ひろいもの

 ゲームを切り上げた後、慌てて昼食を食べて身支度をすると、もう登校せねばならない時間になっていた。やや早足に学校に向かうと、道の向こうに甲斐がいる。


(そう言えばさっきうまく仲裁してくれたな)


 後できちんと礼を言わねば。


「甲斐、おはよう」


 声をかけて駆け寄ろうとすると、懐から尾崎が顔を出した。


「おい、こんなところで顔を出すな」


「どうせ他の連中には見えん。それより、何かいるぞ」


「え……?」


 思いがけない尾崎の言葉に戸惑って思わず辺りを見回していると、こつん、と軽く小突かれた。慌てて顔を上げると甲斐が苦笑いしている。


「こら、こんなに人の多いところで尾崎さんと話してると変な目で見られるぞ」


「甲斐、ごめん」


「まぁ、いきなり人目を気にしろと言っても無理だと思うし、少しずつ気を付けような」


 そのまま連れ立って歩き出すが、なんとなく違和感がある。


「甲斐、もしかして何か持ってる?」


「ああ、後で相談しようと思ったんだけど……さっき変なモノ拾ったんだよな。ただの小鳥っぽく見えるんだけど、なんか変でさ。尾崎さんなら何かわかるんじゃないかな?」


「どれ、見せてみろ」


 ポケットの中に移動した尾崎に言われ、甲斐がポケットからハンカチに包まれた何か青いふわふわしたものを取り出した。


「うわ、可愛い」


 差し出されたのは一羽の小鳥。ずぶぬれになってぐったりしている。胸は白く、頭から背中、翼は目の覚めるような瑠璃色。脇腹は明るいオレンジ色の美しい鳥だ。


「ルリビタキだな。台風で飛ばされたのか……そろそろ人里に降りてくる季節だ。もっとも、ただの小鳥ちゃんではなさそうだが」


 尾崎が教えてくれる。


「……え??」


「あ、やっぱり。なんか拾った時にしゃべった気がしたんだよね」


 尾崎の言葉に戸惑う律と、納得する甲斐。


「いずれにせよ、温めてやらないと凍えてしまいそうだ。小鳥は体温調節があまりうまくないんだ」


「大変……どうしよう……」


「二人ともこれから授業だろう?俺が預かって手当てしておくから、さっさと教室に行け」


 尾崎はそう言うと、のっそりとポケットから出て小鳥の包まれたハンカチに潜り込んだ。


「温めてやるから、鞄の中にでも入れておいてくれ。くれぐれも潰さないようにしてくれよ」


 律と甲斐は顔を見合わせたが、校舎から響いた予鈴の音に、慌ててハンカチをそっと鞄にしまうと教室へと駆け出した。

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