第28話 第一試合 タケトシVSシュウタロウ

「それじゃあタケトシはん……勝負といきましょか」


「あぁ、望むところだ」


 シュウタロウは軽くストレッチをして体を慣らす。一方タケトシは念入りに全身を動かし、その場でジョギングをするように足を交互に素早く上げている。

 先日の会議でも喧嘩に発展しそうだったこの2人。いきなり戦うこととなってしまった瞬間、ユウヤは内心ほんの少しだけ焦ったが、それでも最悪栄田マスターを呼んで仲介してもらおうと思い直すと案外気楽でいられた。


「それでは、両者見合って……勝負開始っ!」


 審判がそう宣言した途端、タケトシはいきなり叫んだ。


「一気に潰すぞ、火山弾ガトリング!」


「ほう……そう来るんか」


 タケトシは無数の燃え盛る石を床を突き破って浮かび上がらせ、一斉にシュウタロウ目掛けて撃ち込んだ。タケトシにはかなり自信がうかがえる。

 しかしシュウタロウは高速で飛ぶ石から逃げようとする素振りを見せない。ユウヤとカエデはそれを不思議そうに見つめる。


「ん? 何でシュウタロウは避けようとしないんだ?」


「もしかして……まずは実力を確かめようとしてるのかな? だって何だか強そうだもん、絶対ただ者じゃないよ!」


「確かに強そうな雰囲気醸し出してるけどさぁ」


 そう2人で話していると、イチカは隣でニヤリと笑い話しかけてきた。


「まぁ見てなって、すっげぇことが起きるからよ」


「すげぇこと、かぁ」


 シュウタロウの数十センチ前のまで石が接近する。シュウタロウはただじっとするばかりで、流石のタケトシも顔色を変えた。


(こいつ……“何か”がある。流石に安直すぎたか、この攻めは……!)


「何をしている、いきなり負けてぇのかぁ!」


 タケトシが叫ぶ。きっと心理戦を仕掛けたのだろう、先日喧嘩をしかけたシュウタロウを挑発することで何かこの状況から動きを生み出そうと。しかしシュウタロウはただ小声で、


「やっぱ力まかせ……やっぱ、柔よく剛を制すんやなぁ」


 と呟いた瞬間、糸目で表情を読めなかった目をカッと見開くと、燃え盛る石は急ブレーキをかけたようにギギィと止まり、反動をつけてタケトシに向かって飛び出した。


「な、何っ! コイツ、バイト先で奇襲してきたアイツと同じような術を……!」


「もしかしてワシの自己紹介忘れたんか? ワシの能力はこうやって物とかの動きを操れるんや。つまり、ワシに攻撃は当たらん」


「くそっ、防壁シールディング!」


 タケトシは急いで壁を作り跳ね返ってきた石から身を守る。ドタタタタタタと銃弾のような音が部屋中に響き渡ると、愉快愉快だと言わんばかりにシュウタロウは拍手しだした。


「おぉ、すげぇやんか。攻撃技だけやなくて防御技もあるなんてな、猪突猛進するだけやないみたいやな」


「まぁ、バカにしてられるのも今のうちだぞ」


「おーい! タケトシくんかっこいいよー!」


「っ! 月村さん……!」


 予想外のエールに顔を赤らめるタケトシ。それを見てイチカはなぜか嬉しそうにユウヤに耳打ちしてきた。


「なぁユウサク、これって“恋”ってやつか? マグマみたいに顔赤いぞタケタロウ」


「名前少しずつ間違うのやめろや! ……まぁ、青春だな」


「へぇ……面白いじゃん」


(2人とも何話してるんだろ?)


 こそこそと話をするユウヤとイチカ。それを不思議そうに見つめるカエデ。そんな3人のやり取りの前で両者見合うタケトシとシュウタロウ。

 シュウタロウから何か攻撃を見せる素振りは全く無い。ただずっとタケトシから動き出すのを待つばかり。タケトシから攻撃を仕掛けない限り、ただ時間が経過するだけの空間になりそうだ。


(クソォ、シュウタロウとかいう奴全く攻撃してこねぇ……だけども火山弾ガトリングは壁に当たって跳ね返ったりしないからあの時みたいに防壁シールディングを応用するのも不可……どうすべきか)


「タケトシはん、一体何考えてるんや? 戦場で優柔不断は命取りやで」


(こうなったらもうやるしかない、アイツの言う“猪突猛進”になりそうでムカつくけどよぉ)


「今から叩き潰すから覚悟しとけぇ!」


 タケトシは壁を蹴って全速力で駆け出した。タックルでも仕掛けるつもりだろうか、ただ勢いに任せて叫びながら走っている。


「やれやれ、まぁ見といてやるわ」


「バカにしてられんのも今だけだ、このヤロー!」


 タケトシは勢いをつけてパンチを繰り出す。しかし簡単にシュウタロウはそれをかわす。タケトシも勢い余って倒れそうになるが、負けじと何度も攻撃を続ける。


「くそっ、避けてばかりで、いるんじゃ、ねぇっ、オラァッ!」


「やれやれ……もっと頭使った方がええんちゃうか」


「うるせぇぞ、せめてそっちも、攻撃を、してこいっ!」


 タケトシがいくら求めても、シュウタロウはパンチやキックをただ避けるばかりだ。攻撃を受けも反撃もしてこないシュウタロウに対しタケトシもだんだん苛立ちを見せ始める。


「こうなったら試すしかねぇ、新技をなぁっ!」


「ほう、まだ技があるとはな、ひょいっと」


「初めてこの技を受けられるなんて運がいいようだ! 覚悟しやがれ!」


 タケトシは硬く右拳を握り、腕に力を入れ始めた。まるで重い物を持ち上げているかのように歯を食いしばりいきむような声を上げている。


(何や? かなり力を入れてるみたいやが)


 その瞬間だった。バキ、バキと床を突き破り現れた石が少しずつタケトシの腕に纏わりついていくのだ。そしてその巨体からは考えられないほどに跳躍し、高らかに叫んでシュウタロウめがけて隕石のごとく落下してきた。


「喰らえ、隕石フォーリング!」


「……隕石と言うより落石やないか、まぁどちらにせよ無駄な足掻きや」


 シュウタロウは息を吸い込んで大声で、


「ヤアアッ!」


 と叫んだ。するとタケトシは急に落下の角度を変え、全く別の方向へと飛んでいってそのまま壁に激突した。


「ぐああっ!」


「何回も言うてるやろ? 動きを変えることができる、これがワシの能力やて」


「くそ、為す術無し、か……」


「そこまで! 勝者、シュウタロウ! 続いての勝負はイチカとカエデ、5分後から開始!」


 非情にも審判はシュウタロウの勝ちを告げた。動きの方向を操る能力、ただ観戦していただけのユウヤにとってもかなりプレッシャーが降り掛かった。

 確かにただ者じゃない。イチカはとんでもないメンバーを加入させてしまったのだと。それは頼もしくもあり、同時に恐ろしくもあった。


 ようやく立ち上がったタケトシはゆっくりと観戦エリアまで歩いてきた。ユウヤはタケトシとハイタッチを交わし、タオルと水を渡した。


「お疲れ、かなりの相手だったな、シュウタロウってヤツ」


「ありがと……マジでやべぇわ、アイツ」


 シュウタロウの方を見ると、少し疲れたような様子ではあるものの、水分補給を済ますと汗をタオルで拭いつつ手で顔を扇いでくつろいでいる。


(とんでもねぇや、アイツ)

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