第5話 ヘコヘコヘコヘコ
なんでしょうね?
ステージもね、フラダンスとは違うんすよ。
ひな壇じゃないけど軽く段になってて、奥の高いところにヘコ神様が陣取って振るんすよ。腰を。それはもう腰を。
で、下の段に、他の御子――ダンサーたちに混じって、狭山や他の友人たちが、トムキャットのリズムで腰ヘコしている。横に並んで一心不乱に。
いやぁ。
あれが「こしへこ様」の魔力なんでしょうね。
誰も止められないみたいなんですよ。腰ヘコ。
狭山なんか死んでもそんな事やらない女だったのに。
やってますもん。腰ヘコ。発情期の犬以上っていうか。
ケツとかモモの筋肉が攣りそうになってるのが見てて分かるんすよ。筋がいってる感じで。それでも必死に腰を振り続けてますからね。汗とか俺のとこまで散ってきましたもん。
制御不能ですよ、もう全部が。
巫女も、狭山とか他のダンサーも、客も、運営側だってあれ狂ってるでしょ。
で、一番肝心の「こしへこ様」も狂ってるんですよ。あれは間違いない。だってやるわけないじゃん。神様がこんな見世物に。
狂った信仰って神様の方も狂わせちゃうんすねえ。
みんな狂ってるから止める奴がいない。
永遠に腰を振り続けるしかないんよ。
そこいらで気づきましたね。
こしへこ様、すなわち巫女様、涙流してるんですよ。
でも顔は笑ってる。ほうれい線すげえ。
額や目尻に皺が寄るほど目を細めた、ぶっ壊れた笑顔なんです。口からは涎が散ってました。腰ヘコしてるから、飛ぶんすね。絶対正気じゃないでしょ?
で、見たら狭山たちも、同じ笑顔なんですよ。
泣きながら笑って、腰振りのリズムに合わせて、ときどき「キヒッ」といか「ヒヒンッ」とか息を漏らしてた。
ね? 制御不能でしょ?
仲間内で助かったのは俺だけみたいでした。
この瞬間にも逃げるべきだったんですけど、俺はそんなこと考えもしなかったですね。魅入られたみたいになってた。俺は他の客たちと一緒に口開けて仲間たちの腰ヘコを見上げていました。
最初はヘタなんすよ。みんな。
「なんだそのへっぴり腰は」
とかやじられてたり。
でも必死に繰り返すうち改善されてくみたいで。
これ豆なんすけど、こしへこ踊り初心者はみんなフラダンスの動きしちゃうみたいなんですよ。無意識に。
横の動きです。
ハワイの波を体現したようなうねうねした
でも、みんな腰に天狗はめてますから。
その天狗の面のセッティングがゆるゆるなんですね。
腰を振るたび、カパンカパンと縦に揺れるんすよ。
それが矯正具の働きをした。
横方向の
もう、いつの間にか狭山たちも綺麗な腰ヘコができるようになっていました。
それが嬉しいんですかね。
それとも哀しいんですかね。
狭山たちの「キヒッ」とか「ヒヒンッ」の頻度が上がってました。口から泡を吹いて、涙が飛び散ります。
「どうです? 都会の方。
いつのまにか、あのバカ息子が戻ってきていてそういいました。
「いったいぼくの大切な仲間に何をしたんですか、あんな破廉恥な!」
俺も一応ね、そんな感じのこというじゃないですか?
本音では混乱してて何いっていいか分かんないし、音楽かと狭山の腰ヘコのせいで血が上ったみたいになってた。
でも、バカ息子にこう返されるわけ。
「そうはいってもお客様? 腰が
見ると、俺の腰が
俺が愕然とした瞬間ですよ。
かねてからバカ息子の両脇に控えていた二人のマッチョが、スゥウウーッて動いて、俺の両サイドに立つ。
立つやいなや、俺の服をバリッ。コンビニのおにぎり開けるみたいに左右に引き裂いた。あれは相当手慣れてたね。
で、俺の素っ裸が人の目に触れるより早く、やっぱり控えていた別の五人組マッチョが、スゥウウーッてやって来て、すれ違いざまに衣装を着せていくわけです。
腰蓑。
ブラ。
花飾り(頭)。
花飾り(首)。
で、最後に天狗の面ですよ。
かねてより用意しておいた真っ赤な面ですよ。
それが、俺の股間に装着されました。
そうなったら俺も黙っちゃいないですよ。
腰の
当然、いこった天狗面がカパカパするから、ベクトル変換。腰の動きが矯正されていきました。
その腰の動きを、隣の客たちが見ていました。
俺、あまりの羞恥に白目を剥いてましたね。
涙もボロボロ出てくるし。
ヒザはガクガクしてがに股になってました。
壊れたキヒヒ笑い。
気がついたら腰ヘコダンスの完成ですわ。
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