第13話 出動〜地球が平和に廻るために〜

 真銅とのオンライン面談の時間はすぐにやってきた。チーム・ウェザーについて話し合うとのことで、ユウヤの緊張感はかなり強まっていた。ドキドキと鼓動する心を何とか落ち着かせようと深呼吸しながら慣れた手付きでノートパソコンを操作し、今朝真銅から送られてきていたメールのURLを開くと、既に真銅がユウヤを待っていた。


「おはようございます、鳥岡君」


「ど、どうも。おはようございます」


「早速ですが……チーム・ウェザーについてです」


 真銅はまずユウヤが最初にチーム・ウェザーに手を出したことを改めて咎めてきた。どうやら決して開けてはならないパンドラの箱を開いてしまったのだと。


「既にヤツらは大学などへの攻撃をかなり進めているようです。錬力術を悪用し、恐怖で人々を完全に支配するために……」


「他の大学……そうみたいですね、つい昨日聞きました」


「鳥岡君、もちろん正義感から動いたことはわかってます。だけど、彼らはそこらへんの不良とかとはワケが違うんです。迂闊ですよ、あの行為は」


「……はい」


「それでは話は終わりです。そういえばリサトミ大学の授業再開は来週で、私の授業も同じなので予習は忘れないようにしてください。それでは鳥岡君、安全を祈ってい――」


「ちょっとユウヤ!? 何深刻な話してるのよ!」


 真銅の話を遮るようにユウヤの部屋の扉を開けてきたのは母だった。ノートパソコンのカメラには、ユウヤとお玉を持ったエプロン姿の母がばっちりと映っている。


「お、オカン! 先生とただの面談で…」


「聞こえたわよ! 何よ、消されるどうこうって! しかも何なの相手の人の服装! 古代文明みたいじゃないの!」


「ちょ、ちょっと! オカンやめてよ……」


 あたふたするユウヤとそれを問い詰めようとする母の威圧感に苛まれたのか、真銅は気まずそうに画面から消えた。その後も母による取り調べは続き、疲れてしまったユウヤはタケトシとカエデに「先生と面談あったんだけど親乱入してきて大変だったわ」と相談のDMを送り終えるといつの間にか寝てしまった。


 気がついたユウヤはまたまたあの白い空間に立っていた。またか、と思いつつ当たりをふらふらと歩いていると、馬の形をしたモヤがユウヤの前に降り立った。


「か、形が変わった!?」


「名前はユウヤ。そうですね?」


「は、はい……」


「そうですか。ユウヤがチーム・ウェザーと戦うことになったのは、ある意味運命なんです」


「は、はぁ……」


 あっけにとられるユウヤを物ともせず、モヤは話を続ける。


「いいですか? アパタイザーやスープを撃退しても、まだまだヤツらの刺客はいます。特に東雲ヒビキはチーム・ウェザーの中でもかなりの危険人物……ユウヤにできることは、まず仲間を集めることです。ヒビキ達が来る前に」


「はい……」


「それでは私は行きます。あと、お友達からお返事が来てますよ。それでは」


(仲間集め、か)


 モヤはどこかへと飛んでいったところで目が覚めたユウヤはスマホを開いた。すると確かにタケトシとカエデから返信が届いている。特にタケトシとのトーク画面では不在着信の表示があったので通話をかけると、すぐに電話に出てくれた。


「昼寝してたわ、ごめんな」


「大丈夫大丈夫! そういえばさ、先生とどんな話してたん?」


「ああ、チーム・ウェザーにやられるなよ、って話」


「そうか……オレはお前と一緒に戦うつもりだぞ、ユウヤ」


「ありがとう……でもアイツはかなり強いヤツだから、まずは特訓と仲間探しをしようと思う」


「錬力術を使って仲間を集めて敵と戦う…RPGみたいで面白そうじゃん、その話乗った」


「ありがと。カエデにもこのこと話してみるわ」


「つ、月村さんと……りょーかい、んじゃあバイト行ってくる」


「おう。今度は敵に襲われるなよ、じゃあな」


 ユウヤは電話を切ると、カエデにも同様のことを話した。するとカエデも「オッケー!」と返事をくれた。早速ユウヤは会話グループを立ち上げてタケトシとカエデ、あとチーム・ウェザーの情報共有を約束したイチカも招待した。グループ名は“VSチーム・ウェザー 勇者御一行”だ。


「ひとまず、これでいいか」


 すると早速メッセージが1件入った。送り主はイチカで、「ネーミングセンスなさすぎ笑」と書かれていた。昨日約束をしたばかりだったので詳しい説明なしでもある程度察してくれていそうだ。正直なメッセージに苦笑いしていると、早速イチカから電話が入った。


「昨日ぶりじゃねえか! 早速動き出すことにしたんだな」


「おう。作戦だけでも共有しておこうと思ってな」


「作戦!? 一体何だ、バッセンで勝負とかか?」


「ちげーよ、まずは仲間を集めるんだ。関西中探すだけでもかなり状況も変わるだろうと思って」


「なるほどねぇ…ウチもツテを辿ってみるわ」


「ありがとう。オレも仲間探すわ」


「オッケー!じゃあなユウヤ! チーム・ウェザー倒したら勝負の続きな、絶対だぞ! んじゃ」


 イチカは一方的に通話を切った。今週は授業がなく、幸いバイトのシフトもほぼ入れていない。すでにチーム・ウェザーのメンバーは数人倒しているが、これからユウヤ達に立ちはだかるのはさらなる実力者達だろう。


 これまでも機転を利かせたりして何とか戦いには勝ってきたが、かなり危険だった場面も多い。仲間を増やす、自分たちも強くなる、この両方を同時に進めなければならない。ユウヤは窓から外の景色を見ながら、闘志の炎を燃え上がらせていた。平和な大学生活にある日突然現れ、大学施設を、キャンパスライフを壊すに留まらず、力で人々を支配しようとするチーム・ウェザーを、東雲ヒビキを許さない。


 一方、チーム・ウェザー側もただユウヤ達を待ち受けるだけではない。リサトミ大学を襲撃した東雲ヒビキはチーム・ウェザーアジトで焦燥感に駆られていた。鳥岡ユウヤに足止めされて二度も一時撤退せざるを得なくなったこと、そしてアパタイザーとスープがユウヤ達の首を持ち帰られなかったせいである。東雲ヒビキはついに奥の手を繰り出そうと、とある女を呼び出していた。


「久しぶりの仕事だ。部屋に入れ、コードネーム・ポワソ」


「チッ……アタイ、デートの予定あったんだけど?チケット代返してくれんの?」


「先週4人の男と遊び回ったじゃねえか、何人彼氏がいるんだか……ユウヤ達を始末できればそれなりの報酬は出す」


 そう言いながらヒビキはユウヤの稚拙な似顔絵を差し出した。それを受け取ったポワソは絵をバカにして大笑いすふ。


「ハハハハ! 何よこの絵、現代アートじゃん、現代アート!」


「うるせぇぞ生意気女! さっさと始末してこいユウヤのクソヤローを、いかなる手段を用いてでもな」


 ヒビキは雷鳴を轟かせた。


「ハイハイ分かった、分かったわよ。アタイの能力で地獄を味わせてやるんだから」


 ポワソはだるそうにアジトを出て歩き出したのであった。

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