第11話
ミノタウロスの攻撃に備え、俺も海翔も構えながら海翔が俺に指示を出してくる。ミノタウロスも鼻息を荒くして攻撃の隙を伺っているようだ。
「ミノタウロスはB級の魔物だ。つまり俺よりも格上。なんでミノタウロスが湧いたかは置いといて、こいつは俺たちの手には余る。だから...頼むから冷静な判断をしてくれ、玲」
無言で頷くと海翔が続ける。
「さっき...魔法のテストしていた探索者に助けを求めるんだ」
「ど、どうやって...?」
「お前が戻って呼んできてくれ」
「でも...」
海翔は俺と比べて探索者としての経験も、等級も、実力もすべて上。指示に従った方が生存率は間違いなく上がる。何なら今日探索者になったばっかりの俺がいてもむしろ足を引っ張るだけかもしれない。
迷っていると海翔は無言で水魔法を発動し自分とミノタウロスの間に分厚い水のバリアのようなものを展開する。
「調べた知識だからどこまであってんのかわかんねーが、そもそもミノタウロスは耐久力が優れた魔物なんだよ。だから全体的に殺傷能力が低い水魔法じゃ倒すのは...ッ!?」
「ブモォォォ!!!」
「うおぁっ!?」
急にミノタウロスが持っていた斧を横に薙ぎ払うと、海翔が展開していた水のバリアはすべて消し飛び海翔も風圧で後ろに飛ばされた。
「海翔!」
「やめろ玲来るなっ!死ぬぞ!!」
確かに今俺が行ったところで何か状況が好転するとは限らないが、このまま俺がさっきの探索者を呼びに行ったら海翔は確実に死ぬ、吹き飛ばされてから体勢を整えられていないから魔法が発動できていない。
せっかくパーティ組むのも1年も待ってもらったのに探索初日に終わるなんて嫌だ。と魔法を放つ。
「
だから足手まといは足手まといなりに戦う。海翔が回復して戻ってくるまでの時間を稼ぐ。無我夢中で魔法を繰り出すが、ミノタウロスは簡単に斧で弾いている。
ゴブリンやスライムなんかとは比べ物にならないのは最初に見た時からわかっていた。存在していただけでもすごい圧迫感だったからだ。
だから、それ程の存在感を放つ魔物が、自分に明確に敵意を向けてきた時の威圧感は半端じゃない。
今からこいつと戦うのかと思うと腰が抜けそうだった。でもここで逃げて海翔に死なれる方がもっと怖いし、そうなったら...俺はきっと自分を許せない。
「ブモォ!!!」
「ッ!」
こちらを向いたミノタウロスは先ほど見た横方向への薙ぎ払いをしてくる、とっさにしゃがむと頭の上をえげつない風圧が通過していく。直撃していたらと思うと冷や汗が止まらない。
「ろっ...
今の俺がするべきことはとにかくあいつから注意を引くこと。海翔さえ体勢が整えばまた戦える。一発食らえば即退場、と緊張しながら魔法を連射する。
だが現実は非情で、レベル3の俺の魔法じゃ速度も威力も力不足。反応して斧ですべて叩き落としてくるから傷一つ与えることができない。
それでも魔力薬をがぶ飲みしながら魔法を連打する。ダメージが与えられなくとも注意は確実に引けている。だから海翔が死なないようにひたすらミノタウロスに攻撃を仕掛け続ける。
「
「ブモォォ!!!」
さすがに鬱陶しかったのか、怒った様子のミノタウロスは上から斧を振り下ろしてくる。見たことがない初見の攻撃パターンに一瞬反応が遅れてしまったが、とっさに後ろに下がって避けようとする。だが少し遅れた俺はギリギリ避けきれずに後ろへ風圧で吹き飛ばされる、
「う、うえっあああ!?」
壁際まで飛ばされて転がったが、立て直そうと壁を支えによろよろと立ち上がる。頭が痛くてくらくらするが、そんなことは言ってられないとミノタウロスの方を見ると、海翔の方を向いてそっちに歩き出していた。
「や、やめろ!!そっちに行くな!!」
また魔法を放ち、ミノタウロスが再びこちらを向く。
鼻息を荒くして、まだ生きていたのかといわんばかりに今度は斧をこちらに投げてきた。その速度はすさまじく、直撃すれば即死は免れないだろう。
「ろ、
とっさに魔法で盾を作ろうとしたが、先ほど攻撃魔法を連射したせいで手持ちの小石がもうないことに気づく。錬金するためには元となる触媒が必要なのは当たり前のこと。
俺が発動しようとした石盾は当然不発し、ミノタウロスの投げた斧は無情にも俺の体を粉々にする。
と、思われた。
「ぅ...え...?」
急に体の中からMPがごっそり持っていかれた感覚があり、見慣れた淡い光が後ろから差し込んできた。
次の瞬間、俺はなぜか支えを失い尻餅をついてしまう。
もう無理だ。魔法も発動しなかった上に体勢も崩してしまった、と俺は来るであろう衝撃に備え下を向いて目を瞑る。
キーーーン!!!
「っ...!?」
大きな甲高い金属音の後静寂が訪れる。
いつまでたっても来ない衝撃に違和感を感じて前を見上げると、
石盾と同じ形をしているが、色や質感がダンジョンの壁のものと良く似た盾が目の前に浮いていた。
まさか、と思い、俺が支えにしていたダンジョンの壁を振り返ると、ちょうど俺が手を置いていた位置を中心として、俺の目の前に浮いている石盾と同じくらいの大きさの空間ができていた。
「...?」
俺の目の前には先ほどまで飛来してきていたミノタウロスの斧が転がっている。
そこでようやく、俺がダンジョンの壁を触媒にして盾を錬金し、先ほどの金属音はミノタウロスが投げてきた斧をこの盾が弾いた時の音だったことに気づく。
『ダンジョンの壁は壊せねえんだ』
ふと海翔が言っていたことを思い出したと同時に、一つのアイデアが浮かぶ。
「これ...攻撃にも...」
「...っ!」
またMPが持っていかれた感覚とともに、俺の手の平から勢い良くダンジョンの壁製の
「ブモォォォ!?」
「ダメージが通った......!」
ミノタウロスが肩から血を流し苦しんでいる、と初めて有効打を与えた手応えを感じつつ、海翔の方を見れば、すでに体勢を整えていた。
ミノタウロスの方に目線を戻すと、肩を抑えながら片膝をついている。あいつは攻撃手段を一つ失ったとともに、もう俺の魔法を弾くことができない。
魔力薬を取り出し飲み干すと、海翔と目を合わせる。
その瞬間、俺たちは確信した。
いける、と
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