樹に棲むあやかし
「ワタクシ
「ああ、ちっちゃいからな……今朝の最大風速って30m/sだっけ?」
少々時代がかった口調で話す小鳥の話す身の上は思っていたより単純だった。巣をかけていた樹が台風で倒れた上、強風で飛ばされただけ。
「ええもう、どこにでもいるごく普通の無力な鳥で……」
「……な訳あるか!!なんでルリビタキが流ちょうに人語しゃべってるんだよ!?しかも妙に時代がかってるし」
素直に納得する律をしり目に、甲斐が全力で突っ込んだ。
「さよう、ワタクシ
「つまり、明治維新より前なのね?」
のんびりとした小鳥の言葉に、甲斐がジト目で確認する。つまり、150年はこの辺に棲んでいるという訳だ。可愛い顔をして油断がならない。
「生まれつきあやかしだったの?それとも何かきっかけが?」
「さて?ワタクシ
「……なんか変な妖怪か何かを食べちゃったみたいだね」
親鳥は何も知らずに餌としてとらえたのだろう。本当にあやかしだったのかはわからぬが、うっかり食べたその『虫もどき』のせいでこの鳥はいったん死に、あやかしとしてよみがえったようだ。
「ところで、肝心の名前は?」
「名前でございますか?そのようなものは何も」
甲斐が何気なく訊いたが、小鳥は気にしたこともなかったようだ。
「お前、家がなくなって困ってるんだろう?そろそろ夜も寒くなってくるし、しばらくうちに来いよ。呼ぶのに不便だから適当に名前つけてもいい?」
「それはありがたい。これからご厄介になります」
甲斐の提案に小鳥は一も二もなく賛同した。
「それじゃ、綺麗な瑠璃色だから『瑠璃』でどうかな?」
「ルリビタキの名前が『瑠璃』ではいかにもそのまますぎる。『
甲斐の意見を尾崎が言下に否定する。
「ワタクシ
「それに呼びづらくない?瑠璃は東を意味するよね?『あずま』はどう?」
「それならワタクシ
律の言葉に小鳥は満足げにクククッと喉を鳴らすと、澄んだ声でピィッ、ピィッと小刻みに啼いた。
「こうしてみると可愛いよね。うちにも好きな時に遊びにおいで」
その後、毎日押しかけて来てはぴぃちくとさえずるあずまのやかましさに、律が頭を抱えたのは言うまでもない。
黄昏時奇譚 歌川ピロシキ @PiroshikiUtagawa
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