③
震えた手で扉を開けて、実験室に入った。
「……、うん。どうだった?」
私は、なんとなくわかってることを聞いた。
「……、合格したよ」
「……」
笑顔を作ろうとした。少し、ぎこちなかった。
「おめでとう。すごいよ。すごい」
「……、ありがとう……」
鋭い彼の目は、彼が俯いているせいで見えなかった。
「私はさ、私はさ」
唇がワナワナと動いた。
「ダメだったよ。不合格だったよ。すごいよ
手で拳を作らないと耐えられなかった。前を見れなかった。涙が溢れた。熱くなった。
勉強会の意味を無くしてしまった。せっかく追いつこうとしたのに、一次試験の時点で、怖くて、手が震えて、頭パンクして。半分にも満たなかった。私は、まだまだだった。結局私には高望みだったんだ。そうなんだ。これなら私立も受けとくんだった。
「いや」
そう言いながら、
「……、えっ?」
「
「……、ううん」
「すごいよ、頑張ったよ、天才だよ」
「私なんてまだまだで」
「そんなことないよ。すごいよ、すごかったよ」
「違うの、違うの」
「……、あの日さ……、僕はさ。君に告白したかったんだ」
「…………、うん……」
なんとなく、そうだと思ってた。
「でも、僕はね。君の好きなところが、賢いところだったんだ。小学校の時、君とよく点数を比べてた。それが楽しくて、僕はずっと君と争っていたかった。でも、君と差が開いていって、その、僕はまた君と争いたかった。だから君を天才にして、また僕と争わせようとした。そして好きな君になって欲しかった」
「……」
どう反応して良いかわからなかった。かなりイカれたことを言っている気がする。でも、うまく否定してあげれないと言うか。
「でも君と一緒に勉強するうちに、その頑張る姿が好きになった、喜ぶ顔が好きになった、落ち込む君が嫌いになった、歯を食いしばる君を応援したくなった、眠る君をただ、温かい気持ちで眺めていた」
「……」
「僕は君が好きなんだ、愛してるんだ、だから、自分をいじめないでくれ……」
彼の目にも涙があった。
「
「何……?」
「同棲しよう」
「……、えっ?」
「東京に来てくれ。ずっと教える。君のそばでずっと教える。僕を君の家庭教師にしてくれ」
予想外のプロポーズだった。誰にも真似できないプロポーズだった。
「言われちゃった……」
私はそっと言った。
「私ね、今日、
「えっ?」
「……、考えてること、似てたね?」
「……、うん、そうだね」
実験室、夕陽、寒風、二人。
おかしなことに私たちは涙を流しながら笑っていた。
好きな人にして欲しいこと 旅人旅行 @aiueo777
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