第30話 ヒビキの苦悩

 ユウヤ達が組手大会を開いているちょうどその頃……チーム・ウェザーのヒビキ達は着々と打倒・ユウヤの作戦を立てていた。

 明らかに一般人よりも我々の方が錬力術の知識も扱いも上のはずだ、それにも関わらずこれまで送ってきた刺客が次々と恥を晒して帰ってくるばかり……ヒビキは自らの部下を呼び出し、作戦会議を開こうとしていたが……ヒビキを除いてたったの2人しか集まっていない。


「何で……なぜこんだけしか集まらねぇんだよ! クソが……!」


 晴天のどこかで、雷鳴が轟いた。


「ボ、ボクはちゃんと来たよ! え、偉いでしょ、ボク――」


「うるせぇぞアパタイザー! 自らの能力で自滅するとは情けない……詰めが甘いどころの話じゃねぇぞ!」


「ひ、ひぃっ!」


 ヒビキはアパタイザーを怒鳴り散らした。しかしこれでも相当怒りを抑えているのだ。ヒビキがその気になったならば、敵だろうが部下だろうが、建物だろうが無抵抗の人間だろうが、跡形もなく片付けるだけだ。

 アパタイザーはかなりヒビキに怯えている。まるで強面の教師と子どもだ。反抗どころか弁明する気さえ起きない、いや起こさせないほどの気迫がヒビキの眼光にはある。その時、今の様子を見て横から笑い声が響いた。


「ハッハッハ! リョウマ殿、修行が足りていなかったようですな!」


「う、うるせえぞこの忍者ヤロー……ここでやってもいいんだからね」


「やめとけでござる、やめとけでござる! 声が震えておる、まるで鷹の前の雀」


「……や、やんのかよ? 植物の毒、モノによっちゃあ人間の命なんて簡単に刈り取れるんだよ?」


 もはや会議はどこへ行ったのやら、何やら揉めるアパタイザーとスープの2人。怒るどころか会議を進める気力すらなくなったヒビキは強くドンと音を立てて床を踏みつけ、わざとらしくドアを力強く閉めて出て行ってしまった。それを確認し終わると、アパタイザーはゆっくりと口を開いた。


「……ボク、正直アイツ嫌いなんだよね。仕事中は“ヒビキ様”とかで呼んでるけどさ」


「……拙者も同じでござる。コードネームもセンスないことこの上なし」


「ゴメンね、サスケ君……仲直りしようよ」


「リョウマ殿、拙者もかたじけない」


 ある意味、ヒビキのお陰で喧嘩を収めることができたようだ……が、当の本人はかなり苛立っている。アジト内を地団駄を踏みながら歩くその様子は、すれ違う皆を萎縮させる。


「オレのチーム最悪じゃねえか! 無能な割にやる気もねぇ、これで結果を出せだと? 責任だけ押し付けてきやがって……くだらねぇ!」


「おぉーっとヒビキ君、ヒビキ君! 怒ってんねぇー、どしたんー?」


 フランクなのか、陽気なのか、度胸があるのか、それとも空気が読めないのか……そんな男がクリームがトッピングされたミディアムサイズのコーヒー片手にヒビキを引き止めた。


「……何のようだ、不沈陽しずまず


「もぉーヒビキ君、それはネット上の名前! ちゃんと本名で読んでくれたっていいじゃあん? コ・ウ・キ、ってさぁ」


「……いい加減にやめろ、煩わしい」


「つれないなぁ……それでさ、最近どぉなのよ? ノルマ達成いけそ?」


「あぁ? 無理だ無理、チームのまとまりったらありゃしない」


「ひえぇ、胃痛だなぁ」


 見ての通り一昔前の言葉で表すと、コウキはかなりの“チャラ男”だ。SNSの24時間限定投稿をしすぎて毎日砂鉄のように自撮りが並んでいるし、自分でハッシュタグを1日10個は作り出している。

 彼が放つ言葉はどれもかなり軽いものに聞こえがちだが、本当は誰よりも他人のことを考えて過ごしており、ヒビキも実は心の奥でコウキを信頼している。


「……んで、そっちはどうなんだ?」


「んん〜、まぁボチボチかな? ネンミ君もサム君も結構頑張ってくれてるし、あとケ――」


「ああもう、うるせぇうるせぇ! マトモな部下が羨ましいわ、まったく……」


「お、おい! 待てって……」


 ヒビキはコウキの言葉を遮るように大声を出すと、そのまま再びドスドスと歩いて行ってしまった。流石にコウキにもヒビキを止める隙はなく、ただどんどん遠ざかる背中を見つめるだけだった。


 

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