第1章 第6話









 時間にしておよそ数秒だったと思うが、体感的には数分に思われた沈黙の後、


「確かになーそーゆー面もあるよなー」


 空気を察したAが一瞬遅れてフォローに入った。そのおかげでなんとか空気は動き出し、別の話題へと点々と移っていったが、それでも三人の目の鋭さが戻ることはなかった。ぼくは、目を伏せながら、味のしない小さなパンをただひたすらに、まるで機械のように食べ続けた。


 ちょうどパンのストックが底をつきかけた頃、そんな視線を知ってか知らずか、副団長は急に立ち上がり、


「クラスの様子見てくる」と言って教室を去っていった。扉が閉まると同時に、教室に沈黙が訪れる。たっぷり十数秒の沈黙の後、口を開いたのはBだった。


「前から思ってたんだけどさー、Dってまじで空気読めなくなーい?さっきのやつもまじキモかったよねー。この前とかも、、、」


 ああ、またこれか。


 なんでこうなったんだ。


なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、、、


 Bの会話がぼやけていき、視界が急に歪んでいった。体が沈んでいく。どこかでだれかが、ぼくの声で無機質に叫び続けている。その声はあちこちで反響し、木霊のようにぼくに覆いかぶさってくる。ぼくはかろうじて見えている、目の前のコーラに慌てて手を伸ばし、一気に飲み干そうとした。が、


「げっほげっっほ」


派手にむせてしまった。炭酸があるのをすっかりわすれていた。なんとか抑え込んだが内側が燃えるように熱い。恥ずかしさと恐ろしさのあまり、誰の顔も見れない。


「大丈夫?」

 

 とAがすかさず心配してくれた。大丈夫とかすれ声で答えるぼくに


「ほんと?トイレ行ってきたら?顔色も悪いし」とAはさらに声をかけてくれた。


 ぼくは、顔に出さないように感謝しつつ、無言でうなずいて、席を立った。背中に向けられた視線を意識しないように、ゆっくりと扉に近づき、静かに開けた。

 扉を後ろ手にしめ、ぼくは、足早に遠ざかっていく。後方からわずかに漏れてきた声も蝉の声にかき消されていった。うだるような暑さを通り抜けるたび、からだの熱が濁っていく。ぼくは、早歩きでトイレを通り過ぎると、ただひたすらに、廊下を歩んでいった。


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