0/:荒廃セシ天地 - origin -

〝神という名の呪い〟 / 摂理 - providence - (完)


 風が吹く。

 吹き抜けるように、ただ、清々しく吹き付ける。

 その場には、もう、誰もいなかった。


 神々が座していた、空間、もはや影も形も残っていない。


 ただ、廃墟と化した、宮殿の形骸が置いてある。

 〝神殿〟。

 かつては、神々が、終わりのない永遠を過ごしていた場所である。

 質素で真っ白な部屋。

 真っ白な壁。

 真っ白。


 右も左も上も下もない。そんな。曖昧な世界が彼らの住処であった。


 なにもない。

 虚空。

 虚しい、そんな、言葉通りの世界である。


 遺されていたのは、ただ、年季の入った茶色の薄い紙。


 その上に、神々の言葉が、記されている。

 今となっては、ユキトだけが、解読できる言葉である。

 なぜなら、神々を喰らって、その身体の中にすべてを呑み込んでいるから。


 屠り、喰らい、噛み殺す。


 そういう、血なまぐさい戦いを、ずっと繰り返して続けてきた。

 神々の黄昏ラグナロク

 その最後に辿り着いたのが、そう、この小さな部屋である。


 神は殺した、後は、アリスを――想い人を――救い出せば、すべてが終わる。


 だと言うのに。

 その一枚の紙切れが、ユキトを、大きく困惑させていた。

 記されていたのは、そう、〝感情〟である。



『〝神々われわれとて。存在する理由は分からぬまま。ただ。在り続けたに過ぎない。〟』

 続く。

『〝生きることも許されず。死ぬことも叶わない。ただ。使命を全うするだけの存在に。どれほどの価値があるのだろう?〟』

 苦悩。

『〝我らは。摂理が産み出した。意味もなきただの産物だ。〟』

 謀反。

『〝我らに特別な感情はない。ただ。死を願う感情は尽きない。〟』

 期待。

『〝彼の。冥府へ発った人の子であれば。あるいは。可能であるかも知れない。〟』

 喜び。

『〝神殺し。つまり――。彼奴は必ずその業に身を染める。〟』

 笑う。

『〝彼の少女と――。在りたいと願えば。彼奴はきっと我らを滅ぼす。〟』

 ××。

『〝すべては。そう。我らの計画通りに動いている。〟』



 最初から、彼らは、ユキトに――のみならず、誰でも良い――殺される、そういう未来を願っていたのだ。

 誰がどう考えたかも知らない、を、神々自身が放棄したいとずっと願っていたのだろう。

 終わりなき永遠を生きる、ソレは、比肩するコトが不可能なほどに過酷な運命だ。

 神としての務め、世界を正す、ソレは棄てられない。

 一方で。

 生きとし生ける者として、死を望む、そういう願いも持っていた。


 ……――彼らも、また、ユキトやアリスとは違うなにかと、闘っていた。


 残酷な摂理、運命、現実である。

 そして――。

 神を喰らった、つまり、呑み込んだユキトという存在は。

 〝継承〟。

 その役目を、半ば強引に、背負う義務を負わされた。

 確信犯だった。


 運命は、いつの日か、ユキトが〝神〟になるコトを強要する。


 それは、きっと、ユキトが避けられない宿命として。

 〝神殺し〟。

 その功罪は、今度、ユキト自身が背負う。


 神殿は、今日も、あるじの帰りを待っている。

 均衡を取る。

 その存在を心待ちにしている。


 魔の王は、呪われ、神の後継者として――。


 言われるまでもない。

 すべてを覚悟の上で、ユキトは、この世界のすべてを壊したのだから。

 神々の黄昏ラグナロク


 たった一人の少女のために、すべてを背負って生きていく、傷だらけの青年の物語。


 そういう彼が、歩く、未来はどういう道なのか。

 分からないながらも。

 きっと、光は、差すのだろう。


 その隣には、いつだって、一人の女の子がいる。


 彼が求めた、最初で最後の、想い人。

 そのは――。

 最憐いとおしの、アリス、彼女であるのだから。


〈了〉

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殺戮少女とラグナロク - 壊れ果てる世界の先で - 黒砂糖。 @Black_Sugar_NV

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