第12話


海翔の近くまで寄って、片膝をつきこちらを睨んでいるミノタウロスと対峙する。


「C級とかB級になると魔法を使ってくる魔物も居るんだが、幸いミノタウロスは近接攻撃しかしてこねえ。斧を自分から手放した上に右肩は玲がぶち抜いたから使いもんになんねえだろ」

「大分有利ってことでしょ!」

「そういうこと...だッ!水千時雨ヴァイヘルレイン!!」


海翔が両手を前に突き出すと、両手のひらから水が大量に出て来る。それらは宙に浮かび上がると分裂し、長さ5㎝程の小さな針になった。そうして文字通り数えきれないほど生成された水の針が、一斉にとてつもない速度でミノタウロスに向けて射撃された。


「す、すごい...」

「いや、全然ダメだ!俺の親和性じゃこの速度が限界だからな、多少皮膚を割いたりする火力は出るだろうが...せめて高水圧カッターくらいの速度じゃねえとミノタウロスは倒せねえ」


既に立ち上がってこちらに向かって歩いてくるミノタウロスは確かにところどころから血が出ているが、まだ全然動けそうだった。


「そもそもあいつがすでに手負いだからおとなしく食らってくれたってのもある、普段なら斧でガードされて終わりだからな」

「そうなのか...」


石回転銃ロックライフルを軽々弾いていたことからも魔法を斧で弾く意識はもとからミノタウロスは身に着けている技能なのかもしれない。


「そして、残念ながら、今の俺の魔法が俺の最高火力だ」

「え...?」


海翔がこちらを見る、そしてニヤリと笑うと


「っはは!玲、お前が倒すんだよ!探索者初日の奴に言うことじゃねえし、本当はさっきの奴に助けを呼びに行けって言いたいところだが、見たところまだまだ余力ありそうだし、俺よりも火力が出るだろ?」


実際ダンジョンの壁を基にした錬金はとんでもなくMPを消費するが、それに見合った火力を出すことができる。もととなった素材が死ぬほど硬いから貫通力や攻撃力もただの石を錬金したものより高いのは当たり前だ。


ダンジョンの壁を素材に撃つ石回転銃ロックライフル-もはや石の回転銃ではないのだが-は通常のそれの3倍ほどMPを消費するから、あまり乱発できるものでもない。


普段MP満タンの状態から撃つなら4発は打てるが、今の俺の残り魔力だと2発しか撃つことができないだろう。


俺の持っている魔力薬は残り1本。魔力薬1本で1発分のMPが回復すると考えて、2回撃って、そのあと魔力薬を飲んでもう1発、計3発であいつを倒せるだろうか?


いや、倒せるか倒せないかじゃなくて、やるしかない、手負いとはいえ相手はミノタウロスだ。ぐだぐだしていたらこっちがやられてしまう。


俺は左手をダンジョンの壁に充てて右手を前に突き出す。


石回ロックラ......違うな」


もはや石じゃないそれにロックはふさわしくない。


「だ...迷宮壁の回転銃ダンジョンライフル!!!」

「いいねぇ!」


もう慣れたMPが抜ける感覚とともに、俺の右手から色違いの石回転銃ロックライフルが射出される。ミノタウロスの心臓の当たりを狙って撃ったはずだが、わずかに狙いがそれてしまい、左胸ではなく腹を貫いた。


「ブモォォォ!!!」

「わっ!?」

「っ!螺旋水壁スパイラルヴェール!!」


怒り狂ったミノタウロスが突進してくるが、海翔がとっさに水の壁を出してくれたおかげで勢いが軽減され回避が間に合った。


「良いからやっちまえ、玲!」

「わかったっ!!」


ミノタウロスが自分から突っ込んできてくれたおかげでさっきと違い距離が近い、これならば今度は外さないだろう。


迷宮壁の回転銃ダンジョンライフル!」


先ほどと同じようにダンジョンの壁に手をあててもう片方の手を突き出し魔法を発動する。今度は狙いがそれることはなく、無事にミノタウロスの左胸を貫くことができた。ミノタウロスは息も絶え絶えといった様子で両ひざと片手を地面につき、もう片方の手も胸を押さえている。


「ブモォォ...!」

「苦しんでるぞ!!とどめを刺せ!」

「任せろ!」


魔力薬の小瓶を開けて一気に飲み干す、MPが少し回復した感覚を感じると同時に俺は再度左手をダンジョンの壁に当て、右手をミノタウロスの頭の目の前に持ってくる。


「ブモ...!!」


四つん這いの姿勢のまま俺の方を見上げるミノタウロス。心なしか目が焦りが見える。


「もうE級ダンジョンこんなとこに来ないでくれよ...」

「ブ...ブモォォ!」

「俺らの...勝ち!」


既に覇気を失ったミノタウロスの頭に魔法を放ち、とどめを刺す。


迷宮壁のダンジョン.........回転銃ライフルッ!」


ミノタウロスの頭が消し飛び、全身が霧となって消えたことを確認した。無事に討伐できたようだ。


だがその直後、大量にレベルが上がった感覚と同時に、魔力切れの感覚に襲われ、俺は意識を失った。




―――




「探索者初日なのにB級イレギュラーに勝っちゃうなんて凄いねぇ...親和性だってまだ育ってないだろうに...あの人が『緋巫女レッドメイデンが目をつけている少年を見てこい』なんて言うから、ドンマイ少年達。まぁ、いくら何でもB級はやり過ぎじゃないかなって思ってたけど、杞憂だったね、うん」


程なくして目を覚ました玲に海翔が肩を貸し、ホーンラビットの依頼は失敗だな!と軽口をたたきながらダンジョンを去っていった後、物陰から現れた男は笑いながら電話をかける。


「もしもし?......あぁ......うん...君の見立ては正しかったよ、ミノタウロスを相手にしたのに探索者初日とは思えない胆力と気合いで見事討ち取って見せたよ」


男は先ほどの戦闘で確認した情報や戦い方を報告していく。


「そうだ、あの子はダンジョンの壁を魔法で変形させて武器や盾として使っていたよ.........見間違いなんかじゃないさ!後で動画データを送っておくよ......はいはい、じゃあ僕も戻るから、うん、また後で」


(やれやれ、あの子も厄介な男に目をつけられたもんだ、可哀想に...どうして固有属性保有者ユニークホルダーってこうも変な奴ばっかりなんだろうねぇ...?)


解除オフ


電話を切った後、海翔と玲の後を追うように外に向かって歩き出した男は、小さく魔法を唱えると姿をぐにゃりと変える。


「それにしても...S級俺らに届きうる原石だから目をつけておけ、かぁ.........ふふ、楽しみだね」


白髪の女へと姿を変えた男はくつくつと楽しそうに呟いた。

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