1章-2 仲間集め編
第14話 夢の正体と追う者
「関西中を探し歩くとしても……闇雲に探すんじゃ1週間は足りないよなぁ」
勢いでイチカに仲間を探すとは言ったものの、具体的にどうするかユウヤは決めかねていた。プライベート丸出しのSNSで募集するのもヒビキ達にアカウントを特定された時に危険かもしれない。かと言って街角で募集しても不審者のレッテルを貼られるだけだろう。
どうするべきか考えて考えて……1時間ほど経っただろうか、ユウヤはまず栄田マスターのところへ相談に行くことに決めた。自分自身がまだまだ特訓しないといけないし、誰か強い知り合いを紹介してくれるかもそれないと考えたからだ。
早速ユウヤは着替えを済ませて駅に向かおうとすると、カエデから着信が入った。何だろうと思いつつ電話に出ると、カエデは明るい声で話してきた。
「ユウヤー! 今から栄田さんのカフェに行くところなんだけど、よければ一緒に行かない?」
「お、オレもちょうどそのつもりだった!」
「よかった! またアイツら攻めに来るかもしれないし……どうすればいいか相談したくてさ」
いつの間にか雲天になっていた空で、4匹のカラスが不気味に鳴きながらユウヤの上を通り過ぎていった。明るくもどこか不安げな様子を隠せずにいるカエデを励ますようにユウヤはとりあえず一緒にお茶でもしようと返した。
ユウヤが電車に乗った途端、ついに雨が降り出した。ユウヤは傘を持ってこなかったことを後悔しながら、SNSでチーム・ウェザーで検索していた。彼らが怖いだとか間違っているという投稿が多い中に散見されるチーム・ウェザーを指示するという投稿。中には狂信的な言動も存在し、ユウヤは思わず身震いしていた。
一通り投稿を見終えたユウヤが窓から景色を見ていると、天気はさらに悪化していた。雷雨だ。一瞬空が眩しく光ってからほんの5,6秒後、ゴロロォと雷鳴が鳴り響く。そして強まり続ける雨にユウヤが気を落としていると、横に誰かが立っているのが窓の反射で見えた。振り返るとそこに立っていたのはカエデだった。
「どうしたの、雷怖い?」
「べ、別に怖くねー。子どもじゃあるまいし」
カエデはユウヤをからかってみたものの、やはりどこか不安げだ。ユウヤはカエデの肩をポンポンとたたき、まずは栄田マスターに今の状況を打ち明けようと耳打ちした。そうして、やっとカフェの最寄り駅へと到着した。
雨は全く止む様子を見せず、未だ強くアスファルトを叩きつけている。仕方なくバスで移動することにし、2人はベンチに座ってバスが来るのを待っていた。
他愛もない会話を続けていると、ようやくバスが到着した。2人は後部座席に座りカフェ近くのバス停に到着するのを待っていると、前の席に座っている人の携帯の音声が耳に入ってきた。その内容はどうやら様々な大学がチーム・ウェザーに襲撃されているというもののようだ。
ニュース席と前の人の頭に隠れて一部分しか見えないが、専門家らしき人がチーム・ウェザーの動機などについて解説しているように見える。
「うわぁ、他のところもやられてるんだね……」
「ヒビキのヤロー、許せねぇよマジで」
それから5分ほど経っただろうか。栄田が経営するカフェに到着した。雨が降る平日ということもあり、前回来たときよりは店内も落ち着いていそうだ。強盗騒ぎがあったので、ある意味あれより騒がしいと困るのは事実だが……
ドアを開けると、聞き覚えのあるカランカランという音がユウヤ達を出迎えた。カウンターでは栄田が皿とカップを磨いていたが、こちらにすぐに気がつき、笑顔で出迎えてくれた。
「おお、また来ていただけたんですね。ユウヤ君にカエデ君」
「はい、早速ですが頼みがありまして……」
「ほう。悩みとは?」
「実は……」
ユウヤは自分が強くなりたいということ、またどこかに強者の知り合いがいないか探していることを打ち明けた。栄田は食パンの耳で作ったラスクを少しずつユウヤとカエデにサービスしつつ話を聞き終えると、前と同じように隠し武道部屋に案内してくれた。
「この前は中断してしまいましたからね。改めて修行の続きといきましょう」
栄田は部屋の隅から巨大なサンドバッグを運んできた。そしてドシンと音を立ててユウヤとカエデの前に立ちはだかった。
「まずは錬力術の練度を鍛えましょう。これはかなり頑丈な作りになってまして、いい練習相手になりますよ。好きなだけ技を繰り出して構いません」
「なるほど……じゃあいきなり大技行くぜ!タイフーン・ストレエエエエエエト!」
「わ、私も! ホウセンカ!」
2人の技がサンドバッグに集中砲火した。サンドバッグは風で少し浮き、種の爆発で少し倒れそうになったもののびくともしていない。
「こいつ、めちゃくちゃ硬え!」
「ぜ、全然効いてないじゃん!」
「フム……カエデ君はもう少し1発1発の威力を貯めてから放ったほうがいいですね。後腰をもう少しひねって種に体重を乗せるように……」
「こ、こうですか?」
カエデは言われた通りにフォームを変え、再びホウセンカを放つとサンドバックは爆発の衝撃でぐらぐらと揺れて倒れた。喜ぶカエデに栄田は微笑んだが、ユウヤについては怪訝そうに見る。
(フォームが悪いわけでは無い。体の使い方も悪いことはないし、テキトーにやっていたり錬力術のセンスがないようにも見えない。なのになぜ出力がここまでに……まさか!?)
「うわ、カエデやるじゃん!オレも次こそ……」
ユウヤは今度は手足に全身の力を集中させた。そして風の力で自らの身体を少し浮かび上がらせ、無数のパンチとキックをお見舞いした。サンドバッグからはズババババババンと音が鳴り響く。
「これでとどめだぁ!」
ユウヤは回し蹴りを食らわせたが相変わらずサンドバッグはびくともしない。ユウヤはバランスを崩して床に倒れてしまった。
「い、痛てて……」
「ユ、ユウヤ大丈夫!?」
「あぁ……ありがとう」
ユウヤはカエデの手を借りながら立ち上がると、すぐに栄田がユウヤに問う。
「ユウヤ君……たまに不思議な夢を見ることないですか? 辺り一面不思議な空間に包まれた中で、神秘的な影とか霧とかに話しかけられる……」
ユウヤには思い当たることがあった。真っ白な空間の中で馬のようなモヤに意味深なことを話しかけられる夢だ。ユウヤはそのことを話すと、栄田は少し間を置いて話した。
「私も何度か聞いたことがあります。不思議なことに、その体験をしている者は緊急時には物凄い力を発揮できますが、それ以外の日常生活の中では様々な弊害が起こるそうです。
体の再生が遅くなったり、異常に寒がりになったり、はたまたユウヤ君のように錬力術を上手に使えなかったりと」
「あ、あの夢と関係が?」
「私の知り合いにそういった類のものに詳しいお方がいます。ここから電車で1時間ほど、S県のOエリア駅近くで占い屋を営んでいます。私から連絡は入れておきますので今度、ぜひ訪ねてみてください。
しかも錬力術の方もかなりの実力者ですし、もしかしたら助けになってくれるかもしれません」
「分かりました、ありがとうございます」
「まぁ、もう少し修行してからの方がいいでしょう。近頃、あの辺りにはならず者も多いそうですから」
それから3日間ユウヤとカエデは修行を続けた。カフェで、バイト終わりに家の庭で、寝る前にはイメージトレーニングも。ユウヤもカエデも全身に筋肉痛を感じたが、どこかその痛みが嬉しく思えた。それからも鍛錬を積み、修行をある程度終えたユウヤはついにS県に向かうことにした。
「おっ、今日は晴れじゃん! さて、夢のこと聞きに行くか!」
テンション高めて家を出たユウヤだったが、その後ろには見知らぬ女がいた。
「ふーん、アレがこの似顔絵の男ね。アタイが後で、じっくり苦しめてやるんだから」
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