第14話
今日は海翔は用事があるとのことで俺一人でギルドにきた。ギルドのカウンターまで行くと南さんが書類仕事をしていた。
「あれ、今日は速水さんは一緒ではないんですね」
「あいつは用事あるみたいで」
「なるほど、わかりました」
ミノタウロスの魔石の査定が終わったと朝連絡が来ていたから、今日はお金を受け取りに来たのである。後はあわよくばダンジョンに入りたかったが、どうやらまだ調査が終わっていないようで、入れる気配はなかった。
「ミノタウロスの魔石ですが査定の結果8万円となりました。それに加えて、3ランク上のイレギュラーの討伐報酬として追加報酬が50万円です。計58万円となります」
「ご、ごじゅ...!?
「はい、2ランク上や3ランク上のイレギュラーはそれほど危険なんです、1ランク上なら怪我で済む場合が多いですが、それ以上となるとそうはいかないので...討伐してた方には謝礼金が支払われる仕組みなんです」
「なるほど...確かにあんな奴がE級に居たら危ないですしね...」
「そういうことです。お二人が討伐してくれていなかったら今頃どれほどの被害が出ていたか...」
C級でダンジョン慣れしている海翔がいてくれたから倒せたといっても過言ではない。
初心者だけのパーティが遭遇していたら命はなかっただろう。
「さて、報酬に関してですが、お二人は半々で良いと速水さんが事前に連絡を入れて下さっていたので、半額の29万円を黒鉄さんにお渡しします。速水さんの取り分は速水さんのギルド口座に入金してあります」
事前に連絡を入れてくれていたらしい。確かに何も言われなければ海翔が6で俺が4くらいで分けるつもりだったが、そこまで海翔には見抜かれていたのだろうか...
「ギルド口座?」
「はい、ギルド管理の銀行口座です。初期費2000円で開けますが...開かれますか?」
「良い機会ですしお願いします。さすがに30万近い現金を持ち歩く気にはなれなくて...」
「そうですよね、わかりました、では必要な書類を持ってきますので少々お待ちください」
少ししてから南さんが持ってきてくれた書類に必要な情報を書いて無事にギルドの口座を開くことができた。
「こちらがギルド口座のカードとなります。これは普通のデビットカードと同じように使うことができますし、ギルド口座はクレジット会社で登録する際にも使えるれっきとした銀行口座です」
「そうなんですね、ありがとうございます」
まだ高校生だしクレジットとかそういったことはよくわからないが、ちゃんとした銀行口座ということだろう。というか、まだ未成年なのに自分で開いてしまってよかったのだろうか。まあ実際開けてるし良いんだろう、きっと。
「さて、黒鉄さん、今のレベルはいくつですか?ミノタウロスを討伐したおかげでかなり上がっていると思うんですが」
「17になりました」
「高いですね...わかりました...うーん、初心者の方には説明しない方がいいと思って説明は省いていたんですが...実はギルドには貢献度を無視してランクアップできる制度が存在するんです」
貢献度を無視してランクアップってことは、クエストの達成数や魔石の納品数に関係なくランクアップができるってことだろうか?
「今その話を俺にしたってことは、それができるってことですか?」
「そうです。探索者のレベルが15に到達していて、なおかつC級以上の魔物を1体以上討伐している場合、ギルドへの貢献度を無視してC級にランクアップすることができるんです。この場合の討伐はソロかパーティかは問いません」
「確かに両方満たしてますが、D級を飛ばしてしまっていいんですか?」
「会議で話し合ったんですけど、探索初日でミノタウロスのイレギュラーに遭遇しておいて、それで生き残るどころか2人だけで討伐してしまうレベルの探索者をE級やD級に置いておく方がこちらの損失、って結論になったんですよ」
顎に手を当てて考え込むようにしつつ南さんは続ける。
「ダンジョン慣れもしていない16歳の少年はミノタウロスなんか相手にしたら腰を抜かしていたり失禁したりしていてもおかしくはないんです、本来は」
確かにそうだ。かなり慎重も大きかったし、圧迫感も半端じゃなかった。海翔がいてくれなければ正気を保てなかったかもしれない。
「速水さんに関してはもう貢献度自体は満たしていましたし、レベルは伺ってませんが、今回の『E級の初心者探索者を連れてミノタウロスの討伐』という実績がB級探索者になるには十分すぎると判断されたので、速水さんもB級へのランクアップ試験は免除でそのままランクアップする予定です。黒鉄さんもC級にランクアップすれば、一人でC級のダンジョンまで入ることができるようになりますよ」
「あ、じゃあE級ダンジョンの調査が終わるのを待つ必要がないってことですか?」
「そういうことです、速水さんが一緒でしたらランクアップしなくてもD級ダンジョンには入れましたが、今日は黒鉄さんお一人とのことですし、ソロで行くならE級ダンジョンまでしか入れませんしね」
もとからこちらに得しかないのだから受けるつもりではいたが、ダンジョンに入れるならなおさらランクアップするしかない。
「じゃあ、お願いします」
「はい、そういっていただけると思ってすでにランクアップ後のカードを昨日のうちに用意しておきました、どうぞ」
新しくもらったギルドカードのランクの欄にはEではなくCと書いてあった。
「ランクアップおめでとうございます。これでルール上、一人でC級ダンジョンにまで入れるようにはなりましたが、レベルが上がったとはいえ判断力や対応力などはまだまだ初心者であることは忘れないようにしてください。ランクアップ直後に調子に乗って痛い目を見てきた探索者をたくさん見てきたので」
「気を付けます」
慢心はよくないし、今日は大人しくD級ダンジョンに行こう。
―――
南さんにD級ダンジョンの場所を教えてもらい、装備を着替えてから向かうとちょっとした列ができていた。
「お前もE級ダンジョンが閉鎖されてるからこっちに来た感じか?」
「え?はい、そうですけど」
前に並んでいた少し年上くらいの男から話しかけられる。
「やっぱそうだよな~。俺もE級ダンジョンが調査で閉鎖されていけないからこっちに来たんだよ」
「E級探索者ってことですか...?」
「いんや?俺はもうD級探索者だけど、普段はゴブリンとスライムをバイト代わりに倒して小遣い稼ぎしてんだよ。普通のバイトで客の対応と化してるの疲れるし時給も安いからな。毎日ゴブリンとスライムの討伐依頼受けて倒してんだ、大体1時間もあれば両方終わるから、割もいいしストレス発散にもなるから一石二鳥なんだよな。ってそんなこと聞いてくるってことはお前は俺とは違ったのか、同業者かと思ったわ、ははは」
今列に並んでいる人たちはみんな俺や目の前の男と装備がそう変わらない。おそらくこの男と同じ感覚でダンジョンに来ている人たちだろう。そう思えば確かにゴブリンやスライムの討伐は割がいい、趣味やバイト感覚でお金を稼ぎに探索者になる人がいるのも納得だ。
「お、空いた空いた、まあ、頑張れよ」
いつの間にか列が縮まっていて、男の番になると男はダンジョンの中に消えていった。
俺も後を追うようにしてギルド職員の人にギルドカードを見せ、階段を下りてダンジョンの中に入っていく。
第1層で安全に気をつけて魔法を試し打ちしようと思っていたが、思ったより人が多かった。この様子だとまだ混みそうだったので、第2層以降で試そうと進んでいると、角を曲がったあたりでゴブリンを大きくして牙を伸ばしたようなみための魔物が出てきた。
「ホブゴブリン...か?」
予定とは違うというべきか、当初の予定通りというべきか、魔物にちょうど良く遭遇できたので、小石を右手を構え、もう使い慣れた魔法を口にする。
「先手必勝っ、
すると10円玉ほどの大きさだった小石が急にサッカーボールサイズまで大きくなり、形を変えた後とてつもない速度で射出されていった。
もはや
強すぎじゃね?と思いながら、接敵した5秒後に一瞬で霧となってしまった可哀想なホブゴブリンの魔石を拾いあげる。
それにしても、今まで変わることのなかった大きさが変わるようになったのはおそらく親和性が上がったからだろうが、射出される速度が上がったのはなんでだろうか?
などと考えていると、さっきの戦闘で周りの視線を集めていたことに気づく。
「あ...し、失礼しまーす...」
視線に耐えられなくなった俺は、入ってからわずか5分足らずで逃げ帰るようにD級ダンジョンを後にした。
錬金術師は魔を制す ~錬金魔法、色々試してみたけど最強の魔法なのかもしれない~ @lighm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。錬金術師は魔を制す ~錬金魔法、色々試してみたけど最強の魔法なのかもしれない~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます