第27話 組手大会開始!
ユウヤが電車の中で仮眠を取り、そろそろかと目を開けると辺りは真っ白な空間であった。ユウヤはこれがいつもの“夢の中の空間”であることを悟った。
「またいつものやつか……“悪霊”さん、出るなら早く出て、乗り過ごしちゃう」
「やれやれ、人間というのは
またもや現れたのはいつも通りの馬型のモヤだ。寂し山ではついに夢の中から現実にまで登場したモヤだが、今度はまた夢の中で会うこととなった。
食い気味にユウヤはモヤに問いかけた。今度は何を伝えたいのかと。早くしろと言わんばかりのユウヤの表情に少し怖気づいたように見えたが、すぐさま威厳のあるような声色でユウヤに語りかける。
「昨日、力を引き出してもらっていましたよね。寂し山で老婆の霊に」
「それが何か?」
「貴方はそのおかげで、通常時における錬力術の出力が結構上がっています」
「それは実感してるよ、その後の一人修行で」
「だがヒビキ達の力にはまだまだ及びません。今日の組手大会……決して無駄にしないことです」
「わ、分かりました……」
「それともう1つ...」
はっきりとは見えないが、どこか馬型のモヤは深刻そうな表情に変わった。思わずユウヤも固唾をゴクリと飲み、黙ってモヤの目を見つめる。
「あの七田シュウタロウとかいう人物……信じてはなりませんよ、いつか貴方の足枷となります」
「な、何を言って――」
「さてそろそろお時間ではないですか? 人間達が言う“モクテキチ”ってやつに到着しそうですよ、それでは」
そう一方的に言い残すとモヤはきえて言ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 何だったんだ、今のは……」
ユウヤも疑問を残したまま、そのまま目を開けると同時に車掌が駅の到着をアナウンスした。
『まもなくレバ、レバ駅です〜。足元お気をつけてご降りくださいませ〜』
「ま、気にしなくていいだろ。あんなにたくさんの仲間を引き連れたイチカがスカウトした人物、悪者なワケがねぇし」
ユウヤはひょいっと電車から降りると、そのままジョギングがてら小場尻で栄田のカフェへと向かった。4月半ば、かなり気温も上がってきた晴天の下で、ユウヤは一汗流していた。
5,6分経っただろうか。ユウヤはカフェに到着すると、自販機で飲みきりサイズのソーダを買ってベンチに腰掛け、タオルで汗を拭った。
「ふぅ、ちょっと前まで寒かったくせにもう暑くなってやがる」
手で顔をパタパタと扇ぎながらソーダをゴクゴクと飲んでいると、バイクに乗ってイチカとシュウタロウがカフェに到着した。どうやら一緒に来ることにしていたらしい。ユウヤは初めて直接会うシュウタロウに会釈すると、イチカはバイクから降りさっそくユウヤにグータッチを求めてきた。
「よっ! ここで組手をするのか? カフェにしか見えないけど」
「まぁ、それは後のお楽しみ! ちゃんとした場所だよ、ここ」
「そうなのか! さて……この前の三番勝負の続きといこうや、絶対勝ってやるからな!」
「あぁ! でも負けるなよ、途中で」
「途中で負ける? ってことはデスゲーム形式なのか?」
「デスゲームじゃなくてトーナメント! そんな恐ろしいモンじゃねえよ、まぁ詳しくはタケトシとカエデが来てから説明する」
「おう! 楽しみにしてるぞ!」
カエデはかなり気合が入っているようだ。その熱意はこの気温に全く負けていない。それに対してシュウタロウはユウヤに何か話しかけたりする素振りは全く見せず、ずっと自分の指と爪の間に挟まった垢を気にしている。
別にユウヤは現時点でシュウタロウを疑ってはいないが、夢の中でのモヤの発言が少し気になり始めていた。
(何というか……ミステリアスだ。何を考えているのか全く読めねぇ)
その時、考えごとをするユウヤに話しかける2人の声がした。その正体はタケトシとカエデだった。
「よっ! 何怪訝な顔してるんだ?」
「ユウヤ〜! 私達も来たよ、これで全員?」
「おっ、これで全員揃ったな。じゃあ入ろうか、ここの隠し部屋が今日のリングさ」
ユウヤはニヤリと笑ってドアを開けた。カランカランという音が5人を中へと誘うと、皿磨きをしていた栄田マスターはニコっと笑い、すぐさまゆっくりと後ろのドアを開けた。ユウヤ、タケトシ、カエデにとっては見慣れた空間が、イチカとシュウタロウにとっては初めての空間が少しずつ姿を表した。
「うおお、本当に道場みたいになってる!」
「ほう……驚いたわ」
「審判だってちゃんといるんだぜ! じゃあ、あみだくじでトーナメント表を作るぞ」
ユウヤはポケットからしわくちゃのノートの切れ端とペンを取り出すと、床でおもむろにあみだくじを作り始めた。ひょい、ひょいっと適当に線を引いて作ったところで、5人に名前を書いていってもらう。
「さて、最初の戦いは……タケトシVSシュウタロウ! その次はカエデVSイチカ! そしてオレが……シードでカエデとイチカが勝った方とバトルか」
「おい、まじか! なら絶対勝たないとな、三番勝負の続きのために!」
「うぃ、待ってるぞ〜イチカ」
イチカはもはや誰よりも燃えている。もはやむさ苦しいほどだ。だが、それが同時に頼もしくもあった。
組手大会が、互いに能力を高めあって打倒・ヒビキを目指す大会が今始まった。
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