小さな従者
「澤地、さっきなんか変なのが落ちて来なかったか?」
次の授業が終わり、HRの支度をしていると、クラスメイトが甲斐に声をかけてきた。
「ああ、なんか毛玉みたいなの飛んできたな。何だったんだろ?」
さすがに小鳥の事を言う訳にもいかず、甲斐は適当にごまかすことにした。
「澤地拾わなかったの?」
「落っことしちゃってさ、そのまま見えなくなったし授業始まりそうだったからそれっきり」
相手は「澤地がキャッチしたように見えたのにな」と首をひねりながらもそれ以上は追及してこなかったので、甲斐も律も内心で胸をなでおろした。HRの間もあの青い小鳥がなにか珍妙な事を始めないか気が気ではない。
ようやくHRが終わり、ほっとした甲斐は律を誘って屋上に出た。
「さっきの小鳥、目を覚ましてるかな……?」
おそるおそるハンカチを取り出すと、小鳥は尾崎のふさふさの尻尾にくるまってこちらを見上げていた。温もっているのか、捕まって動けずにいるのかは判然としない。
「君は誰?さっきしゃべったよね?」
律が話しかけると小鳥は目を逸らして明後日の方を向いた。鳥なのに、ごまかそうとしているのがまるわかりである。先ほど飛び上がって天井に頭をぶつけたりと、あまり賢い方ではないらしい。
「ねえ、君。甲斐くんが君を拾わなかったら今頃凍えて大変なことになっていたんじゃないかな?」
尾崎が笑いを含んだ艶のある声で話しかけると、小鳥は目に見えてびくっと怯えた。慌ててキョロキョロしながら返事をする。
「い……いやそのワタクシは、ですね。その、あやかしが無暗に人様の前で正体を現しては人間様を驚かせてしまうかと思いまして……」
「その割にさっきはぺらぺらしゃべってたよね?」
甲斐が呆れた口調で訊ねる。
「いえそれはですね……」
「ほら、時間の無駄だから素直に自己紹介しなさい」
面倒そうに尻尾を大きく振った尾崎に促され、小鳥は渋々といったていで自らについて語り始めた。
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