第31話 第三試合 ユウヤVSイチカ その1

様々な話題で駄弁っているユウヤ達にとって、合間の数十分間はかなり早いものであった。イチカの体力も完全に回復したところで審判が旗を持って準備を済ますと、高らかに宣言した。


「それでは、第三試合! ユウヤVSイチカの試合を始める! 両者は位置につくように」


 最初は、ユウヤを最近街で暴れている犯人だと勘違いして勝負を申し込んできたイチカ。それは間違いなく正義感によるものであったが、正直なところイチカはユウヤとの勝負にワクワクしていた。このユウヤという悪者はどれほど強くて、賢くて、そしてどんな人物なのだろうかと。力でねじ伏せたいなどではなく、ただ純粋な興味と闘志がイチカの原動力となっていた。

 最初は、イチカは面倒なヤンキーだと勘違いしていたユウヤ。彼女から申し込まれた勝負も、ただ流れ作業のように淡々とこなしてあげていたが、その後現れた轟音のBという敵に対して共闘する中で、信頼感と友情がユウヤの中に芽生えていた。そしてそれは今でも変わらず残っており、この組手であの勝負の決着がつくことに対してかなり燃えている。


「それでは、試合開始!」


 “わからせ勝負”のファイナルラウンドが、今始まった!


 まず仕掛けるのはイチカ。両手にメラメラと熱気を纏い、忍者のように駆け出し、そのままユウヤ目掛けて一直線だ。ユウヤも腰を落としてそれに備えると、それを見たイチカは何と両手に宿した熱気を消し、熱気を胴をつたって足まで移動させ、そのまま手を床に手をつき体を持ち上げながら蹴り上げてきた。不意打ちを食らったユウヤは体勢を崩す。


「へへっ、どうだ武霊蒸ふれいむは? してやられたろ!」


「あぁ、だがオレもそれだけじゃ済まないさ!」


 ユウヤはパチンと指を鳴らすと、ビュウンと音が鳴り響く。何が起こったと辺りを観察するイチカをユウヤはニヤリと笑うと、ドヤ顔で告げた。


「ほらほら、オレの手元を見てみな!」


「……ん? 何だか手元で風が唸っているような?」


「その通り! 野球サークルで培ったコントロール、見せてやんよ」


 ユウヤは大きく腕を振りかぶり、荒ぶる球状の風を勢い付けて投げつけた。その途端部屋中は暴風に包まれ、真っ直ぐ立っているのでさえ一苦労な程だ。部屋中の塵が風に吹かれて暴れまわり、視界がかなり悪い状態となっている。この攻撃には観戦しているだけのタケトシ達も驚きを隠せない。しかしそれも当たり前だ。「追い込まれないと真価を発揮できない」はずのユウヤが初っ端からこれほどまでの出力を発揮しているのだから。

 いつの間に短所を克服したのか、実は誰かと戦ってダメージを受けた状態で組手大会に参加しているのか、はたまた自らの闘争心を追い込んでいるのだろうか……? どれにせよ、今のユウヤが絶好調であることは確かだ。


「くそっ、かなりヤバ――」


 イチカがそう悟ったのも束の間、ものすごい風圧と衝撃がイチカに襲い掛かる。ユウヤの表情は自信に溢れており、この技はすごいだろと言わんばかりだ。

 だが、舞い上がった塵がようやく落ち着きを見せると、その奥から現れたのは腕を頭の前で組みながら、笑顔で立っているイチカだった。


「い、今の技を防いだだと!?」


「へへへ、どんなもんよ」


 イチカは全くの無傷だ。だが、攻撃を避けた様子も見られない。何か“タネ”があるのだろうか? ユウヤは警戒するが、それが何なのかは全く分からず仕舞いで、カエデ達も何が起こったのか分からずにいた。ただ一人を除いて……


(……はたき落としはったな、攻撃を)


 確かにイチカの腕の周りには陽炎が浮かんでいた。きっとイチカ側も錬力を腕に集中させて攻撃技そのものを床にはたき落としたのだろう、それがシュウタロウの見解だ。暴風VS熱気、あまりにも白熱した戦いに集中するばかりでそれに他の誰もが気付かなかったが、彼だけは冷静に状況を見極めていた。


「ならば……スピード勝負だぁぁ!」


 今度はユウヤがイチカに向かって駆け出した。

 ……速い。まるで音を抜き去らんとするその衝撃で、部屋の中に強風が突き抜ける。ユウヤはがむしゃらにパンチを、フックを、キックを繰り出す。動き自体は俊敏であるが、その中身はかなり脳筋なもの。ただ、あまりの速さにイチカも、そしてタケトシとカエデも目で追うのがやっとだ。イチカは何とか腕で攻撃をはらい、ダメージを最小限に抑える。ユウヤも次々と攻撃していくが、中々決定打が出ずにいる。インファイト戦の中で、両者のスタミナはどんどん消費されていく。


(ハァ、ハァ……攻撃についていくのがやっとだ……でもどこかで反撃しないと……)


(ハァ、ハァ……イチカのやつ、どこまでついてくるんだ……早く決めないと、疲れたところを反撃されてしまう……)


「ものすごい戦いだ! こりゃどっちが勝つか分かんねぇぞ……」


「どっちも頑張ってー!」


(……なるほどなぁ、そういうことなんやな)


 タケトシとカエデは2人を応援している。そのスピード感に何が起こっているのか全てを理解することはできていないが、見ている側でもかなり盛り上がれる、そんな戦いが繰り広げられていた。それに対してシュウタロウは何かを察したかのような顔をしていた。タケトシは一瞬その態度に違和感を覚えたが、構わず再び目線をユウヤとイチカの方へ向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る