第34話 謎の研究者

「だ、誰だっ!」


 ユウヤ達一同が驚いていると、オーバーサイズの白衣姿のその男はようやく着地体制から立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。


「驚かせて悪いな。我が名前コードネームはブティフール。ヒビキと同じチームに属している者だ」


「ヒビキと、同じ……?」


 ユウヤは困惑した。なぜチーム・ウェザーの者がここに来た? それにどうやって自分ユウヤ達を感知したのか? 何もわからない、でも何とか立ち向かおうとユウヤとイチカは語気を強める。


「なぜここが分かった! それにあれだけ他の部下がやられても、全く懲りる様子もないみたいだな!」


「そうだそうだ、さっさと帰れ、えっと……エイプリルフール!」


 しかしブティフールはびくともしない。


「部下とは、アパタイザーとか、あとスープのことか? あらかじめ言っておくが、我は全くの別次元だ。なぜなら我は錬力術研究の最先端を行く者だからだ!」


 ブティフールは宙へと浮かび始めた。天井ほどの高さまで昇ったかと思うと、まるで魔法使いのようにそのままふわふわと浮遊している。

 確かにアパタイザー達とは比べ物にならない程の威圧感を感じる。まるで飢えた猛獣と目があっているかのように、心の底から冷えあがるようだ。春先にも関わらず、間違いなくこの部屋だけは極寒と化していた。


「ヘックション! 何なのこれ、寒すぎる……!」

「くそっ、何だかわかんねぇけど! ヒビキがまた刺客を送ってきやがったか!」


「ヒビキの刺客だと? 否! 我の判断で動き、錬力を探知しここを見つけた。危険因子は早めに取り除くことにしているのでな」


 ユウヤ達は身構える。こいつはマトモな奴じゃない。


「……錬力のエネルギー量、タケトシとカエデ、500.0r。イチカ、800.0r。ん? ユウヤは180.0rから1800rと振れ幅が大きいようだ。そしてシュウタロ――」


「何や、ブティフール。気安く呼んでくんなや」


 シュウタロウは目を見開き、鋭い眼光をブティフールに飛ばした。一瞬ブティフールは身がすくんだように見えたが、それをごまかすように白衣を大袈裟になびかせ、再び話し始める。


「氷河期で、当時栄えていた多くの生物が絶滅したという話は聞いたことがあるか? まさに同じことを起こすつもりだ。我の錬力は4999r。計画の手始めに、汝らへと死に、苦しむ権利を授けよう」


 部屋の中に吹雪が暴れだす。間違いない、こいつは確実に命を奪おうとしている。0℃、-5℃、-10℃。冷凍庫と化したその部屋で、ついに1人5が動き始めた。


「させるか! 火山弾ガトリング!」


「お、おい! タケトシ!」


 タケトシの周りに燃え盛る石が浮かぶ。そしてブティフールめがけて投げつける。

 雪VS火、こちらにがあるだろう。誰もがそう思った。しかし現実はそうではなかったのだ。何と無数の石の火は消えてしまい、そのまま湿って腐るかのようにボトボトと床に落ちてしまったのだ。


「な、何っ!? 火が雪に負けるなんて……」


 驚き絶望するタケトシ。それを見てブティフールは嘲笑う。


「ニヒャヒャヒャヒャヒャ! ジャンケンじゃねえんだぞ、錬力術は!」


「ジャ、ジャンケン……?」


「考えてもみろ、火は水で消火できると同時に、火は水を沸かせて蒸発させる! 単純な強い弱いではない。それにその程度の錬力術で我にかなうと思っているのか?」


「く、くそ……」


 タケトシは膝をついて倒れた。


「挫折したな? タケトシよ。だが、数々の失敗や無念の上に成功が成り立つのだよ。だからタケトシ、我々の野望を達成するという成功のための踏み台となってくれ」


「な、何をするんだ……」


冥界冬暁ヘルズ・コールドサンライズ


「……おい、やめろ! どこだここは!」


「どうしたんだタケトシ! 落ち着け、ここにいる!」


 パニックになるタケトシ。周りから見れば何も起きていないように見えるが、タケトシ本人の目の前にはこの世のものとは思えない、恐怖と残酷に溢れた世界、まるで地獄が広がっているのだ。

 恐怖から頭を抑えてうずくまるタケトシ。ユウヤはもちろん、他の皆もこんな姿を見るのは初めてだ。


「んぐ……ぐぁあ……うわあああぁぁ!」


「おおっと。そろそろ楽にしてあげましょうか」


「おいやめろ、ハリケーンストレエエエエト!」

「わ、私も! スナバコノキ!」

「ウチもやるぞ……おらあああああああ、火突ひーとぉぉぉぉ!」


「……馬鹿めが。零度葬アイス・ブリアル


 ユウヤ達3人の攻撃を軽くあしらい反撃するブティフール。


「何だこれ……手足が凍って動けねぇ……」

「私は胴体が凍って……意識が……」

「く、くそ……」


「さて、そろそろまとめに入るとするか」


 ブティフールは指を鳴らした。その瞬間、タケトシの体に異変が生じた。何と、足から頭に向けてどんどん氷像のように凍っていくのだ。それに反応する暇すらなく、タケトシは氷漬けになってしまった。


「タ、タケトシイイイイイイ!」

「そ、そんな……タケトシくん……」


「今回はここまでにしてやる。サンプルも手に入ったからな」


「おい待て、おい……!」


「最後に1つ。錬力術とはエネルギー革命! 石炭、石油……それらに次ぐ、人体そのもののエネルギー、命のエネルギーだ!」


 手足を凍らせられて反撃ままならないまま、ブティフールはタケトシを抱え、意味深な言葉を残してどこかへと飛んでいってしまった。


「そ、そんな……タケトシくん……」


「おい、ブティフールぁぁぁ! 絶対許さねぇ、絶対ぶっ倒しにいくからなああああああ!」


 カエデが悲しみで涙を流し、ユウヤが激昂する中、ついに異変に気付いた栄田がドアを開けて部屋に入ってきた。


「い、一体何があったんです! それにこの部屋……まさか!」


「まさかって、何か知ってるんですか!?」


「はい! これほどまでの寒気、間違いなくチーム・ウェザーのものです!」


「確かに、あの人ヒビキと同じチームとか言ってました……」


「もうここまで来てるなんて……それにタケトシ君は!」


「……氷漬けにされて、連れてかれました」


「あぁ……何てこと」


 栄田は弟子が連れ去られたことにかなりショックを受けている様子だ。その悲しそうな顔を見て、ユウヤ達は黙っていることはできなかった。


「栄田さん……しばらくここで修行をつけてくれませんか。最初、ヒビキに襲われたときよりは強くなってきてます。そして、これからも強くなれると思うんです。だから、どうかお願いします」


「わ、私からもお願いします!」


 マスターは悩む様子を見せるどころか、少し嬉しそうに首を縦に振ってくれた。

 それから5日間、ユウヤ達の修行は続いた。オンライン講義もようやく開始し、大学生としての生活も再開した。しかしユウヤ達の戦いはこれからが本番だ。いつヒビキやその刺客が来ようとも……絶対に迎え撃ち、本来の平和な生活を取り戻し、何よりタケトシを救出する! ユウヤ達の心の中で大きな炎がめらめらと燃えた。

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