青い小鳥

 授業を受けながらも、律は気が気ではなかった。

 さっきの小鳥は大丈夫だろうか?あんなにぐっしょりと濡れて、ぐったりとしていた。温めてやらないとすぐに死んでしまいそうだ。尾崎に任せておけば大丈夫という気持ちと、ついうっかり食べてしまったらどうしようという気持ちがないまぜになって、授業に集中できない。

 尾崎の事は信じたいが、土鬼の一件から彼を盲目的に信じる事はできなくなっている。その上、彼は狐なのだ。あんな小さな小鳥など、本能的にぱっくりいってしまわないだろうか?


「荻野!!聞いてるのか!?」


 教師の苛立った声で律の意識は現実に引き戻された。


「すみません、寝不足でぼうっとしてしまいました」


 素直に謝るとくすくすと笑い声が上がる。


「風の音が凄くて眠れなくて……」


「まあ、お前は普段はちゃんとしているからな。よほど台風がこたえたと見える」


 教師は苦笑して勘弁してくれた。そのまま教科書の指定された箇所を読み上げるとちょうどチャイムが鳴った。

礼が済むと、とるものもとりあえず甲斐の席へと駆け寄る。


「さっきの小鳥、大丈夫かな?」


「尾崎さんがいるから大丈夫だろ」


 甲斐が鞄からハンカチを取り出すと、何をどうやったのか小鳥はすっかり乾いてふわふわになっていた。つぶらな黒い瞳でこちらを見上げて小首を傾げる姿が可愛らしい。


「良かった、元気になってる」


「あれ?尾崎さんいない」


「あの狐ならワタクシが成敗してやりましたぞ」


 小声で囁いていると、何やら甲高い子供のような声がした。


「え?しゃべった??」


「な、やっぱりしゃべっただろ??」


 唖然としていると、どこかから尾崎が戻って来た。小さなビスケットの欠片をくわえている。


「ほぅ、誰が誰を成敗したと……?」


 かすかな笑みを含んだ、しかしどすの利いた声に小鳥が目に見えて狼狽する。慌しく首を左右に動かしてキョロキョロしたかと思うと、やにわに飛び上がってそのまま天井に頭をぶつけ、落下してきた。慌てて甲斐が受け止めると、目を回して気絶している。


「……いったい何をやっているんだこいつは……」


 律が呆れたように嘆息したところで予鈴が鳴った。

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