『運命』なんて、こっちから捨ててヤル!

赤羽 倫果

オイオイ、そんなに泣くなよ……

 アイツは『運命』であり『初恋』でもあった。でも、ただの一度も俺を見ることはなかった。


 だからこそ、こっちから捨ててやるんだ!


 俺は今日、『Ω』から『β』になるべく、『子宮』の摘出手術を受けた。

 麻酔から目を覚ましたら、西日がヤケにまぶしいな。


 腹の痛みを堪えつつ、消灯台に置きっぱのスマフォを手に取る。役場で第二性をβに変更する前に、どうしても、やらなければならないことがあるからだ。


 タップしたメッセージアプリ。元婚約者の斗真に送りつけたメッセージが『既読』となっても、返信一つ来た試しはなかった。


 本当は手術前に連絡を取り合いたかったけど、嫌われていちゃ仕方ないよな……。


 改めてもう一度、アプリを再起動させて。

『第二性変更の書類を受け取って下さい』

 とだけコメントを入れる。


「ホント……俺にだけ塩対応だよな」


 枕元にスマフォを投げ置いて、背中をマットレスにゆだねる。


 ああ、眠いわ。一休みすっかな。

 俺はその場で寝落ちした。



「淳ッ! これはどう言うことだっ」



 病室内に轟く声に、思わず飛び起きる。

 扉を後ろ手に閉めて、

「なんだよ。アレは……」

 斗真がボソッとつぶやく。


「斗真? 久しぶり」

「淳……」


 心なしか、普段より慌てた様子の斗真が、こっちへやって来る。


「ああ、やっと読んだのか」

「βになったからってナニ?」

「ん? 俺が『Ω』じゃないってこと。よかったな」


 こっちは半年前から、『大事な話』として、事前に連絡したかったけど、そっちが無視するから、手続きは勝手にやらせてもらった。


 そう、付け足した瞬間、斗真の顔色がサーっと青ざめる。


「βになる手術って……」 

「子宮切除」


 床にカバンなんか落として、急にどうしたんだよ。


「今から、『ビッチング』するから」

「はあ?」


 ビッチングって、αをΩに堕とす都市伝説だよな。


「それより、婚約解消手続き……」

「イヤだ!」


 ウソだろ? あんなに、嫌がっていた婚約がナシになるって言うのに、コイツの神経がわからねェ!


「もう、決まったから、ありがたく受け入れてくれ」

「イヤだイヤだ」


 オイオイ、急に駄々っ子になるとか、

「今さら遅いんだよ」

 俺は本音をぶちまけた。


「遅くない! これからは、淳のための時間を見繕うから、機嫌を直してよ」

「あのな……βの俺に言うなよ」

「大丈夫! ビッチングしてあげるから」


 コイツの笑い方、ジト目過ぎてヤバイぞ。

 話が全く通じない。


「あのな、過去を蒸し返したくねェけど、もう、遅いんだよ。おととい、来やがれバーカ」


 おっと、なんかポカンとアホ面晒している。


「あ……つし。捨てないでよ」


 ウソだろ! 急に泣き出すなバカ。

 せっかくのスパダリαさまが、もったいないぜ!


「ほら、泣くなよ。この前、表参道で腕を組んでいた子と、堂々とつきあえるだろ?」

「つきあわないッ! 淳がいい」

「イヤさ。オマエ、俺にだけ塩対応で」

「淳だけ優しくするからッ」


 気持ち悪りィな。どうしたんだよ急に……。


「既読スルー魔っ! いい加減にあきらめて、俺と婚約解消しろよ」


 こんな面倒なヤツ、さっさと縁切らねェと。


「ビッチング」

「ビッチな女αにやればいいだろ? ッたく……」


 話の通じない斗真に選ばれるって、メチャクチャ大変そうだな。

 

 未来にいるだろう、斗真の番くん! 

 ご愁傷様なこった。





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『運命』なんて、こっちから捨ててヤル! 赤羽 倫果 @TN6751SK

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