第3話 感謝


 邪神を祭る際の作法なんて知る由もないバーバラは、それでも感謝を表そうと、まずは祭壇を綺麗にすることに決めた。


 石造りの祭壇に絡みついた植物を外し、着ていた服の一部を裂いた布切れを川の水で濡らし、祭壇をゴシゴシと磨く。


 ちゃんとした道具が無いので完璧とはいえないが、それでも人の手が入ると見違えるように片付くものだった。


 バーバラは己の数時間の成果を見てうんうんと満足げに頷いた。


 さて、感謝を示した後はこれからについて考えなくてはならない。


 バーバラの宿敵は勇者のパーティに在籍している……勇者パーティは世界中から集められた精鋭。数の上で不利な上に、1対1でも対策を練らなくては負けかねない。


(それに……。)


 バーバラは自身の青白い手を見下ろす。


 あの不意打ちによるダメージによるものか、それとも奇跡の復活による弊害かはわからないが、明らかに身体能力が落ちているのを感じている。


 ちゃんと計測したわけではないから、確かな事はいえないが、今のバーバラの筋力は一般的な成人女性よりも少し強い程度ではないだろうか?


 祭壇の掃除をしているときに、思ったより力がでなくて驚いたものだった。


 それからこの体。


 血が通っていない。見た目は完全に死体のそれだ。


 この体に食事や睡眠は必要なのか……そもそも、あとどれくらい稼働できるのかすらわからない。


 普通の人間のように、あと数十年生きられる(動ける)かもしれないし、タイムリミットは明日かもしれない……。


 何もわからない。だからこそ、今すぐ行動しなくてはならない。


 憎き怨敵の顔を思い出す。


 谷底に落ち行く自分を見下ろす、あの女の恍惚とした表情を……。


 ギリギリと強く奥歯を噛みしめた。


 まずはなんでも良い。武器がいる。それから周囲を探索して、この場所がどこかを把握しよう。


 心を復讐の炎で焦がしながらも、頭は冷静にやるべきことを整理していくのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地を這う復讐者達の鎮魂歌 武田コウ @ruku13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ