第4話 ヘコヘコヘコ


 俺がパイナップル倉庫でねちょねちょしてる間、狭山たちはヤバいことになってた。

 ていうか盗撮が見つかって、もう終わってたんだけど、俺はそんな事は知らず、パイナップル倉庫を出て、ちょうど見つけてくれた係の人に「踊りはじまりますよー」とかいわれてノコノコついていった。


 踊りの舞台も公民館みたなダサい小屋だった。

 でも人はひしめき合ってたな。

 「○○音頭」みたいな雰囲気じゃなく、ライブハウスのそれだった。

 暗い箱の中に、ピンク色のライトが揺れていて、タキシード姿の小男が何か前説みたいなことをしていた。

 案内の村人が「あれ、会長の息子さんですわ」という。

「みなさん。今日は新しい御子のお目見えでもあります」

 バカ息子は、無理につくった標準語で話してた。

 それも、ノリ良く、かつ教養のある人間にみせようと努力した結果、完全に失敗してた。

 アホがするフリーザのモノマネみたいになってて最悪でしたね。

「そぉれ、いきますよぉー」かなんかいって。


 で、ショーが始まるのか、音楽が流れ出したんですけど、伝統の踊りっていったら「何とか音頭」みたいなの想像するじゃないですか?

 ハワイアンっていったら、フラダンス想像するじゃないですか?

 どっちでもないんですよ。

 オリジナルでもない。

 邦楽ですよ。

 トムキャットの「何とかロックンロール」。

 そう『振られ気分でRock'n Roll』。

 ほら『ドンスットプ、ドンストップザ、ミュージック』ってやつ。

 これもぜったいバカ息子プロデュースですよ。

 『田舎の風習にトムキャット合わせる俺』

 『あえてのトムキャット』

 みたいな。

 ていうか絶対許可とか取ってないですよね。

 それから、プシューっつって煙とともに、あの痛み止め打ってた巫女様がのしのし登場。

 踊り出すんですけど、これが「腰ヘコ」そのもの。

 両手を頭の後ろで組んで、腰を振るわけです。ずっと。

 高い声の頃のトムキャット声が延々リピート。

 ドンストップザミュージック。

 っていってる間、巫女様は神妙に目をつむって、腰を振り続けている。

 しかもその格好は通常のフラダンスの格好にプラス、股間に天狗の面を装着しているんです。

 俺、とっさに自分の天狗面を投げ捨てましたよ。

 なんか流れで持ったままだったんですね。


 クソでしょ。

 たぶんあれですよ。

 こしへこ踊りって元々はヘドバンでトリップするタイプの踊りだったんですよ。思うに。

 でもフラダンスっていうアイデアに執着したバカ息子が、面を腰につけさせちゃった。歪めちゃったんすね因習を。

 巫女は、こしへこ様は、ヘドバンしてるつもりで腰ヘコしちゃってるんだよね。

 もうそっから狂っちゃってるんだよね。こしへこ様。

 正気かコイツって、小男の方を見ると、バカ息子は笑って手拍子しながら俺の方へ歩いてくる。

 で、俺のこと誰かから聞いたんでしょうね。

「都会からいらっしゃったんですよね? どうですか? 腰ヘコ踊りは?」

 とかいう。


 どうもこうもねえよ。

 って思うけど、俺はこの時バカ息子の真意も、狭山たちがすでに捕まってることも知らなかったから、

「はあ。なんかすごいっすね」

 とかへらへらしてました。

 バカ息子は本気と受け取ったらしく、嬉しそうにしてましたね。

 自分の考えた踊りに自慢たらたらで、腰ヘコにトムキャットとかトロピカル要素をくっつけたのを、何かアートだと思ってるらしいです。マジで。男根信仰がどうとか得意げに説明してましたもん。フリーザ口調でですよ。

 嫌になる口調だけど、それより気になったのは、なんかずっとニヤニヤ俺を見てること。

 繰り返すけど、俺はこの時狭山たちが捕まってるの知らなかったんですね。


 そんなバカ面の俺に、バカ息子は、いっそう深く笑って見せた。そんでマイクを取って、

「では、さらに楽しいショーをお目にかけましょう」

 とかいう。指をパチンと鳴らしたりしてから。

「さあさ。新しいヘコ御子さま、出番ですよぉ~」

 巫女以外のダンサーを「ヘコ御子」って呼んでるらしいんだよね。

 とにかく、バカ息子が叫ぶと、舞台端から狭山たちが入場してきた。

 フラダンス姿で。

 股間に天狗の面をつけて。

 腰をゆるゆるうずかせながら。

 

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