第8話 意外と近くに猛毒あり
「ヒヒヒヒ、ボクの錬力の数値は1000rもあるんだ。常人の約5倍、キミなんて一瞬で致命傷さ」
アパタイザーは不敵に笑う。
「な、何だその数値」
「人間界では速さとか力の強さを数値と単位で表すんだろ、ボク達もそうやるのさ。まぁキミは見たところたったの75程度。降伏したほうが身のためなのにねぇ!」
アパタイザーは笑いながら腕を天に向かって掲げていると、周りの雑草がその腕にまとわりついていく。そして、手甲鉤のように鋭い爪状に変化した。ユウヤがそれに驚いていると、アパタイザーは再び口を開いた。
「ボクの錬力は“植物を操る”能力! ボクは小柄だし身体能力も低いけど……こうやって狡猾に勝つのさぁ!」
アパタイザーは雑草の爪でユウヤに切りかかってきた。ユウヤは腕を十字に組み攻撃を防いだ。
……痛くない。1000rって何だ? ただのハッタリか? ユウヤは内心アパタイザーを馬鹿にしていると、だんだんとユウヤの腕に強烈なかゆみが襲いかかった。
「何だこれ!? 痒みが止まらねぇ」
「ハハハハハハハ! 身近なところにも毒を持った草ってあるんだよ? それを利用して相手に注ぎ込む、これがボクの戦闘スタイルさ! しかもそれだけじゃないよ?」
「一体何だ……って何だこれはあぁ!」
何と、引っ掻かれた部分から猛烈な勢いで根っこが伸び、ユウヤの手足を縛り付けた。そして、ユウヤの体からは徐々に力が抜けていく。まるでこの根っこに力を吸い取られているようで、そして根っこ自身もそれに連れてさらに伸びていく。ユウヤはもはや立っているのが精一杯だ。
「こ、こんなピンチな状況……どうすれば……」
「これが大本命! 相手からじわじわと体力を奪っていく、自身か相手かどちらかが死ぬまで! 誰だろうと関係なく、全身から!」
「く、くそ……力がはいら、な、い……」
ユウヤはついに地面に倒れてしまった。無常にも根は成長を続けようとする……が、だんだんと根自身も枯れ始めた。
「クソぉ! 使えねぇなあクソ根っこ! こいつは枯れたらまた爪を命中させないといけねぇんだ!」
無邪気に高笑いしていたアパタイザーは唐突に憤怒しだした。その姿は駄駄をこねる子どものようだ。
(“爪を命中させる”、“誰だろうと関係ない”、か)
ユウヤは何かを悟ると回復してきた体力を振り絞り立ち上がるやいなや、アパタイザーにむかって人差し指を向けて後ろ側にヒョイッと動かした。徴発だ。アパタイザーは当然それに対して怒り、再び爪を構えた。
「許さない、覚悟しろこの野郎」
アパタイザーはユウヤに向かって走り出した。無規則に振り上げられる爪をユウヤはかわし続け、ジャングルジムに登って距離を置く。てっぺんからアパタイザーを見下ろすと、爪のせいで登りづらそうにしながらも少しずつユウヤに向かって登ってくる。
「ハァ、ハァ、許さないよ。ここまでボクをもてあそぶなんて」
(錬力の大きさの話が本当なら……火事場の馬鹿力が発動しない限りオレは勝てるか怪しい。ならば……)
ユウヤは考えた。何とかあの爪で自滅させることはできないのだろうか、と。ユウヤにとって錬力の数値とか複雑な話はよく理解できなかったが、“誰だろうと関係ない”なら爪で自傷してしまえばあの根も飼い主を攻撃し出すのではないだろうか、でもどうやってそうするのか、と。
アパタイザーもだんだんとこちらに登ってくる。ニヤニヤとした顔からは“今からユウヤを倒せる”という嬉しさ、また“散々バカにされた怒り”が入り混じっているようにも見える。
(やるしかないな)
ユウヤは右手でジャングルジムに捕まりながら左手に風の力を込める。そして、アパタイザーの腕と手甲鉤の隙間に向けて強風を吹かせた。すると草で作った手甲鉤はやがて外れて地面に落ちてしまった。
「何だい?ボクの方が錬力術の扱いは圧倒的に上手なんだ。あの武器がなくても勝つのはボクなのさ」
アパタイザーは力を全身に貯め始めた。集中しているアパタイザーを尻目にユウヤはジャングルジムをこっそりと、かつ手早く降りていき手甲鉤を装着した。そして、アパタイザーの背後に回っては風の力を脚に込めて高くジャンプし、背中から両腕にかけてを複数回思いっきり引っ掻いた。
「ぶぁあ!」
アパタイザーは驚いて貯めた力を全て失ったその瞬間、背中と腕からものすごい勢いで根が伸び、たちまちジャングルジムにアパタイザーを縛り付けてしまった。
「し、しまった! ボクが自分自身の術でやられるなんて……」
「お前、覚悟はできてるよな? 急にこんなことしてきたんだからなぁ!」
「や、やめて!どうか、どうか……!」
「少しは手加減してやらぁ! タイフーンストレエエエエエト!」
「ひ、ひゃああああああああ!」
根に体力を奪われたアパタイザーにとって、普段のユウヤの技であっても威力は十分だった。
「さて、さっさと帰るか」
再び電車に乗ったユウヤだったが、窓から見てみるとちょうどゆっくりと根が枯れると共にフラフラと落ちていくアパタイザーが見えた。ジャングルジムにもたれかかるような姿勢の彼は、見るからにヘトヘトだ。そしてアパタイザーは、負けた悔しさからもメンタルをやられ、夜遅くまで帰れなかったのはまた別の話だ。
「ママー、なんであのひと、ずっとジャングルジムのまえですわってるのー?」
「こら、見ちゃいけません!さっさと帰るわよ!」
「えーー、やだーーーー」
「ハ、ハハハ、負けた、このボクが。ハハハ.....」
ーーーユウヤ家ーーー
家に到着してスマホを開くと、アキヒコから不在着信が入っていた。ユウヤはアキヒコに電話をかけなおすと、アキヒコは慌てふためきながらユウヤの無事を確認してきた。
「ユウ、電話に出ないから心配したぞ! 何かあったのか?」
「ああ、よくわからんヤツに因縁つけられてた。多分アキヒコが言ってたヤツだわ。大丈夫だったけど」
「マジかよ! 何かあったら言ってくれよ、オレも協力するからな! んじゃ」
「……これからしばらく、面倒なことになりそうだ」
ユウヤはその日、疲れてすぐに眠りについてしまった。そして、再び不思議な夢を見た。
「ここは、またあの場所か」
相変わらず辺り真っ白な非現実的な場所にユウヤは立っていた。夢であるはずなのに周りの空気の感じや一歩一歩歩く足の感覚などはどれもどこかリアルなものに感じた。
しばらく歩いていると、またもやモヤがユウヤの前に現れた。
「貴方、大変な運命をたどることにしたんですね」
「た、大変とは?」
ユウヤは問い返した。
「チーム・ウェザーはただの過激派団体じゃないんです。それに貴方は、貴方は……」
「な、何なんですか一体! あなた、正直怖――」
ジリリリリリリリリリリリリ!
「!?」
目覚ましの音と共に目が覚めた。
「何だったんだ、今の……とにかく朝メシ食べるか」
ユウヤはいつも通りパンをかじりながらSNSを見ていると、タケトシからのDMがあった。開いてみると、このような内容だった。
“ユウヤ!
ヒビキ様がどうとか話してるヤツに襲撃されたりしてないか? オレ、家に果たし状みてぇなの来てたんだよ!
「挑戦状、タケトシ殿。ヒビキ殿のご命令により、今度戦いに参る」って!
ユウヤも気付けてな!”
「何で他のヤツの個人情報まで握ってるんだよ……」
ユウヤは身震いした。チーム・ウェザーの探査能力に、そして執念深さに。
「タケトシ、無事でいてくれよ」
ユウヤはタケトシの安全を祈りつつも、タケトシのところへと飛び出したのであった。
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