第1章 第4話


「今日なんで遅れたん?」


ぼくが息を整えながら、外を眺めていると、突然、団長であるAがにこやかに話しかけてきた。サッカーで日焼けした顔の整った口から見える歯が白く眩しく光っている。


「ごめん、、寝坊しちゃって、、、。」ぼくは申し訳無さそうに手を合わせた。


「りょーかい。今度から気をつけてな。今日はクラス班のヘルプに入ってくんない?まだ企画すらできてないみたいで。ちょっと後押しして上げてほしい。頼りにしてるよ!副団長!」


彼はそう言うと軽やかにに去っていった。


 そう言われて改めて自覚する。ぼくのクラスは副団長に一人しか立候補者が出なかったため、Aとそこそこ仲の良いぼくが指名されたのだ。仕事は、クラスと縦割りの統括と各班の補助。地味な雑用のような仕事だ。長ダンスの際も団長たちのダンスの後ろで踊るので、人気がないのもうなずける。ぼくは小さくため息を吐き、椅子から立ち上がろうとした。


「あー、あと今日もお昼にリーダー会あるから、いつもの場所来てねー」


Aぱっと振り返ってにこやかにそういった。


 ぼくは中腰のまま、こわばった笑顔でうなずいた。今のため息、聞こえただろうか。そんな不安が胸をよぎる。


 リーダー会。このリーダー会こそが、朝からの憂鬱の原因であり、盆休みの間、夏の湿気のようにぼくの周りにまとわりついてきた悩みのタネである。ぼくは頭をふって、そのことを頭の隅においやった。何か音楽でも聴きたい気分だった。だがクラス内でそんな不自然なことはできない。ぼくは、自分がずっと中腰だったことに気づくと、ゆっくりと椅子から立ち上がって、クラス長の姿を探した。


 彼は教室の後ろの方で、数人で固まっていた。ぼくが近寄っていき、声をかけようとすると、眼鏡ごしの覇気のない瞳と目があった。


「今日、ここ手伝うことになったからよろしくね~」ぼくがそう喋りかけると、彼は返事なのかもよくわからない声をつぶやき、うなずいた。


「ここにいる人がクラス班?他には?」とぼくはそれを肯定ととらえて聞き返した。


「みんな部活、、、」


 彼は、少し寂しそうな顔でそう答えた。ぼくはふへーと変な相槌を返しながら会話を続けようとした。他班に比べ、比較的夏休みに仕事がないこの班は、部活で忙しい人がかたまっているのだ。


「どこまで進んでるの~?」


「全然。今企画途中、、」


「おっけー。今日中に方向性決めちゃいたいね。みんなきばっていこー!!」


 何故かぼくが仕切る流れにしてしまった。本当に嫌な性格だ。


 話し合いは意外にもスムーズに進み、結局、ミュージカルで演じる予定となっている、不思議の国のアリスの物語の追体験ののち、物語の題名が由来となった病気を紹介する、という形になった。このように、クラス展の最後に何かしらのテーマを混ぜ込むというのがこの学校の慣習である。ふと、時計を見ると、時計の針はほぼ正午を指していた。


「もうすぐ、リーダー会だね。先行ってて、俺自販機行ってくるから。」


そうクラス長に言い残し、ぼくは教室をあとにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る