第13話


「E級ダンジョンにミノタウロスが出現してそれを討伐した...ですか...?」

「はい、理由はわかんないっすけど、5階層から6階層に降りようとしていたら...急に魔物が湧く音がして、振り返ったら...」

「ミノタウロスが湧いたと...」


海翔に肩を借りギルドまで戻ってきた後、南さんにダンジョン内で何があったかの報告をしていく。


「確実にイレギュラーですね...」

「やっぱりそうですか...?」

「はい、本当に稀ですが、E級のダンジョンにミノタウロスが現れることは本来あり得ませんので、イレギュラーなのは確定でしょう。」


イレギュラーというのは、E級のダンジョンにC級やB級の魔物が湧いたり、逆にB級やA級のダンジョンにD級やE級の魔物が湧いたりすることを言う。


まずダンジョン内にある空気は常に魔力を含んでいて、その魔力をダンジョンが消費することによって湧く、というのが魔物が湧く基本的な原理である。


そしてダンジョン内の魔力の濃度が濃いほど強い魔物が出現しやすいということから、ダンジョンの等級は、そのダンジョン内の空気が含んでいる魔力の濃度によって設定されることが多い。


イレギュラーが起こる原因はいくつかあるものの、代表例として挙げられるのが、長時間1つの階層で連続して大規模な魔法を使い続ける、というケースだ。


そもそも、魔法を発動すると、周囲にその魔法を発動するために消費した魔力が放出されるという副作用がある、すべての魔法に対してこれは共通の認識で、もちろん、魔法を発動するのに使用したMPが多ければ多いほど放出される魔力も増える。


つまり強力な魔法であればあるほど使用した際の魔力濃度の上昇率は高く、それが短時間で何度も何度も行われると、空気中の魔力をダンジョンが消費して魔物を湧かせる速度を、魔力濃度が上昇する速度が上回ることがある。その結果、たとえ低い等級のダンジョンだったとしても、その階層だけ魔力濃度が高い等級のダンジョンに匹敵するほど高くなってしまう、というのがイレギュラーの代表的な原因の原理だ。


5階層で見た雷属性と土属性の魔法を操っていた男が、実はとんでもなく長い時間あれを繰り返していたとしたら、B級の魔物であるミノタウロスがE級ダンジョンで湧いたのも納得がいく。というか今のところ考えられる原因はあれしかない。


まさかイレギュラーが発生するほど長い間わざわざE級のダンジョン内で魔法を連発しているだなんて思うわけがないからな...


「雷属性と土属性を操るB級以上の探索者で男、ですか?」

「はい、5階層で見たんです、イレギュラーの原因だとしたらあの人以外に心当たりがありません」

「少し待っててくださいね」


すると南さんが奥から分厚いファイルを持ってきて中を確認し始めた。


「あれは意図的だったのかな」

「普通イレギュラーが発生したとしても1個上程度なはずなんだよ。調子乗って1時間くらい強めの魔法バカバカ撃ってたら、ホブゴブリンとかビッグスライムをE級ダンジョンに出しちまったってやらかし話だったら稀にしかないイレギュラーでもよく聞く部類だ」

「確かに、それなら比較的ありそう」

「あぁ、ただE級にB級の魔物ってのは意図的じゃなきゃあり得ないレベルだ」


まあ良く考えればそうだろう。自然発生でイレギュラーが起こることもあるが、それは大規模魔法の連続使用よりも確率は低く、そもそも自然発生の場合のイレギュラーだったら3つも上の等級の魔物は出ない。


「うーん...確認しましたが、B級イレギュラーを発生させることが可能な規模で土属性と雷属性を行使できる男性探索者はリストにはいませんでした」


程なくしてリストから目を上げた南さんにそう告げられたが、だとすると辻褄が合わなくなってしまう。


「リストに間違いはありません、毎月末更新されていますから...その、失礼ですが、見間違えているとかでは...?」

「そんなことはないはずです...まじまじ見るのもマナー違反だと思ったので視界に収めた程度ですが、ちゃんと土魔法と雷魔法でした。玲も同じものを見ているはずです」

「そう、ですよね。今日初めての探索だった黒鉄さんはともかく速水さんに関してはもう1年も歴があるC級探索者ですし...見間違えは考えにくいですね...」


あれは紛れもなく土魔法と雷魔法だった、ただ探索者の名簿に登録されていないとなると、いったいどういうことなんだろうか。


「こちらの方で調査を進めておきます。とりあえずはクエストの手続きを済ませてしまいますね、報告ありがとうございます。スライム5匹の討伐とゴブリン3匹の討伐、それぞれ報奨金が1000円ずつですので合計2000円となります。ホーンラビットの依頼は未達成とのことですので達成し次第ご報告ください」

「ありがとうございます」


南さんから1000円札を2枚受け取る。ホーンラビットの依頼は時間制限がないみたいなので時間があるときにまたやるとしよう。


だがイレギュラーが発生したためしばらくは調査のためにだからE級ダンジョンは閉鎖されるはず。


次に俺がダンジョンに入れるのはいつになるのだろうか。


「あ、そういえば、ミノタウロスの魔石はどうされますか?よろしければこちらで査定し買い取らせていただきますが...」

「お願いします」

「はい、では鑑定班に回しておきますので明日以降時間があるときにまたお越しください」

「わかりました」



―――



家に着いた後、何気なくステータスを確認してみた。


【レベル】

名前:黒鉄玲

年齢:16

性別:男

レベル:17


【ステータス】

HP:52/52

MP:78/78

STR:21

VIT:26 (+5)

DEX:21

INT:42(+5)

MND:26 (+5)

AGI:20 (-1)

―――

SP:26


【魔法】

錬金魔法:2



ミノタウロスが大量に経験値を落としてくれたおかげかレベルが17まで上がっていた。親和性も2に上がっている。


スキルポイントも26まで溜まっていたので全部INTに振っておく。1ポイントで3上がるみたいでINTが一気に120まで上がった。今までは24程度だったので5倍だ、なかなか高火力を出せるようになったのではないだろうか。今すぐ試してみたいが...どのみちイレギュラー関連の調査が終わるまでは入れないだろうし、しばらく暇な時間が続くだろうな...


また入れるようになったらあの土属性と雷属性の使い手みたいに火力テストをしに行ってみよう。

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