1章-4 決戦・ヒビキ編
第35話 セキリティにはご用心
気温も少しずつ暖かくなり、日も長くなり、ようやく春を感じられるようになってきた。
オンライン講義も本日から再開、ユウヤにとってその1発目は“錬力術のすすめⅠ”だ。
前回、対面授業ではヒビキの乱入などもあり全く講義どころではなくなってしまったこともあり、かなり気合が入っている。それに、今この家にはユウヤ1人しかおらず、環境に関してはかなりリラックスして講義を受けられそうだが、それと同時に胸騒ぎを覚えていた。
もしかして、またチーム・ウェザーの連中が現れたりしないか? 他の大学に通っているイチカも彼らの襲撃にあっていることから、ユウヤはかなり不安であった。
しかし、そんな不安をよそに講義が始まる。担当教授は前回と変わらず鈴原教授だ。
「それでは、2回目の講義を開始します。前回の復習からですが、まず、錬力術とは――」
(相変わらずゆっくりだな……)
ユウヤがメモを取りながら画面をじっくり見ていると、参加者リストに何か気になる名前の学生が1人いた。
「ん? 空浦タロウ?」
その服装も不気味だ。黒っぽい赤とか青とか緑とか、暗い色のグラデーション模様の中央にはドクロ。その周りに見たこともない文字でつらつらと長文がプリントされている。
さらにどういうワケかどこか屋外で受けているようで、コンクリートの壁には時々車の影が映り、その人物の顔にすら軽くモザイクをかける。
別にただの興味本位だが、ユウヤはその服に向かってスマホの自動翻訳カメラ機能を用いて和訳してみることにした。
“私達は偉大なる血筋を守ります。それは本来の地球と文明のためです”
……後悔した。中二病なのか? 大体、偉大なる血筋って何だ? 文章を見なかったことにして教授の話に再び耳を傾けようとした途端、ユウヤは絶句した。何と空浦タロウと名乗るアカウントが、先程ユウヤがしていたように、画面に向かってスマホを向けているのだ。
(き、きっとノートの代わりに写真撮るだけだよな)
そう自分に言い聞かせたその瞬間。ユウヤのスマホに1件のメッセージが送られてきた。送り主の名前はT.Soraura……恐る恐るそのメッセージを開いてみると、こう綴られていた。
“見てるのはわかってんだよ、鳥岡。何か文句あんのか?”
トゲトゲしているメッセージにユウヤは思わずヒヤリと背筋が冷たく感じた。そもそも、どうやってユウヤのスマホにメッセージを送れた? SNSで繋がったりしているワケでもないはずなのに。とにかく無視しようとも思ったが、空浦は明らかにユウヤの方を睨み続けている。その上、早く返信しろと言わんばかりにスマホを指差しながら何か叫び続けている。仕方なくユウヤはそのメッセージに返事をすることにした。
“いや、別に? ただ個性的だなぁって”
するとすぐに返信が来た。
“当然だろ、これはあのお方を崇拝する戦闘服”
中二病かよ……しぶしぶユウヤは返事をする。これが最後のやり取りにするつもりだ。
“っていうか、何でオレの番号知ってんの?”
“当然だろ? お前の情報はチーム・ウェザーにダダ漏れだ!”
何だと!? 思わずユウヤはスマホの電源を落とす。しかしそれも手遅れだった。オンライン講義のために起動しているPCに、無数のメール着信通知が現れ、画面をすぐさま埋め尽くしてしまったのだ。
通知欄を眺めてみると、件名がおにぎり、前財布落としちゃった、おむすび、絶景の見える温泉、体育館、たくあん、お母さんの塩むす、スミレ。一見無意味な単語の羅列であり、タチの悪いイタズラかと思ったが、何となく各件名の頭文字を繋げてみると……
『お前お
「お前を絶対倒すだと!?」
ユウヤは思わず叫んで立ち上がった。マイクをオフにしていて助かった。これはただの構ってちゃんとかではないだろう。きっとチーム・ウェザーの一員で、ユウヤの個人情報などと共に講義のURLなどの情報を盗んでこの講義に紛れ込んだのだろう。
どこから襲撃してきやがるんだ、思わず部屋の周囲を見回していると、ものすごい勢いでインターホンが鳴った。
ピンポンピンポンピンポンピンポン! 間髪入れず次々鳴り続ける呼び出し音。
(まさかオレの近くで講義を受けていたのか、テザリングとかまで用意して準備深いヤツだな!)
ユウヤはジャージ姿のまま、急いで階段を降り、外に出た。そこに立っていたのはあのドクロのTシャツを着た小柄な男だ。その男はニタニタと笑いながら話し始める。
「ヘヘへ……ユウヤいた。最近オレ達の活動を妨害している野球サークル所属風属性の術を得意とするユウヤだ」
「な、何だよ」
「冥土の土産に教えてあげるけど、オレの名前は……だ」
「え、何て?」
「闇夜の暗新月、空浦だ!」
「あ、はい……」
「お前はオレ達の平和への旅を邪魔する魔物。まあ、今更後悔してももう遅い、あのお方に授かった力のおかげで世界一強くなったこのオレが悪を成敗するんだからなぁ!」
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