第29話 第二試合 イチカVSカエデ

 次の試合はカエデとイチカの対決だ。カエデは攻撃に防御、回復技まで幅広く使えるオールラウンダー。勉強熱心でサークルにも積極的に参加する、マメな性格がそのスタイルにも出ている。一方イチカはガンガン攻撃を仕掛けるアタッカーで、接近戦を得意としている。かなり運動神経も良く動きも素早いが、カエデにはホウセンカなどの遠距離攻撃がある。


(この勝負……ややカエデが有利か)


 ユウヤが勝敗を分析している中、両者とも念入りに準備体操を行なって戦いに備えている。そして審判は旗を上げ、高らかに宣言した。


「それでは、試合開始!」


「イチカさん、よろしくお願いします!」


「おうよ! こっちこそよろしく頼むぞ!」


 イチカはカエデが頭を上げ終わるのを見た途端、クラウチングスタートの体勢になった。今すぐ狩ってやる、そう言わんばかりの眼光はサバンナの猛獣を彷彿とさせる。予想以上の気迫にカエデは思わず固唾を飲んだ。

 しかしそんなカエデを気にかけることもなくイチカは真っ直ぐに駆け出した。どんどんそのスピードは上がっていき、初っ端からカエデに襲いかかろうとしている。素早く、それでいて恐ろしいその姿はまるで空を切り裂き燃やす火球のようだ。


「まずはこれからいくぜ! ウチのコンボを目に焼き付けな!」


 パンチ、パンチ、飛び蹴り、アッパー、チョップ、タックル。ありとあらゆる攻撃が打ち上げ花火のように次々と襲いかかる。その猛攻をカエデは何とか避けていく。


「ハッ、ハッ! どうだぁ! ウチの、インファイト戦法は! ヤケドしそう、だろぉ!」


「はい! なかなか、やりますね……でも、こっちも、受け身では、終わりませんっ!」


「おぉ? どうするつもりだ?」


「ま、今から見せるよ!」


 カエデは一度腕で攻撃をはらい、そのまま後ろ向きに走って一旦イチカと距離を取った。そして壁まで下がったところで水泳の泳ぎ出しのように壁に片足を付けて前傾姿勢をとる。

 そして両手を体の前に構え、目を鋭くさせて叫んだ。


「スナバコノキ!」


 とても大きく硬い、まるで弾丸のような種が現れ、ものすごい速さでイチカに向かって飛んでいく。


「へぇ、見た目に反してアグレシップじゃん」


 イチカが呟いたと思ったのもつかの間。なんとイチカはその種、いや弾丸めがけて自ら向かってきたのだ。試合を見ていたタケトシは驚いて叫んでしまった。


「な、なぜ自分から!? ダメージ受ければ受けるほど強くなる能力使いなのか!?」


 弾丸と接触まで残り数メートル……そこまで距離が縮まったところでカエデはジャンプし、折りたたんだ右脚で弾丸を蹴り返そうとしている。


「アアアアアッ! くそ、種のはずなのに何て重さだ……!」


 カエデはいつもの清楚な性格からは想像ができないほどにこの試合で燃えているようで、すかさずカエデに向かってさらに技を放つ。


「ホウセンカ! 直接放射バージョン!」


「な、何!?」


 カエデは何と無数の種を直接スナバコノキの種に向かって解き放った。イチカの右脚にさらなる猛攻が襲いかかる……が、イチカもそう甘くはなかった。


「く、くそ……! 自信満々でいられるのも……今のうちだぁ!」


「えぇっ、まさか!」


 なんと、カエデは雄叫びを上げてスナバコノキを蹴り返してきた。カエデの周りには陽炎が浮かんでおり、そこだけ空間が歪んで見える。たまらずカエデもホウセンカで応戦するが、イチカの脚力と熱気には敵わなかったのか、どんどん攻撃が押し返されている。


「おいおいやべぇよ月村さん……このままじゃ自分の攻撃でやられちまうぞ!」


(轟音のBとの戦いの時から思っていたが、やっぱりイチカの身体能力と攻撃力は相当なもの……“勇者御一行”の中でも最強クラスかもしれねぇ)


 タケトシの心配も虚しく、スナバコノキとホウセンカはカエデのすぐ目の前の床に勢いよく叩き落された。そして派手な爆発音と共に煙が部屋中に立ち込める。


「ケホッ、ケホ……! 煙で前が見えな――」


 煙の中に紅い眼光が走った。獣のように執拗に獲物を追うような鋭い眼光……間違いなくイチカは霧中から次の攻撃を仕掛けてくる。そう勘づいたカエデはスゥッと一呼吸置き、


「ヒイラギ!」


 と叫ぶ。すると床を突き破って生えてきた大きなギザギザの葉がカエデを鎧のように包みこみ、さぁもう一度攻撃してこいと言わんばかりにイチカを待ち構えている。

 煙がだんだんと消え、前が見えてきた。そしてようやく消え去ったところでイチカの姿が見えてくると、楓のすぐ目の前でパンチのポーズをとっており、ギザギザの前で拳を寸止めしている。


「へぇ、棘で身を守ろうって作戦か。これじゃあ迂闊に近づけないな」


「気付くなんて流石! これに当たると、かなり痛いんだよ!」


 カエデは床の割れ目から小石を拾ってギザギザにぶつけてみた。すると小石は粉々に崩れ落ち、パラパラの砂となって武道室の床を汚した。


「まぁ……そんなの打ち消してやれるんだけどな!」


 イチカは拳を握って目を閉じ、力を溜め始めた。


「ハアアアアアアアアッ……」


 部屋中にイチカの声が響き渡る。試合を観戦しているだけのユウヤ達にもそのプレッシャーが突き刺さり、思わず一瞬立ちすくんでしまった。


「ハアアアアアアアアッ……」


 凄まじい熱気だ。まるで太陽のように熱く、かつ大きくて強いオーラがイチカを包んでいる。


「す、凄まじい熱気……!」


 カエデがイチカの熱気に驚いたその瞬間だった。カエデを包んでいた大きな葉がポロポロと音を出して崩れ落ち、華奢な体つきが少しずつ姿を表し始める。


「おいユウヤ、葉が崩れ落ちたぞ! 熱気だけで他人の錬力術を完全に打ち壊すなんて……とんでもねぇヤツだ!」


「へへ、そうだろ? だけど本番はここからさ」


 ユウヤがそう言った通り、イチカは一歩一歩足を進め出す。右拳を左掌に当ててパァンと甲高い音を鳴らす。


「これで決着だ! ウチの散射炒さんしゃいんでな!」


 イチカは一歩一歩カエデに近づく。そしてカエデのすぐ目の前で立ち止まったところで、目にも止まらぬ速さで蹴りとパンチを繰り出して壁に向かってふっ飛ばし、いとも簡単にカエデを倒してしまった。


「な、何も反応できなかった……ユウヤに劣らぬほど速い……」


「へへ、見たか!」


「そこまで! 勝者イチカ! 次の試合は再びイチカとユウヤで20分後から開始!」


 カエデが倒れたところで審判が宣告した。次の試合はユウヤVSイチカ、あの時の続きだ。


 

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