第4話 筋肉マシマシ、シンプルイズベスト?
ヒトシは間を置かずユウヤにラリアットを仕掛けてきた。暴走機関車のようなその勢いにユウヤは回避することができずに吹っ飛んでしまった。
「ぐぁぁっ! ただのデブじゃねぇ……!」
「ハハハハ、さらに喰らいやがれ! オラオラオラァ!」
パンチがユウヤに食らいついていく。ヒトシはただ力に任せデタラメに殴っているように見えるが、一発一発が重く、そして確実にダメージを与えていく。ユウヤには反撃する余裕がなく、腕で体を守ることが精一杯だ。
「おい大丈夫か!? 誰か呼んでくる!」
アキヒコはユウヤに駆け寄る。
「おい邪魔するんじゃねぇぞゴラ! さもなくばお前も……いや、まずはこのチビをさらにぶん殴るぅ!」
ヒトシはアキヒコにさえ一瞬怒りの矛先を向けたが、それでもなおユウヤに追撃しようと3歩下がり、突進してくる。続けてユウヤの横っ腹めがけてアッパーを仕掛ける。ヒトシの猛攻に対し、ユウヤはただ攻撃を受け続けることしかできない。
介入すれば逆にユウヤが攻撃されるだけ、そもそもこのガタイに勝てる自信はない……周りの人はただユウヤの無事を祈るのみであった。タケトシとカエデを除いて。
「いい加減にしろ! “
そうタケトシが叫ぶと地面からゴゴゴゴと音を立てて土壁が現れ、ユウヤとヒトシを無理やり引き離した。そして急いで回り込み、ヒトシを何とか羽交い締めにした。
「くそっ、離しやがれゴラァ!」
「させるか、オレも鍛えているんでなぁ! ナメてもらっちゃ困るぜぇ!」
「タケトシ君ナイス! 私もいくよ、“アロエ”!」
カエデが叫んだ瞬間、柔らかな緑の光がユウヤを優しく包みこんでいく。それに合わせてユウヤの苦しそうな顔も和らぎ、たちまち元気が溢れた。
「ヨーグルト朝食べ忘れたから助かったぁ! ありがと、2人とも」
「ふ、ふざけてる場合じゃないでしょ!」
「皆、一旦逃げてくれ! オレが引き止めているうちに……! ほら、ユウヤ……も!」
タケトシはヒトシが動けないようにしながら何とか声を絞り出した。
「何だ何だ、友情ごっこかぁ? それでもオレには勝てないんだが、なぁ!」
ヒトシはタケトシを押し返し下っ腹をぶん殴った。錬力術を用いて一時的にではあるが筋肉を増大させているヒトシと1年間にわたるトレーニングで鍛え続けたタケトシだが、その軍配は前者に上がった。予想外に重い攻撃によりタケトシは思わず地面に叩きつけられてしまった。
「タ、タケトシ!」
「す、すまねぇユウヤ! 負けちまった……グフッ!」
「おいおい! さっきまでのカッコつけは! やめちゃったのかなぁ!」
「ぐぁっ! ぐはっ! あぁあっ……」
ヒトシはタケトシを何度も何度も踏みつける。それにはユウヤも流石に怒りを抑えられなかった。
「やめろ……これ以上は許さねぇぞ!」
ユウヤの周りで突然、風が吹く。
「ん? 何だ今の風?」
(今はピンチってやつ……だが、だからこそさっきみたいに、こうすれば!)
ユウヤは再び力を貯め始めた。目を閉じて意識を集中させると、体の前で小さな渦巻きが浮かんできた。そしてどんどんそれは成長をとげ、運動会の大玉ほどの大きさになった“風の球”を圧縮して投げると、ビュウウウウと音を立てながらヒトシめがけて飛び、見事命中する。
「ぐああっ!」
「や、やったか!?」
砂煙の中から現れたのは、口元に切り傷を作りながらも仁王立ちしているヒトシだ。ほとんどダメージは与えられていなかったのだ。
「……ぜぇ〜んぜん痛くも痒くもねぇ! それに、『やったか』って思った時は大概倒せてねぇのさ、オレも例外でなく!」
「う、嘘だろ……」
ユウヤとタケトシは絶望の淵に叩きつけられた。一方ヒトシはいいマッサージになったと言わんばかりに嘲笑っている。
「ハハハハ! お前はムカつくが笑わせてくれらぁ! 今の技の威力を見る限り、多分まだ追い込まれ足りないようだなぁ、ならば大技を喰らわしてやる! 長文レス・タアアアアック――」
「ユウ、助けを呼んできたぞ! そこら辺にいた先生だけど、何か服装的に強そうだったからな!」
「喧嘩はやめなさい! “チャコールバインド”!」
突如現れた不思議な服装の女が錬力術を発動させた。すると錆びた銅色の手錠と足枷の形をした何かがヒトシにまとわりつき、縛り付けた。
「ぐぉああ!? な、なんだこれ、動けねぇ……」
ヒトシは身動きを取ることができず、そのまま地面に倒れて立ち上がれずにいる。
女はヒトシに近づき、こんな騒ぎを起こすなと叱り始めた。その服装、声、至近距離での説教……ユウヤはその女の正体にすぐに気がついた。
「さ、さっきの先生!」
「お昼食べて帰ろうと思ったら騒ぎが起きてるものですから。鳥岡君ですね? 授業中寝るわこんなことも起こすわ……ちょっと来なさい」
周りを見渡すと、大勢の見物客がこちらを見ている。どうやらかなりの騒ぎになっていたらしい。中にはスマホを向けてきている人もいる。きっと動画を撮ってSNSにでも載せるつもりなんだろう。
「聞いてますか、いいからこっちに」
「い、いえ……すみません……」
タケトシは内心、大変なことになったなとユウヤに同情しながら見守るだけだった。他のサークルのメンバーも皆トボトボと歩くユウヤに同情するような目で見つめていた。
「鳥岡君……錬力術は喧嘩のために存在するものではないんですよ」
「はい……」
「……素晴らしい発明がいつしか命の奪い合いに使われるようになる、そんな過去の歴史を繰り返してはなりま――」
その時だった。キャンパス中に連続して数十発の雷鳴と爆音が響き渡った。ユウヤは青ざめた。明らかに自然現象ではない、そしてこれは間違いなく不審者の術と同じものだ、と。
(まさか、これって……!)
「鳥岡君、なぜそんな後ろめたそうな顔をしているのですか? ……まさか何かしたのですか?」
「……不審者を追っ払いました。錬力術のすすめⅠっていう講義の――」
「錬力術!? それってまさかあいつらの仕業……!」
「あいつらって?」
「チーム・ウェザーです! 他の大学でも既に被害が出ているんです、ヤツらが襲うのは決まって錬力術をメインの題材とした講義! にも関わらずこれほどまでに集中砲火をするなんて、きっと激怒してるに違いありません!」
「チ、チーム・ウェザーって!」
「鳥岡君、これは特別課題です。一度向かいますよ、アイツらの確認のために!」
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