第5話 雅の新生活

 雅のここでの新しい生活が始まる。

ダイニングに通されると、テーブルに3人分の洋風の食事が用意されていた。

3人ではもったいないくらいの大きなテーブルだった。昨日までは茶の間のこたつで、5人がピッタリとくっついての食事が当たり前だった。食事のたびにぶつかっただの、狭いだのと文句を言いながらもいつも、笑いのあるにぎやかな食事だったと思い出していた。

 「さぁ、雅お嬢様、体が冷えたでしょう。温かいスープです。お食べ下さいな。」と如月が雅に優しく声をかけた。

「ありがとうございます。いただきます。」

とスープを口にした。

 「美味しい…!」

思わず口から出てしまった。雅は急に恥ずかしくなってしまい顔を赤らめて下を向いてしまった。

 「恥ずかしがらなくていいのよ。雅ちゃん。」

 「すぐには今までのような家族にはなれないと思うけど私達3人はもう、大切な家族と思っているから安心してね。」

と優しく声をかけたのは継母だった。

前の家に迎えに来た時はどこか冷たさを感じていたが全くの別人のような優しさだったので雅は驚きを感じた。

 「せっかくの食事が冷めてしまうぞ、早く食べようじゃないか。」

と父親が声をかけた。

3人は大きなテーブルに座り遅めの夕食を食べ始めた。


 食事が終わると、如月が一通り家の中を案内してくれた。

見るものすべてが真新しいものばかりで雅には新鮮だった。

 「雅お嬢様のお部屋はこちらになります。」

案内された部屋に入ると声を失った…。 

「広い…」

軽く10畳はある部屋に通された。

部屋の中は白を基調に明るく、けれども派手ではなくかわいい女の子の部屋に準備されていた。

「旦那様と奥様が、お嬢様を迎えるに当たって部屋を模様替えをしたのです。それはそれは楽しそうに用意されておりましたよ。」

と如月が雅に話しかけた。

 勉強机には真新しいランドセルが準備されていた。机の横には見たことのない制服がハンガーにかかっていた。

 「これは?」

と雅が如月に尋ねた。


「これは新学期からお嬢様がお通いになる小学校の制服でございますよ。」

と言った。

「新しい学校…」

小さな声で雅が言った。すると部屋に父親と継母が入ってきた。

「説明ありがとう如月…ここから先は私達が説明するわ」

と継母が言った。

 「雅ちゃん、あなたは新学期から新しい私立の小学校へ転校するのよ。もう、転校の手続きはあちらのご両親がやってくださったのよ。」

と説明してくれた。

雅はただ黙って聞いてることしか出来なかった…。

「新しい小学校はセントラル女子学院初等科だよ。この学園は大学まで行けるから心配いらないよ。まだ3年生の雅ちゃんには難しいかな。ハハハ。」

と笑いながら父親が言った。

「さあ、もう遅くなってしまったからお風呂に入って休みましょう。」

と継母が話を終わらせた。

(風呂に入れと言われても何も準備ができていない…どうしよう…)

雅は不安になっていると継母が着替え一式を持ってきて雅に渡した。

「ありがとうございます。」

雅がお礼を言うと、

「いいのよ。ゆっくりしていらっしゃい。」

と優しく話しかけた。


雅はゆっくりと湯に浸かりながら考えていたが考えても考えても答えは見つからなかった。

一人で入るにはもったいないくらいの広いお風呂はゆっくりはできるが寂しさを感じずにはいられなかった…。

 雅の新しい生活は目まぐるしく流れて一日の終わりを迎えた。

これからの生活に不安と寂しさは残るものの、ここで生きていくしかないんだと覚悟を決めた一日だった。まだ小学生の雅にとってはかなり辛い覚悟であった。


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輪廻転生…もう一人の人生… @koba58

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