かみのこ

天西 照実

かみのこ


 日差しの暖かさを感じる季節。

 青空の公園に、木製のベンチがひとつ。


 ベンチに座る少年が話し出す。


「こんな感じで、座ってテレビ見てたの、覚えてるんだけどさ」


「いつ?」


「3歳くらいのとき。そんな前のこと、ほとんど覚えてないんだけどさ。その時のことは、すごく覚えてるんだよなー」


「ふうん」


「テレビがつけっぱなしになってて、見てたアニメかなんかが終わったところだったんだよ。次に始まったニュース番組をなんとなく見てたら、いつの間にかソファーの隣に知らない白っぽい爺さんが座っててさ」


「いや、誰?」


「知らない。なんか深刻そうな顔して『いまだ兄弟同士で殺し合っているのか』って言ってた」


「物騒だな」


「うん。で、なんとなく、テーブルに出しっぱなしにしてた昆虫図鑑を見せたんだよ。オオクワガタ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、アカアシクワガタ、コクワガタ。樹液に集まって、邪魔ならどかし合いをする。みんな似てるけど別の生き物。兄弟同士じゃないんだよって話してさ。その白い爺さん、そうかそうかって、ちょっと笑ってどっか行っちゃったんだよな」


「知らない爺さんだったんだろ?」


「うん。でも、小さい頃は時々、その白い爺さんが居るって言ってたって母ちゃんが言ってた」


「見えない友だち的な?」


「俺が覚えてるのは、そのクワガタの話をした時だけなんだけどな」


「イマジナリーフレンドって、一緒に遊んでくれる子どもって聞くけど」


「知らない爺さんが、座ってるだけだった。うちの婆ちゃんの実家、神社だから見てもらった方が良いかしらなんて母ちゃんが言ってたのは覚えてる。そんで婆ちゃんが、神社より教会が良いかもだけど、危険じゃないからもう少し様子を見てみようって言ってた。クワガタの話をした時と、婆ちゃんの話、なんかセットで覚えてる」


「ふうん。じゃあ、忘れない方が良いって事なのかもね。よくわかんないけど」


「うん。でも、時々思い出すとさ。サンタクロースの普段着って、あんなかもって思ったりするんだよなぁ」


「あはは。そんな感じなんだ」


「うん。昆虫採集セットとかじゃなくて、双眼鏡が欲しいって言えば良かったなとか思ったんだよな」


「その年のクリスマス、何もらったの」


「それは覚えてない。セイバーとかリバイスの人形じゃなかったかな」


「昆虫採集セットじゃないんだ」


「それ来るかと思ったけど、来なかったな」


「じゃあ、親戚の爺さんって訳でもないんだろうね」


「そうだな」



 日差しの暖かさを感じる季節。

 それは、ある日の日向ぼっこの記憶。


                             了

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