けた腕輪にさ、『チーム・ウェザー』とか書いてあったぜ。まさかに憧れてたりして!」


「ええマジ!? ヤバすぎだろ、ギャハハハハ!」


 ……明らかに先程の男の話題だ。どうやらチーム・ウェザーという集団に憧れた模倣犯だと考えているようだが、タケトシはそうだとは思えず、深刻な顔つきで不審者についての話題に戻してきた。


「なぁ、さっきのヤツさ、本物のチーム・ウェザーのメンバーじゃね?」


 チーム・ウェザーとは最近世間を騒がせている集団だ。今や錬力術はスマホやAIなどと並び必要不可欠なものであると同時に、それを利用した犯罪が蔓延していた。ユウヤは「チーム・ウェザーはその流れに便乗した過激派勢力ではないか」と考えを述べた。


「それにしても……ジコチューだな、そいつら。自分たちは錬力術使ってるくせに」


 タケトシは呆れ口調で話した。


「まぁどこかに帰っていったし! さっさと片付けて、とりあえずメシ食いに行こうぜ!」


「ああ、すぐ終わらせよう!」


 ユウヤとタケトシはどこか楽観的だ。いや、楽観的に演じるしかなかったのかもしれない。どちらにせよ、平和なこの生活も後に崩れることとなるのだった……。

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