Raining特別編 カクヨム六周年SS

惣山沙樹

肉の日

 駅前で待ち合わせていた脩斗しゅうと達己たつきは、互いの顔を見るなり二人ともさっと片手を上げた。


「よお、シュウさん」

「こんばんは、達己」


 彼らは連れ立って一軒の焼肉屋へ入った。店内は混んでいたが、予約していたので問題はない。


「にしても、突然どうしたの? 焼肉行こうだなんてさ」

「ほら、今日って二月九日、肉の日でしょう? それと、作者がカクヨムに登録してから六年記念ということで」

「メタ発言するのやめてくれる?」

「そういう役回りなもので」


 ここの焼肉屋は食べ放題の店だ。真ん中の価格帯のコースに二人は決め、アルコールの飲み放題も注文した。


「かーっ! やっぱり焼肉には生ビールだよな!」


 達己は勢いよくジョッキを傾けた。つられて脩斗もごくごくと生ビールを胃に入れた。


「さて、まずはネクタイからいきますか」

「ネクタイって何?」

「牛の食道にあたる部位ですよ。タレはつけずに塩のまま頂きましょう」


 脩斗はささっとトングで肉を掴み、キレイに焼いていった。達己はというと、それを見守るのみだ。


「ほら、焼けましたよ。取り皿に置いていきますね」

「はーい」


 ネクタイを口に運んだ達己は、んんー! と声を漏らした。


「コリコリしてて、いいな! タンとはまた別の感じだわ」

「そうでしょう? 作者もお気に入りなんです」

「だからメタ発言はよせって」


 続いては、壺浸けカルビだ。脩斗は壺に入った大きめの肉をトングで掴み、器用に右手のハサミでそれを切っていった。


「分厚いので、ちょっと時間がかかります。その間に、野菜も焼いておきましょうか」


 そう言うと脩斗は、タマネギ、カボチャ、シイタケを美しく網に並べていった。


「俺、ビールお代わりするけど」

「僕のも頼んでおいてください」


 達己はテーブルに備え付けられていた呼び出しボタンを押した。すぐさま店員が駆けつけてきて、達己は二杯のビールを注文した。


「っていうか、この店灰皿ないの?」

「店内は禁煙ですよ。外に喫煙スペースがあります」

「外いちいち出るの寒いし、我慢するわ」


 脩斗が壺浸けカルビを裏返し始めた頃、追加のビールが到着した。


「シュウさんって米食べないの?」

「焼肉のときは食べませんねぇ。ビールが飲みたいですから」

「確かにな。俺もだ」


 ゴキュっと気持ちの良い音を立てて、達己はビールを飲み始めた。


「さて、そろそろカルビがいける頃ですよ」

「待ってました!」


 ここのタレは醤油と味噌が選べる。二人とも味噌を入れていた。


「うーん、ジューシーでいいな! シュウさんが焼いたから、加減も申し分ない!」

「作者はもっぱら旦那さんに焼かせるそうですよ。まあ、お子さんの相手もしないといけないですから」


 もはや突っ込むことをやめた達己は、カルビとビールを交互に楽しんだ。


「野菜ももういい頃でしょう」

「あ、俺タマネギ嫌いだからシュウさん食べて」

「あら、そうでしたか」


 脩斗はカボチャとシイタケを達己の皿に盛ってやった。そして、自分の皿にタマネギを入れようとしたのだが。


「あーバラバラになっちゃいました」

「輪切りのタマネギはそうなるよなぁ」


 仕方なく、何度かに分けてタマネギを回収した脩斗は、それを一旦置いておくことにして、次の肉へとかかった。


「ロース、ハラミ、豚トロですよ」

「豚トロはともかく、焼いちまうとどれがどれかわかんなくなるんだよな」


 油分の多い豚トロを置いたことで、火があがった。しかし、脩斗はそれにひるむことなく、淡々と肉を乗せ、裏返していった。


「そういやシュウさん。俺、シュウさんの色恋沙汰って全然聞いたことないけど、何か無いの?」

「いえ、全く?」

「肉は食うのに女の子食わないの? せっかくそんな良い顔してるんだから勿体ない」

「達己こそ顔立ちは整っていますよね。作者がすぐそういう設定にしたがるから」

「作者のことは放っておいて、肉食おうぜ肉」


 焼けたそばから、二人は次々に肉をかっさらい、網は空っぽになった。


「俺、まだお代わりいけるわ。シュウさんは?」

「僕もまだまだ食べられますよ。いやぁ、肉の日にカクヨムに登録してくれた作者に感謝ですね」


 おう、それはたまたまだったんだがな。存分に感謝してくれたまえ。二人とも、沢山食べられて良かったね? コホン。

 そして、締めのアイスクリームまで堪能した彼らは、上機嫌でそれぞれの帰路についた。

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Raining特別編 カクヨム六周年SS 惣山沙樹 @saki-souyama

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