第2話 非日常的存在
私が応接室に着くと、そこにはセマート支部の代表メラニ・トラムがいた。メラニは女性として初の代表に選ばれただけはあり、その実力や事務能力はかなりのものだし、冒険者に対する影響力…カリスマ性とでも言おうか。それが飛び抜けている。容姿も端麗だし、問題点は殆どない。
「おせーぞ、デービィ。相変わらず時化た面しやがってよ。珈琲の飲み過ぎで下痢にでもなったかよ? あんな汚水みたいなのよく飲めるな」
この口の悪さを除けば…まあ、私は心が広い大人なのでね。このクソ女にね、何か言われたとしても気にしませんよ。ええ、しませんとも。だがこのクソ女、よりにもよって珈琲を、至高の飲み物を虚仮にしやがった。おのれ…
「用件は何ですか、レディ・トラム。貴女は私と違って暇ではないでしょうに」
私は優秀なんだ。実際このクソ女に本音を隠しながら会話ができているじゃないか。その優秀な私が飲むんだから珈琲は至高に決まっています。
「…気色悪い笑顔浮かべやがって。頼むから止めろその顔。ぶん殴りたくなっちまう」
おお怖い。最近の女性はすぐ怖い言葉を吐いてくる。これだから女性冒険者は粗暴だと言う風潮が消えないんですよ。メラニ、代表である貴女くらいおしとやかになってよいのでは?
「俺は優しいからそういうのは耐えれるけどよ。他の奴らは生理的に拒絶しちまうぞ」
ご忠告はありがたいのですが…この私の左頬を捉えてジャストミートしている貴女の右こぶしは何ですか。多分、いや、絶対に耐えれてませんよね。それに私と貴女は同格でしょうが。普通殴ります? まだ酔っ払いの方が分別がありますよ。
頬がちょっぴり痛みますが、私は優秀な男。ちゃんと会話をしますとも、どっかの野蛮人とは違ってね。
「ああ、用件だけどよ。二週間後くらいに共同で魔物殲滅作戦しようと思ってんだ」
「ええ、思うだけならいくらでもどうぞ」
「…そういや、お前んとこに貴族からの依頼入ってるだろ。多分お前んとこの戦力じゃ厳しいと思うんだけどな?」
「そうですか。後で担当の者達に話しておきますよ。」
「…」
八割筋肉の脳ミソ使ったところで意味ねえだろうが。さっさと「協力してください」、て頭下げろや。
「…クソが」
さあ、はやく、はやく。
「…セマート支部代表としてセマート、トーネットの両支部の協力を提案します」
チッ、提案か、まあいいでしょう。このクソ女に頭下げさせれなかったのが心残りですが、ここいらで手を打ちましょう。
それにしても…
「セマート支部は現在組合内において最大級の人員を持っていたはず。中堅クラスのトーネットに協力を提案とは…」
「その通りだよ。うちの次世代のホープと目してた奴がポックリ逝っちまうくらいに危険だ」
「セマート支部の期待の若手が…確かにトーネットだけでは手に余るでしょう」
これは感謝せねばならない。我々トーネット支部は人員がただでさえ精彩を欠くのに、数も足りない。
これを機に、本部お抱えの冒険者を二、三人ほど呼べる制度を提案してみてもいいかもしれないな。
「レディ・トラム、貴女のことですし、そちらの支部長だったりに話を通さずに来たのでしょう。はやく通してきてください。その間に、こちらも色々しておきます」
「おう、じゃあ一日くれ。明日色々連れてくる」
「ええ、お待ちしておりますよ」
しかし…セマートと言えば旧友ソネソマが担当していた場所。時代は流れていくものですね。
私は、すぐに担当の者に話をつけ、支部長と本部に向けた報告書を用意した。
冒険者を支える物語 週刊M氏 @kuruster31
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