最終話 夢の果て、その跡

夢を見ていた。長い長い途方もない夢。それを追い求め続けていた。もし、それがすぐ手の届くところにあったら。多くの人は、その夢を掴もうと必死にもがくだろう。私もそうだった。だから、掴んでみせるんだ。




いつかはきっと、魔女になって。




「ねえ!昨日の山火事、見た?」


「見てない。野次馬でも行ってたのか?」


「行ってない!けど、消火するとこは見に行ったよ。滝のように雨を振らせたんだもん。すごいよね」


「おかげさんで、村にまで被害が出たけどな」


「でもでも、あそこで消してくれなきゃ、あの山、燃え尽きてたよ。魔女様様だね!」


「そうかもしれないけど。ユウナもさ、あの魔女が好きだよね。あたしには分かんね」


「いやー。だって歴史に名を残すほどの魔女だよ?それがこんな辺境の田舎にいるなんて!アユカが無関心すぎるだけだよ」


「そんなもんかね」


「あ!そろそろ魔法史の授業始まっちゃう。じゃあ、またね!」







「今日は現代における魔女の扱いについてです。前回の授業のおさらいからしましょう。100年ほど前までは法律で、魔女になることが禁じられていました。誰もその事実に異論を唱えるものはいなかったのですが、一人の少女が突如として声をあげ始めました。」


「先生!早く本題に入ってください!」


「そうですね。少し省略します。その少女の演説は、少しずつではありましたが、同じ考えのものからの支持を得て、法律改正にまで至ったのです。魔女狩り制度の撤廃です。ここ、重要なのでテストに出ますよ」


「はい!ちゃんと覚えてます」


「素晴らしい。では本日のメインです。その少女は後に魔女となり、日本の魔法のあり方を変革していったのです。魔法省の強化、魔法教育の先鋭化、魔女に対する偏見の改善など。中でも有名なのは、『魔法素質不要論』でしょうか。これにより、今までは魔法の素質がないと言われていた人々が、実は魔法が使えた、という事実が発覚したのです。彼女も元々は、魔法が使えなくて苦い思いをしていたとか」


「私もそのうちの一人です!」


「ユウナさん、少し静かにしましょう。

……これらの功績のおかげで、日本は西洋にも負けず劣らずの魔法国家となったのです。彼女の存在なしでは、今の日本は有り得なかったわけです。その栄誉を称えて、こう形容します。

東のアリス、不屈の魂。その魔女の名は──」











「──マホ!夢想の魔女マホです!」












「ユウナさんは本当に、マホがお好きなんですね」


「当たり前です!だって」


だって、私に夢を見せてくれたから。私が生まれたこの地で。


平凡な私でも、夢を見ていいんだと。そう背中を押してくれているような気がしたから。


その後に続くような、キラキラとした存在に、絶対なるんだ。

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ただの人間は魔法使いの夢を見る 玄米 @genmai1141

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