インタビューのテープ起こし 3

 はいはいこんにちは。はじめまして。

 そうね……。じゃあ、このアールグレイのホットをいただくわ。


 あなた、Oくんとは面識がないんですってね。

 聞いたわ。彼の元同僚のKさん、だったかしら? 彼のお仕事仲間だったとか?

Oくん、急に電話を寄越してきたと思ったら、私たちが何年も前に取材した●●●●●について調べてるライターがいるらしいから話をしてあげてくれって言うじゃない? 本当に急なんだから。まあ、私も新作のアイデアに行き詰まっていて、なにかヒントをもらえるかなと思ったので引き受けさせていただきました。


 あなたライターをなさってるんでしょ? 出版不況でお互い大変よねえ。私もここ最近は初版部数下げられっぱなしで大変よ。こんなおばあさんは早いとこ引退しろってことなのかしら。あらあら、冗談よ気にしないで。ふふ。


 Oくん? 私は彼が文芸の編集部にいたときに一緒にお仕事をしていたから、けっこう長い付き合いになるわ。もう20年ぐらいになるんじゃないかしら。

 とはいっても数年で彼は異動になって、ええっとなんだったかしら、ほら、あの、ホラーの。そうそう。〇〇〇〇編集部に行っちゃったから。そこからしばらくはやり取りがなかったわね。私に発注するぐらいの原稿料の用意はなかったみたいね。ふふ。

 それが、彼が今の出版社の文芸部で働き始めてからまたお仕事一緒にすることになったのよ。まあ、この業界も狭いからねえ。ご縁は大事にしないと。

 あ、そうだったわ。あなたも〇〇〇〇の取材で調べてるんでしょ? ●●●●●のこと。あれって、今は週刊なの? え? 不定期刊行なの? 世知辛いわねえ。


 えっと、何だったかしら。そうそう。●●●●●ね。

 私の本、読んでいただいたことはおありかしら? まあうれしい。ありがとう。

 だったら話が早いんだけど、私の小説、ホラーをテーマにしたものが多いじゃない?

 何十年も続けさせてもらって本当にありがたいことよね。

 えっと、確か20年ぐらい前だったかしら。当時新米、とはいってもやっとひとり立ちできたぐらいの文芸編集のOくんが、前任から引き継いで私の担当になったの。

 Oくんと次回作の相談をしていたとき、児童書の編集部からもオファーをいただいたのよ。

 学校の怖い話をまとめた児童書の企画があって、こども向けとはいえ、こどもだましなものにしたくないから、ぜひホラー作家である先生にお願いしたいって。

 そのときOくんと考えていた次回作のアイデアが「噂の伝播」をテーマにした小説でね。

 どうせなら、次回作のテーマを「小学生による怪談の伝播」にして、その児童書の取材と一緒にしちゃおうってことになったの。

 まあ結果的に、Oくんと考えていた次回作は違う方向性の話になったから、その取材はあまり関係なくなってしまったんだけどね。それはそれで面白い作品に仕上がったからご興味があればまた読んでちょうだい。

 ごめんなさい。その話は置いておくとして、私自身、児童書は書いたことがなかったし、こども向けの本を作るにはこどものことを知らな過ぎたから実地調査をしようという話になったの。

 児童書の編集部のツテで、関東と近畿の小学校3校に話をつけてもらって、実際に出向いて、生徒に取材をしたの。取材には私とOくんが行ったわ。文芸の編集者も一緒に行ってもよかったけど、あんまりゾロゾロ行ってもあれじゃない?


 その中のひとつが、●●●●●にある小学校だったのよ。


 ところであなた、幽霊って信じるかしら? そう。なるほどね。

 私? 私は、そうね、ホラー作家してるのに意外って思われるかも知れないけど、幽霊は信じてないわ。

 これは長年ホラー作家として培ってきた経験からの私の持論なんだけど、幽霊って人の恐怖心が生み出すのよ。


 もともと幽霊という存在がいて、それを見てしまった人が語ることで怪談が生まれるわけじゃないの。

 小学校の理科室で夜な夜な人体模型がダンスを踊ってたらそれこそ大事件よ。

 例えば、そうね。もともと、小学校の中に理科室という、普通の教室とは違う特別な空間がある。そういう教室は得てして特別棟のような場所にある。当然特別棟は通常教室に比べて人通りが少ない。人通りが少ないと、なにかのきっかけで自分がそこに行くとき、少なからず不安や恐怖を感じる。恐怖の正体がわからないということは、それ自体が恐怖を大きくする。その漠然とした大きな恐怖感を共有するために、踊る人体模型というでたらめの共通認識を作り上げるわけね。


 今の例では、場所を挙げたけれど、恐怖の対象はなんでもいいの。

 一時期話題になった人面犬も一説では、こどもたちの野良犬に対する恐怖心でその情報が広まったと言われているわ。

 野良犬自体を怖がってももちろんいいのよ。でも、こどもたちの中には当然家で犬を飼っていて野良犬をあまり怖がらない子もいる。そんな子に野良犬が怖いといっても理解してもらえない。だから、自分の抱える恐怖を他者に共有するための共通認識として、マスコミが流す人面犬が爆発的に広まったのかも知れないわね。

 人面犬が全国で流行ったように、恐怖の対象ってある種全国共通なの。だから、だいたいどの学校のトイレにも花子さんが出るし、病院の霊安室には死者の霊が出る。そういうものなのよ。


 恐怖の対象が全国共通であるのと同時に、時代を超えて、名前を変えて語られ続けることもあるわ。

 メリーさんは固定電話がなくなった今、携帯に電話をかけてくるし、メールで連絡をしてくることもある。それはもう、メリーさんという名前ではなくなっているのかもしれないけれど、「相手の顔が見えないコミュニケーション」に対しての漠然とした恐怖は時代を超えて残り続けているわけね。

 山、川、海についての怪談が時代を問わず多いのもそういう理由ね。人間の力では制御できない自然に対する恐怖が、その時代に合わせた様々な名前を得て語られているのよ。


 ただ、一部例外はあるわね。

 ごく狭い地域だけで知られるようなショッキングな事件が起こった場合、それは地域特有の怪談として語られるわ。●●●●●の小学校がまさにそれだったのよ。


 Kさんを通して、Oくんから私の書いた本は届いたのかしら。

 そうそう。それね。懐かしいわ。もう目を通していただいているのね。

 この「学校の九不思議」と「学校のまわりのこわい話」の中の2話が●●●●●で聞いた取材をもとに作られたものよ。

 もともと後の2話は掲載予定はなかったんだけど、ありがたいことに第1弾が好評で、シリーズが長引くと学校の中で起こった怖い話だけではネタがなくなってきちゃったのよね。だから、その巻ではじめて学校周辺まで話を広げて書いたの。そのときに掲載したから、取材したときから掲載まで時差がずいぶんあるわね。


 他の小学校で取材した内容と比べると、●●●●●は少し特殊だったわ。

 取材当時から数年ほど前にその地域で起こった事件が、学校で語られる怪談に影響を与えていたのね。

 読んでいただいた「学校の九不思議」、あれは生徒数人にインタビューをして、共通するエピソードをお話にまとめたものなの。

 生徒たちが話すもののうち、7つの怪談は言ってしまえばありがちな、大した特徴のないものばっかりだったわ。でも、必ず2つの怪談だけは最後に話すの。

 不思議に思って訳を聞くと、この2つの怪談は最近学校で流行りだしたものだっていうのね。そう、元から九不思議だったわけではなくて、七不思議だったものに最近2つが追加されて九不思議になったのね。

 その2つの怪談っていうのが、「下校のチャイム」と「あきおくん」ね。

 あとは、九不思議とは別に学校の外で起きる怪談として最近語られだしたという「ジャンプ女」と「あきとくんの電話ボックス」もあったわ。いえ、もう1つあったわ。掲載はできなかったけれど。

 私、かなり興奮したわ。小説のテーマにしようとしていた「小学生による怪談の伝播」にまさに立ち会えているわけだから。

 怪談の発祥には漠然とした恐怖が関わっているという話はさっきしたと思うのだけど、当時の私も何に対しての恐怖が怪談を生むに至ったのかを突き止めようとしたのよ。


 わかったのは、ある生徒とその親が自殺した事件ね。

 当時の新聞記事のコピーもあるわ。取材メモに挟まってたの。几帳面だとこういうときに助かるわよね。ほら、これ。

 亡くなったのは当時11歳だった〇〇あきらくん。そう「了」って書いてあきらくん。

 母親のほうは新聞記事にはなってないけれど、あきらくんが亡くなってから1年ほどで自殺したみたい。


 学校の生徒に聞いてみても、親からあきらくんの自殺のことは面白半分に話してはいけませんって言われてたみたいで、ほとんど話してはくれなかったわ。当然先生も、同じね。ただ、チャイムが数分遅れるのは本当にあるっていうことはわかったわ。


 私たちは、近所で聞き込みをすることにしたの。適当な理由をつけて、買い物帰りの主婦とかに話を聞いて回ったのよ。そういうのはOくんが上手くて助かったわ。

 話をしてくれた人の中に、たまたまあきらくんの自殺現場を目撃した人がいたのよ。

 その人は小学校の近くにあるマンションの住人で、その日も買い物帰りだったらしいわ。夕方のチャイムが鳴る中で、マンションに続く坂道を買い物袋を提げた自転車を押しながら歩いていたら、マンションの敷地内にある公園に人だかりができていたんですって。

 公園に植えられた背の高い木にこどもが首を吊っていたらしいわ。

 その下で、母親と思われる女性がこどもの名前を叫びながら、我が子を降ろそうと半狂乱で手を上にあげて飛び跳ねていたっていうのね。

 下校時刻だったこともあって、学校からマンションに帰ってきた下校中のたくさんのこどもたちがそれを取り囲んで見ていたそうなの。

 その人は大慌てで駆け寄って、こどもの中のひとりに大人を呼ぶように言いつけた後、その他のこどもたちを家に帰したそうよ。そんなむごい状況、見せられないわよね。

 パトカーと救急車が来るまで、母親は叫びながら同じことを繰り返していたみたい。降ろされたときにはもうこどもは生きているようには見えなかったみたいだけど。

 警察にも呼ばれたそうよ。なにせ、小学生では届かない背の高い木で首を吊ったのに、台がなかったんですから。でも、しばらくしてその記事が掲載された新聞には、自殺と書かれていたんですって。


 もう一人、詳しい話を聞けた人がいたわ。

 今度は母親についての話ね。

 自殺した親子は小学校の近くに住んでいたみたい。

 こどもが生まれてすぐ、父親を亡くしたらしくて一軒家に親子2人で暮らしていたそうなの。

 愛想はすごくいい人だったみたいなんだけど、少し変わっていたらしくて、宗教に入ってるなんて噂が立ってたみたいよ。だからといって特に大きなトラブルを起こすことはなかったそうなんだけど。

 こどもが自殺してしまってからは近所で会っても相当落ち込んでる様子だったみたい。まあ当然よね。

 ただ、何か月か経つと急に様子がおかしくなったらしいの。

 街中で見かけると、とても気持ちが昂ってる様子で、すごく元気に誰彼構わず話しかけたりしてたみたい。

 まあ、週刊誌とかワイドショーでも不審な自殺として、他殺説とかいじめ説とか虐待説まで色々言われてたみたいだから、街のみんなも気の毒な女性として、あからさまに避けたりはしなかったみたいだけど。

 そのうち、変なお札みたいな、シールみたいなのを貼りだしたらしいのね。自分の家の塀とか窓とかにびっしり。あるとき、ご近所さんが回覧板を持っていったら、玄関から見える家の中の壁や床や天井にもびっしり貼ってあったそうなの。

 家にお札を貼る場所がなくなると今度は街中の電柱や町内掲示板とかにも貼りだして、しまいには、街の人にお札を配り始めたそうなのよ。

 なんでも「大発見です!」とか「ご加護があります!」とか言ってね。

 もう完全におかしくなっちゃったのよね。

 それからしばらくして、家で首を吊って自殺しているのが発見されたそうよ。


 さっき、掲載しなかった話があると言ったわね。

 それがこの家の話なの。

 そんなことがあってから住む人のいなくなった家は近所で「お札屋敷」なんて呼ばれはじめて、そこに赤いコートを着た女の霊が出るって。

 その母親、よく赤いコートを着てたらしいのね。

 さすがに現実にまだある廃墟のことは書けないわよね。それに、書こうと思うと実際の事件に言及しすぎてしまう。倫理的にダメね。

 だからお蔵入りにしたの。


 実際に掲載した「ジャンプ女」も恐らくこの母親がモデルになって生まれた怪談だと思うわ。

 描写はしなかったけれど、話してくれたこどもがみんな「赤い服を着てた」って言うの。それに、ジャンプをするというところも同じね。


 あきらくんの怪談も、本当は掲載しようか迷ったんだけど、こっちはOくんと相談して掲載することにしたわ。「あきおくん」、「あきとくん」に名前を変えて。自殺した生徒である部分は削除して。


 あきらくんの怪談については、少しだけ補足があるの。九不思議に盛り込むと複雑になっちゃうから、あくまで個別のお話として書いたけれど。

 なんでも、あきらくんは「ましろさん」への身代わりにされたって言うのよ。

 そうそう。学校の九不思議に出てきた「ましろさん」ね。

 あれは、「牛の首」っていう怪談がもとになっていると思われるわね。知ってしまった人が全員死ぬから、誰も内容を知らないっていう。怪談は繰り返されるものね。

 話してくれた生徒の中で、今は卒業した兄弟がいる子から聞いたんだけど、その兄弟が言うには、あきらくんは身代わりにされて死んだそうなの。

 その「ましろさん」に見つかってしまったほかの生徒があきらくんを身代わりにして、そのせいであきらくんが死んでしまったんですって。

 あきらくんの自殺の原因が一部ではいじめによるものじゃないかと言われていたから、その影響でそんな噂が生まれたのかもしれないわね。


 あとは、もうひとつ、実はあの小学校で自殺した生徒はひとりじゃないのよ。

 私が話に聞いた中ではあきらくんのほかにもうひとりいたわ。

 その件は、同時期に全国的に大きな事件があったのと、状況的に自殺以外考えにくかったから地元の新聞にひっそり掲載されたぐらいで、あきらくんのときほど大きくは報道されなかったみたいだけど。

 女の子なんだけど、あきらくんが自殺した公園のあるマンションの屋上から飛び降りてるのよ。あきらくんの自殺の数年後に。自殺って続くものなのかしらね。

 その女の子の怪談はないのかって? ええ。ないわ。

 あきらくんと違って目撃者が多くいたわけじゃないからあまり有名にならなかったというのもあるのかしらね。

 ただ、その子が自殺した原因はあきらくんと友達になって、食べられたからじゃないかって言われていたわ。

 食べられたのに自殺ってちょっとよくわからないわよね。まあ、噂なんてそんなものなのかしら。

 あきらくんの自殺以降、「あきとくんの電話ボックス」の怪談は語られていたけど、自殺した女の子はその電話ボックスであきらくんにお願いごとをしちゃったんじゃないかって。

 確かに、人が死ぬ度に怪談が増えてたら、学校の不思議の数がどんどん増えていっちゃうものね。「ましろさん」とあきらくんの話にしても、もとからある怪談にくっつけて話すっていうのはある種合理的ではあるわね。あきらくんはそれとは別に、怪談として成立しちゃったみたいだけど。


 あきらくんの話も、母親の話も、生徒たちの間で語られているおおまかなストーリーは踏襲しているけれど、話のディティールは脚色しているわ。

 目撃者が行方不明になっちゃってたら、誰がその話を聞いたんだってなるもの。ふふ。


 私が知っている●●●●●についてのお話はこんなところかしら。

 聞きたいこと? そうねえ……。新作のヒントをもらいたいなんて言ったけれど、実は私からあなたにお聞きしたいことはないわ。

 私は同業者として忠告をしにきたのよ。

 Oくんから少しだけ内容は聞いたわ。●●●●●について共通した怪談が全国で語られているみたいね。人も亡くなっている。それには私が話した女性とこどもについての話も関係があるとか。

 それが本当だとしたらとても恐ろしい話ね。

 いいえ、あなたのことを疑っているわけじゃないわ。

 そうじゃないの。認識の問題よ。

 私は今も、幽霊は信じていないわ。でも、この件についてはあまり深く内容を聞こうとは思わない。

 理由? 簡単よ。私のこれまでの認識を覆らせたくないから。

 もし幽霊がいることを認めざるを得ないような話をあなたから聞いて、私はこれからどうやって幽霊に向き合えばいいの?


 もし、仮によ、本当に幽霊、もしくはそれに似た何かががいるとして、これは少なくとも人間にとって害になるものね。コロナウイルスと同じかしら。

 一旦関りを持ってしまったら、無差別に攻撃を開始する。被害の程度も、さまざま。とっても不条理なことね。

 幽霊がそんなものだとするなら、私は今まで取材した怪談を書くことで読者に有害なものをまき散らしていたことになるわ。

 いいえ、そんなことあり得ない。あってたまるもんですか。


 その上で忠告したいの。

 老人の戯言と思って聞いてちょうだい。

 信じていないものは、その人にとってないものと同じよ。

 私は、幽霊を信じていない。

 でも、あなたはこの件には幽霊が関わっていると思っている。

 しかも、そのもととなる正体を突き止めようとしている。

 私がやろうとした、学校の怖い話のもとを突き止める作業と、やっていることは同じでも、目的が違うわ。

 悪いことは言わないからおやめなさい。

 有名なことわざで、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というものがあるわね。

 幽霊の正体が枯れ尾花だったら一安心よ。でも、もしそれが枯れ尾花ではない何かだった場合あなたはどうするの?

 私はジャンプ女とこどもの怪談に、親子が自殺したショッキングな事件への恐怖から生まれた噂話という枯れ尾花を見たわ。でも、あなたは何を見るつもりなの?


 …………。そうなのね。やめる気はないのね?

 わかったわ。そこまで言うならもう止めません。

 

 じゃあ、私からもうひとつ、お伝えしておくわ。


 実は私の知り合いのご家族も●●●●●のダムで亡くなったの。

 確か6、7年前ぐらいだったかしら。殺人、になるのかしらね。

 旦那さんが出版系のデザイナーだったの。まだとってもお若いのに素敵なデザインをされる方で、私の本の表紙も担当していただいたことがあったわ。長野の方だったんだけど、都内に出られたときは必ず編集者と3人でお食事に行ったりするぐらいには仲良くさせてもらってたわ。

 その旦那さんが、奥さんと娘さんをダムに突き落としたんですって。

 警察も色々調べたらしいけど、結局は無理心中目的で奥さんと娘さんを殺したけれど、自分だけ死にきれなかったんじゃないかってことになったみたい。

 でも私そんなことは絶対ないと思うの。だって、奥さんも娘さんも本当に愛してらっしゃったから。

 奥さんとの間になかなか子宝に恵まれなかったみたいでね。でも、奥さんと相談して養子縁組をしたって話してたわ。実の娘か、それ以上に愛してらっしゃったわ。お写真なんかもよく見せてくれて。かわいい女の子で。

 この歳で独り身だと、なんだかお話を聞いてるうちに孫みたいに思えてきちゃってねえ。彼も、今度都内に来るときは一緒に連れてきますよなんて言ってくれてたのに……。

 偶然にも、そういうことがあったわ。偶然ね。私はそう思っています。ただ、解釈はお任せします。


 …………ところで、あなたのほうはどう? ご結婚はされてるのかしら? ああ、おひとりなの。そうよねえ、この業界は多いわよね。私も人のこと言えないんだけど。

 え? あら、そうなのね。離婚を。まあ、今の時代だと珍しくもないわよね。

 ちゃんとご飯は食べてる? ひとりだと面倒見てくれる人もいないから大変よ。その感じだときちんとしてないんじゃないの? 顔色良くないわよ。だめよ。コンビニに頼ってばかりじゃ。こんな怪談ばっかり追っかけてると気持ちも滅入るでしょう。よければ、私が知り合いの子を紹介しましょうか? しっかりしたいい子なのよ。


 あ、ごめんなさいね。ついつい立ち入った話を。歳をとると色々図々しくなっちゃっていやあね。




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