第3話 出会い、出会い、また出会い
「「いただきます」」
ユウヤとタケトシは食堂で同席していた。ユウヤは好きなものを毎日気まぐれで食べ、逆にタケトシは栄養バランス重視の食事を心掛ける。
「タケトシのメニューすげぇ、給食じゃんほぼ!」
「バランス考えて食えって知り合いのボディビルダーが言ってたんだよ。家帰ったら即プロテイン飲まなきゃいけないし……」
「あぁ……おつかれさん」
そんな会話をしていると、突如マイク放送が流れてきた。
《先ほど、キャンパス内に不審者が現れました。不審者は敷地内の器物を破損した後、キャンパス外へ逃げたとの目撃情報があります。何か情報をお持ちの学生は学生課まで来てください》
放送は食堂に爆笑の渦を作り出した。この状況を見るに、錬力術のすすめⅠを履修していない人は先程の騒動を知らないのだろう。
「皆さっきのこと知らねぇみたいだな……あんだけ荒れてたのに」
「あぁ……どっちかっつーと、『ヤバいな笑』みたいな感じだしな皆」
「まぁ、錬力術で暴れる学生が定期的に現れるからな、この大学……」
2人で話し合っていると、カエデが食事を持ちながら話しかけてきた。
「お!ユウヤじゃん! 隣あいてる?」
「さっきぶりじゃん〜! おいでよ」
(!? き、来た……!)
ずっと目の前のご飯に向けられていたタケトシの目線は、たちまちカエデへと向けられた。まるで他の獲物を見つけた獣のようだ。
「あ、あの! オレはい、岩田タケトシです! どうもお願いします!」
「フフ、タケトシくんだね、私は月村カエデ。よろしく!」
「よ、よろしく、でふ!す」
タケトシはいきなり下の名前で呼ばれて驚きと興奮を隠せない。そんなタケトシを見てカエデは微笑みながらいただきますと手を合わせた。その後もタケトシはたどたどしくカエデと話し続ける。
ユウヤはニヤニヤしながら2人のやり取りを見守りつつ、豚丼を食べ進める。
昼食を取り終わった3人は一旦サヨナラを告げると、3時間目の講義へとそれぞれ向かった。
ユウヤが履修したのは”人類史に隠れた民族”という講義だ。特別興味が湧いたでは無かったが、シラバスによると“カモ”な講義であると感じたので履修したのだ。
始まりのチャイムがなると同時に、独特なファッションセンスの講師は話しだした。
「えー1回目ではありますが、さっそく民族について説明していきます。民族とはそもそも……」
周りの学生は皆スクリーンに映し出された資料やノートではなく、スマホに釘付けだ。恐らく皆も講義に興味があって取ったわけではないのだろう。そんな中でも講師は淡々と話を続ける。
「……この民族は火、水、土。色んな物を自由自在に、他の一族よりも卓越して利用していたと伝えられています。今で言う錬力術、彼らはすでに見つけていたのかもしれませんね」
(錬力術、かぁ……いや、この講義眠いわ)
いくら“錬力術という単語が出た”といえど、昼ご飯を食べた直後ということと不審者相手に全力を出したこと。何よりいまいち興味を持てないという3つのことが相まって、ユウヤはいつしか眠りについてしまった。
(……ここはどこだ?)
ユウヤが気がつくと、そこは辺り一面真っ白な空間だ。人も動物も物も全く見当たらず、ただ空虚な空間が広がっている。
「これ、夢だよな?」
ユウヤはキョロキョロ周りを見渡しながら歩いていると、陽炎のように歪んだようなモヤが現れ、ユウヤに語りかけてきた。その声はどこか不気味で、また恐ろしくて、だけど柔らかくもあった。
「……は、もう……」
「うわぁ! び、びっくりした!」
「貴方は、もう……」
「あ、あの?」
「貴方はもう大学生なんだから状況を考えなさい!」
「うわああああぁぁ!?」
叫び声とともにユウヤは頭を上げた。名前も知らない学生達が気まずそうにこちらを見つめてくる。そして“退屈な講義の講師”はユウヤの目の前まで迫っており、マイクを握りしめたままユウヤの居眠りを咎めた。
「睡眠、会話は許しません。次は教室から出ていってもらいますよ」
「は、はい。ごめんなさい……」
ユウヤは講師に頭を下げた。
それにしても、ユウヤは夢のことが妙に気になっていた。恐らく夢に出てきた声の主はこの講師だ。ただ、それにしてもこの講師とは初対面であるし、あのモヤも何か心当たりがあるわけではないのに不思議とその夢はどこか懐かしくもあった。それに、同時に近いうちに何かが起こってしまうと胸騒ぎを覚えるような感覚がユウヤの中にあった。
叱られた後はただ気まずさを感じながらの受講となったユウヤは、気持ちをリフレッシュしようととサークル活動に向かう。
「さて、2週間ぶりのサークル活動に向かいますかぁ。確実にあいつも来るだろうし」
グラウンド前で野球サークルが活動しているところを眺めているとしばらくしないうちにタケトシが来た。
「おせーよ、待ちくたびれたぞ……さて、これがオレ達のサークルだ!」
ユウヤが指差した先には、投げたボールに霜のようなものを纏い、ピンポン玉を投げたような軌道で飛んでいくボール、また軽くスイングしただけでものすごい勢いで飛んでいき、外野の壁を突き破るほどの打球……錬力術の確立により大きく進化した野球がそこで繰り広げられていた。
「すっげぇ……でもよ、また変なヤツが来て攻撃されないのか?“あの方”がどうとか言って」
「ま、あの変なやつ見かけたら速攻で中断するわ」
「それで穏便に済んだらいいけどねぇ……」
そんな会話をしていると、キャッチボールをしていた2人組が話しかけてきた。
「お、ユウじゃん! んで隣が同じ授業のタケか」
「岩田も興味あるん?入ろーぜ入ろうぜ」
彼らはアキヒコとヒュウマだ。学科こそ違うものの、いくつか被っている講義がありそこで友人関係を築いた2人だ。
「じゃあさ、さっそくやるか!」
ワイワイと会話を繰り広げていると、フェンスからこちらを煩わしそうに睨む巨体の男がいた。何か一人でブツブツと言いながら拳を固く握りしめ、ついにこちらに向かってくる。
「おい! 声がそこの教室まで聞こえてきてんだよ! お前ら錬力なんちゃらってやつ使うサークルだよな? それでオレとプロレスやってよ、負けたら活動辞めやがれ!」
「そ、そう言われても……」
「どうしたの、あの人?」
カエデがやってくると、たちまち男の矛先はカエデに向いた。
「お、おめぇ何だそのニット! 高そうな服着やがって! 挑発してんのか!」
「いやこれは……バイトを頑張って買った……」
カエデが怯えながらも声を絞り出すように反論すると、巨体の男はそのカエデの言葉を遮りながら大声で捲し立ててきた。その今にも不満とか劣等感とかが爆発しそうな顔からは激しい憎悪がうかがえる。
「だいたいな、窓からずっと見てたんだよ! 特にそこのチビ、お前はいっつもゲッツーやポップフライばかりなのにチャンスの時だけ一変して特大ホームランを打つよな、普段から打てよ!」
「お、俺のことすか……」
「そこの女も高い服自慢みたく見せびらかしやがって! オレのこの服はどうだ? もう3年間の使い古しだぞ、ほら!」
男は着ているTシャツをつまんで揺らしてきた。確かに首元の部分がよれよれになっている。
「オレは家のために必死こいてバイトして、なのにあのクソヤローはいつもコケにしてくる! オレだって留年してでも家に金入れ続けてんのによぉ、あいつは……!」
巨体の男は見るからにストレスを“あいつ”に対して貯めているようだ。許さないという確固たる意思がその表情からうかがえる。
ーーーーーー
『おいデカブツ! 今日も無能だなぁ!』
『あ? 何でこの日出れねぇんだよ! 単位なんて今さらどうでもいいだろ!』
『いつも悪かった! お前農学部だよな、あの客クレームつけてきたんだよ! この野菜がどうのこうのって! だから反論してくれ、頼む!』
ーーーーーー
巨体の男はバイト先での不満を愚痴り始めた。理不尽にキレられるその待遇にユウヤ達は同情したが、それだけでは当然男の怒りは鎮められない。
「オレが特に嫌いなのは、お前らみたいに“都合いい時に人が変わるヤツ”と“恵まれているヤツ”! そんなヤツらに勝ち正義を示す! オレの名前は谷崎ヒトシ、オレの力こそ最強なんだぁぁ!」
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