R.I.P.
通話を終えたあとはクヮンジャ側にタケルとアサラが残された。
万が一、ヒルメに傷跡が残ってしまった場合、帰ることは許されないとされる。
「俺は結局、とんでもない奴らにつき合わされただけ?」
「
翌日には男ふたりで昼すぎ、クヮンジャの住む街を観光した。
アサラは依然としてクヮンジャの中に入り、異性からの目を避けている。
「今日は至って普通の街風情を案内したけど、具体的に何をお返ししてくれるの?」
「そんなに熱い眼差しを向けられたら応える
「人混みには近寄りたくないから。電動バイクに乗ってる感じで練り歩いた先に、何かあればお得って感じ。どうせ不審がられるなら人の目は少ない方がいいから」
「パントマイムの話か? 確かにクヮンジャは動きが特徴的だった。
クヮンジャの自宅に続く帰路へと就いた。
その道中、道端で話題に困ったとき、クヮンジャが何もない空間に向かって手を動かすことがあった。
続けざまに何もない空間に乗り、タケルに向かって奇妙な動きをして見せた。
タケルは子どもを見守る眼差しを向けていた。奇妙な動きについては街中で見た、子どものために設置された遊具で遊んだときの動きが再現されたものだった。
「少なくとも俺を変な目で見てないことだけ分かる」
「初々しいな……アサラ! 表に出てこられるか? 一緒に行動するぞ」
言われるがままにアサラがクヮンジャの口から抜け出た。
クヮンジャは気管を塞がれて
視線を察したアサラがタケルの陰へと身を隠す。
「案の定の反応だったが、青年なら少しくらい素直でもいい」
「アサラさんは美人すぎる。歩くファンタジーかと思った。俺、見境なくなる寸前だった……でも、構造美はマネする重要度が低いからなぁ」
「アサラのマネか? 話が見えない」
「俺も分かってない。これが皆が普通にやってることだったら、俺ひとり中二病っぽくギフトだのギフテッドだの、浮かれてなかったと思うんだよなぁ。そういえばアサラさんも俺と同じことができるんじゃないの?」
タケルがアサラに耳打ちをされた。
その際、口元を緩ませて仲の良さを垣間見せていた。
「ふむ。アサラの見解では似通った部分はあるものの、道具の有無で区別されるとのことだ。クヮンジャの中から観測して分かったらしい」
「え? あれって道具使って起こした現象だったぁ? 俺の体、覚えてるかな。黒くなるやつマネしてみよ」
目を輝かせながら自身の胸に手を当てる。
ところが、次第にクヮンジャの表情は曇っていった。
「俺って一度触った道具なら、その道具要らずで道具のマネできるギフトをもらったはずなのに」
「そう落ち込むな。勘違いは誰にでもある。ともかく今日は有り難かった。後日お返しを……もとい、ギフトを贈ってやるからな」
「うぅ、
「おう。遠慮せず目いっぱい引き出してやれ。馬でも請求するか?」
「ペガサスでも欲しくないよ。第一、家のどこで飼うんだって……そういえば今日はふたりでどこか泊まる?」
「だな。昨日は野宿がてらにうろついたら不審者と思われて大変だったんでな。ヒルメに相談したら宿として使える、大樹の種というマジックアイテムなる変なものを寄越してくれた」
「マジック? 手品? ついでに俺の分も用意してもらお」
「どういうものを想像しているかは分からないが、幹の大きさは巨木に相当する。住居みたいな部屋割りすらなくて空洞がひとつ、ぽっかり空いただけのものだった」
「ゆりかごには大きすぎる……なんか失恋した気分。ぇえと、また今度」
「ああ、またな」
「私の方からもお礼と謝意を。手前勝手に巻き込んでおいて恐縮ですが、本日はご助力ありがとうございました。それでは、また今度」
「あっ……うん」
落胆しつつも頬を赤らめたクヮンジャがタケルやアサラと別れた。
肩は落としたままで自室へと帰り着く。
すぐにヒルメから着信があり、ビデオ通話に使うレンズを覆って通話に応じた。
「真っ暗だぞ? クヮンジャー。せっかく早く出ても一長一短……一長一短クヮンジャーって語呂良くない?」
「急に人の名前で遊ぶな。今、着替えてる。それとも、俺と結婚する気で着替えを見たい?」
「あれは冗談だっ。はっはっは!」
「分かってるよ。でさぁ? 今日一日街をぶらついてみたんだけど、いまいち進呈品を選んだ気がしないんだ」
「確かにコピーするだけで買わないんだから、店員からすれば冷やかしだな!」
「別に同じことを日頃からやってきたから今さらって感じだけどね」
「同じこと?」
「アサラさんから送られてきた俺のデータ、目を通してない?」
「うん。道具もデータも全部ワカミヤが管理しているからな。だから、なんでも欲しいものを言いたいだけ羅列していいぞ? こっちから出すものについては全部ワカミヤが責任持つ! 知らないけど!」
「うっわ……後日なかったことになる奴だ」
部屋着に替えたクヮンジャが、スマートフォンに自分が映るようにした。
すべからくスマートフォンの画面にはヒルメが映り、腕の傷跡も目に入ってくる。
「気になる? 気にすんな。普段は長袖か付け袖するし、どうしても半袖にしなければダメな場合なら肌色のタトゥーで覆い隠すし。気に病むより早く欲しいもの、言え言えほれほれ」
「欲しいものと言われてもなぁ。買うとか勝ち取るとか、譲ってほしいとか取り返したいとか手段や方法によっては置き換わるから」
クヮンジャが天井を仰ぎ、思慮深くネガティブになった。
ヒルメを見据え、どうでもいいと薄ら笑いを浮かべた。
「俺へのお返しは駄菓子でいいかな」
「なんか知らないけど画面殴りそぉ。もっと欲張れ。遠足に持っていくおやつ代しか出せないなんて見くびるなよ」
「え? じゃあ、第二の地球?」
「用意できるか! 太陽系よりデカい奴が粘土遊びするなら別だけど。はい次」
「ん~? あ、あれ。体が黒い何かに変わる道具?」
「体をナノロボットに変換するカプセルのことかな。あれは新しく譲り受けないと手元にないから別のにしてくれる?」
「なんとなく俺がマネできなかった理由を察せた。それはそうと別のやつー? どうしよう。タケルさんに渡した大樹の種は?」
「あんな使えないのが欲しい? っていうか、あれも……あダッ! いだぃ。後ろに手を突いたら何か角に……ん? あぁ、大樹の種をチョコレートと思って全部食べちゃったのに、まだ箱に残ってたっぽい。次は? 次、何が欲しい?」
「言った傍から残ったものまで食おうとすな!」
「またワカミヤからもらうし、いいんじゃない? まじステキ旦那が棚からぼた餅って感じ。本当にアサラから
スマートフォンの画面には、肘を突きながら大樹の種を貪るヒルメが映っている。
「申しわけなさそうに見えない。アサラさん夫婦は見ていて羨ましかったのに」
「お? なんだぁ? そこで
安らげる場所を描いた点と線 れにう @leniu
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